清水さん(以下清水) 森さんはボディワーカーでありながら、「食事9割、運動1割」といった主張で知られていますよね。私自身も、単に痩せるのではなく美しくありたいと思って筋トレをしているので、森さんの主張にとても感銘を受けました。
森さん(以下森) 多くの方って、消費と摂取のことしか考えてないんですよね。スタジオにいらっしゃるお客さんが「この運動って何kcal消費する?」とか「水泳とランニング、どちらのほうが痩せる?」なんてよく聞かれるのですが、そんなことは上っ面で、どうでもいいと思ってたんですよ(笑)
清水 運動を指導する方なのに「どうでもいい」というのが面白い! ただ、運動をたくさんすれば痩せると思っている方は案外多いですよね。
森 痩せるためのダイエットという意味では、運動はあくまでも刺激にすぎないのに。運動をすれば何を食べてもいいとほとんどの方が思っているんですよ。でも、ダイエットとは生活そのものを変えることで、運動は免罪符ではありません。運動の効果をきちんと得たいなら、食事を変えるべきですよ。
清水 私は、森さんの著書を読みながら、ラッキーなことに自分がわりと栄養バランスがいい食生活なんだなと気づかされました。運動を始めたときに特に不具合はなかったので、筋トレしているのに肌や髪が衰える、栄養が足りていないという人がいるのが驚きでしたね。
森 特に、食事制限をしながら運動するのは最悪です。運動で消耗するのに栄養が足りないと、生理不順や冷え、むくみなんて絶対によくなりません。
「糖質は摂らない」はムダのもと。
運動前後もきちんと摂ること
清水 では、筋トレなどエクササイズをムダにしない食事って、どういうものなのでしょう?
森 筋トレという刺激が与えられるわけですから、カラダが欲しがっているものを与えるべきです。「せっかくカロリーを消費したのに食べるのはもったいない」という方がいますが、食べないのはダメです。
清水 痩せたい、ダイエットしたいという目的で運動する方からすると、「せっかく消費したのに食べるなんて」という気持ちもわかりますが......。
森 運動というダメージを受けたら、カラダは回復しようとします。そこに、回復のための材料がないほうがもったいないですよ。
清水 回復のための材料というと、プロテインなどのタンパク質?
森 タンパク質は絶対に必要です。ただ、それがエネルギーとして使われてしまうと、結局、筋肉を作るための材料が足りなくなってしまいます。まず消費したエネルギーを補給し、さらにタンパク質をプラスするのが理想的ですね。
清水 ダイエットの敵と思われがちですが、糖質も必要なんですね。
森 はい。運動の前と後には、きちんと糖質を摂るほうがいいんですよ。食べないで走っても、カラダを壊して老けるだけですから(笑)。
清水 ご著書で「走るなら、その前におにぎりを食べるべし」といったお話があってびっくりしました。私も含め、ダイエットにぼんやりしたイメージを持っている人って、運動前後に糖質を食べるのを恐ろしいと思っていますから。
森 そもそも、ジョギングのような有酸素運動は活性酸素が溜まるので、カラダを劣化させがちです。好きならもちろんやっていいのですが、髪がパサパサになったり肌が垂れたりしないよう注意が必要ですから、やるならきちんと栄養を摂らないと。また、無理に有酸素運動をやる必要はないと思いますね。
清水 では、ジムなどでの運動のほうがおすすめですか?
森 そのほうがシンプルでいいですよね。僕自身も運動が好きじゃないので、合理的にやりたいなと思っていて。
清水 だから先生の本はすとんと頭に入ってくるんですよね。「運動って楽しいよね!一緒に頑張ろう」だと、ついていけない人がたくさん出てしまう。
森 フィットネスクラブのインストラクターなんて、みなさん運動大好きじゃないですか。でも、僕は運動が好きじゃないから、楽しさでごまかされないんですよ。スタジオレッスンとか「だまされたと思って受けてみて」と言われてずいぶん体験しましたが、楽しかったことは一度もありません(笑)
清水 最小の努力で最大の効果を狙っていらっしゃるんですよね。私も、「ムダな時間はとられたくない」と筋トレを自宅で始めたので、おっしゃっている意味がよくわかります。
森 どんなにトレーナーやインストラクターが頑張っても、日本のフィットネス人口って3%より増えないんですよ。それは「運動って楽しいよね」「一緒に頑張ろう」という雰囲気が苦手な人が多いから。僕が27冊も本を出して読んでいただけているのも、そういったところがフィットしたんでしょうね。
味覚を変えて、ボディを変える。
我慢をする必要はなし!
清水 先生の本を読ませていただいていると、"おばあちゃんのご飯"みたいな、昔の日本人が当たり前のように食べていたものがいいのかなと思わされます。
森 僕は高校くらいまで好き嫌いが多くて、すごい偏食だったんですよ。
清水 意外です! 食材ひとつにしてもこだわって選んでいらっしゃる印象なので。
森 大人になって、自分で食べるものを選ぶようになって、やっとバランスがとれてきたんです。学生の頃は安いものばかり買ってお腹を満たしていたのが、お金を稼いでちょっといい食材を買ったときに、「素材と美味しさは比例していくものなんだな」と気づいたんです。
清水 素朴な料理でも、素材がいいとしみじみ美味しいですよね。
森 ダイエットを突き詰めている人って、ともすればつまらない食事になってしまうんですよ。でも僕は、それって幸せなんだろうか?と思うんです。
清水 私も、筋トレを始めたときに食事制限をしようとはまったく思えませんでした。やはり美味しいものを食べたいですから。
森 「甘いものは止められないけど太りたくないから、ご飯を減らす」なんていう人がいますが、まったく意味がわかりませんね。チョコが好きなら、高級ないいチョコを食べればいいんですよ。その味を知ったら、安いチョコを食べたときに残念な気持ちになって、自然と「安物を食べて太る」がなくなりますから。
清水 モデルさんで「高いお菓子しか買わない」という人がいます。短絡的に禁止するのではなく、「食べてもいいけれど、いいものを少量、きちんと味わって」というのは、最高のダイエットになりますよね。
森 安いお菓子の味がスカスカに感じられるようになります。そのうち、加工食品がおかしなコクで味をごまかしているな、などもわかるようになりますし。
清水 味覚も筋トレみたいなものですね。先生が著書ですすめていらした「ぬちまーすの塩」も、食べてみたら美味しくて、ほかの塩をだんだん使わなくなりました。
森 「ぬちまーすは高い」なんて言う人もいますが、塩なんて毎日たくさん使うものでもないですし。そんな小さな金額で妥協して、自分をマイナスにもっていくのではもったいない。
清水 先生のスタジオでエクササイズをやって、食事も変えていく方はやはり効果が早いんですか?
森 ただ、僕はああしろこうしろ言わないんですよ。聞かれたら答えますが、「これを食べちゃだめ」なんて言わない。「食べてしまいました、すみません」なんて言うお客さんもいらっしゃるんですが、「好きに食べたらいいですよ」と(笑)。
清水 短期間で結果を約束するジムの真逆ですね(笑)。
森 そうです。僕は結果にはコミットしたくない(笑)。2ヵ月で結果を出そうという商品もあっていいのですが、僕は細く長く続けてほしいんです。
清水 短期的な太った痩せたの問題ではなく、ライフスタイルまで変えていくのが正しいダイエットということですね。
トレーニング後はまずサプリ。
食事はタンパク質をしっかり
清水 この記事が出る頃は、パーティシーズンになります。先走ってサンタみたいなコーデで恐縮ですが、メイクだけでなく筋トレで、ボディを整えたいのはもちろん、さらに体のツヤ感を高める食事についてお聞きしたいです。
森 まず、トレーニングの後はカラダが求めていますから、きちんと栄養を摂ること。ただし、血液が筋肉で使われているので、トレーニング直後は内臓の動きが悪いんです。
清水 というと、トレーニング後すぐの食事はよくないということ?
森 食事はトレーニングから1時間あけたほうがいいですね。ただ、サプリメントなら消化に負担をかけないのでむしろおすすめ。
清水 先日スポーツウエアを買いにいったら、そこの店員さんに「食後30分以内に食べたほうがいいですよ!」と勧められたのですが...。
森 カラダの栄養に対する欲求が高いタイミングではありますが、30分以内の食事は消化の負担になります。僕のところでも、トレーニング後に無理してサラダチキンを食べて、気持ち悪くなっていた女性がいました。無理して食べるより、糖質を混ぜたプロテインを飲むほうが理にかなっていますよ。
清水 プロテインのおすすめはありますか?
森 うちのスタジオでもオリジナルを作っていますが、どこのものでもいいと思いますよ。うちのものは人工甘味料を入れずに、天然素材で風味をつけていますが、これも好みだと思います。プロテインにはホエイ(牛乳由来)とソイ(大豆由来)あって、吸収が早いのはホエイですね。ただ、筋肉は運動後48時間は修復の方向に向かうので、長く血中にとどまるソイのほうがいいという考え方もあり、どちらがいいと一概には言えません。
清水 運動後、48時間ずっと筋肉を作ろうという指令が出続けるんですね。
森 はい。だから、回復中にまたトレーニングをするのは負荷オーバーになりやすい。トレーニングは2日置き、回復が早い人でも1日あけたほうがいいと言われるんです。
清水 トレーニング後は、まずサプリを飲むと効率がいいんですね。その後の食事はどうですか?
森 1〜2時間したら、食事を摂ること。血中のアミノ酸(≒タンパク質)が足りないと筋肉が分解されてしまうのですが、プロテインはすぐに吸収が終わって体内からなくなってしまいます。そのタイミングで食事を摂ると、固形のものがゆっくり消化されて血中にアミノ酸が常に満たされた状態になります。
清水 固形のもの......。よく「手のひらサイズのお肉」なんて言いますよね。
森 はい。「体重1キロにつき、1日に1gのタンパク質」というのが目安です。50キロの方なら50gですね。
清水 50gのタンパク質と聞くと、案外少量に思えます。
森 でも、100gのお肉を食べても、摂れるタンパク質は20g程度です。
清水 なるほど! 水分や脂質など、タンパク質以外の成分が多いんですね。
森 ですから、成人なら1回の食事で100gのお肉もしくはお魚を摂るのが理想的。定食についているお肉やお魚がだいたい100gくらいです。
清水 そううかがうと、タンパク質が足りてないという方が多いのも納得です。よく忙しいダイエッターがやりがちな、「ブロッコリーとコンビニのサラダチキンしか食べない」みたいなのはどうでしょう?
森 おすすめできませんね。脂質はホルモンや皮脂の分泌に関わる大切な栄養素ですが、そんな食事では脂質が不足します。髪や肌に潤いがなくなるので、油もきちんと摂ること。
"駆け込みダイエット"は
水分が抜けるだけ!
清水 もうひとつ、イベント前のボディメイクはどう思われますか? 「来週はパーティだから、ちょっと痩せておきたい」という女性は多いし、そういう企画もしばしば目にします。
森 急なダイエットは、テストの一夜漬けみたいなもの(笑)。慌てて食事を控えても脂肪は1kg7200kcalもありますから、そんなにすぐに減りません。1時間走っても脂肪が20g減ればいいほうですし、落ちている体重のほとんどは水分なんですよ。
清水 そういった数字に一喜一憂しても仕方ないというわけですね。
森 はい。特に体重に振り回されるのは意味がありません。たとえば「数年前より3キロ太った。増えた3キロを減らしたい」なんていらっしゃる女性は多いんですが、筋肉が少ないのに体重を落とすのは論外です。体脂肪率が高い方は、体重を落とすよりもまずは食べること。小さいエンジンのままでは頑張れませんから、「まずは体重が増えるくらい食べてください」というケースもしばしばです。
清水 嫌がる女子もいませんか?(笑)。
森 確かに嫌がりますが、ちゃんと説明すれば納得してもらえますよ。そもそも食事制限で痩せるのは、太りやすくリバウンドするカラダを育てるようなもの。運動という刺激があって体重が増えるのなら、筋肉も増えているからむしろスタイルはよくなります。
清水 「女性はムキムキになりませんよ」とトレーナーさんがいってくれたのですが、その人のイメージする女性の理想の体が、女性が求めている理想とズレがあるのを感じたことがあります。極端なことを言えば、皆んな女性は峰不二子になりたいか?といえば、そうでない。
森 女性だって、筋トレのやり方によっては太くなりますよね。ボディビルダーやトレーナーの目から見たら「これはムキムキじゃない」と思うのかもしれませんが、一般の方とは感覚が違うことが少なくない。
清水 そうなんです。筋トレも美意識です。ゴールのイメージは、言葉にならないけれど、どんな女性も持っている。そのすり合わせが出来ないと、ゴールも見えない。海外では、そこらへんきっちりしてるんですよね。
森 指導している側も、雰囲気で言っていたり定説を繰り返していることがありますからね。スクワットひとつにしても、間違ったやり方ではひざを傷めたりへんな筋肉がついてしまう。
清水 なるほど。ぜひ、次回は具体的なトレーニング方法を教えてください!
取材写真/ 高村 瑞穂 ヘアメイク/千葉智子(ロッセット)
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森拓郎(もりたくろう)先生
ボディワーカー。加圧トレーニングインストラクター、BodyElement Pilatesマスタートレーナー、指針整体師、美容矯正師、FNC認定パーソナルトレーナー、コーピングコーチ、Bodykey®インストラクター、MasterStrethc®インストラクター。スタジオ『rinato』主宰。アスリートや女優、モデルからの指名も多く、美しいボディを育てるメソッドは随一。『オトナ女子のための食べ方図鑑』(ワニブックス)など著書多数。『rinato』
清水久美子(しみずくみこ)さん
スタイリスト、ファッションディレクター。ラグジュアリー雑誌や広告で活躍中。クリエイティブディレクターとして商品企画やファッションにまつわる講演なども多数手がける。エレガントな王道のおしゃれにモダンさを加えたみずみずしいスタイリングには多くのファンが。年齢を重ねても美しく、さらに格好よく過ごすための着こなしを提案し続けているファッション界のパイオニア。