近頃はだれもがスマホ画面に釘づけになっていることは、いまさら統計を持ちだすまでもありませんが、ちょっと見てみましょう。ピュー研究所によると、アメリカの成人の92%が携帯電話を持ち、そのうち90%は常に手もとに置いている、そして3人に1人は決して電源をオフにすることはないとのことです。
画期的で革命的なテクノロジーは、私たちの仕事や産業、生活に多くの変化をもたらしました。しかしその一方で、認めたくなくても、テクノロジーのせいで私たちは不安になったり、生産性が低くなったり、つねに注意力散漫になってしまったことも事実です。
カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校の名誉教授で過去に前心理学科長も務めた、そして近刊予定の『The Distracted Mind: Ancient Brains in a High-Tech World』(「雑念:ハイテク世界における古代の脳」の意)の著者でもある心理学者、ラリーD.ローゼン(Larry D. Rosen)博士は、私たちがテクノロジーに 絶えずさらされることで、”つねにつながっていなければならない”という新しい形の不安を生み出したと述べています。
「携帯電話は、着信音や光、振動など、あらゆる手段で私たちの注意を引こうとします。そして私たちは常に次の通知を待っている状態なのです。パブロフの犬と同様に、私たちはゆっくりと、しかし確実にスマホの着信音に慣らされていくのです。」とローゼン博士。
「音がするたびに、脳内でわずかなコルチゾールやドーパミンが放出され、メールなどのメッセージが来るたびストレスを感じたり、幸せを感じるようになります。そして、知らず知らずのうちに、私たちはもっと早く反応しなければ…となっていくのです。」
ちょっと買い物に出かけるときに家に携帯を置いていくことが許されたのは遠い昔の話だと。今は、メールの返信が遅いと、何か悪いことを言ってしまったのでは…と心配になってしまいます。
ローゼン博士いわく、心配性の人たちだけではなく、すべての人々が携帯電話に対する不安を感じているのです。
では携帯電話が引き起こす具体的な事例とその対処法について紹介していきましょう。
01.バッテリー残量が少ないことへの不安(LBA:ロー・バッテリー・アンザイエティ)
総合家電メーカーLG社が行ったアメリカのスマホユーザー2,000人を対象にした最近の調査によると、90%の人が携帯のバッテリーの残量がすくないことに対する不安を感じているといいます。そういう人々は、通信できなくなる不安から、携帯電話のバッテリー残量が20%を下回るとパニックになると回答しています。「それはパニック状態です」とローゼン博士はいいます。
「あとで充電できるとは考えられず、充電なしでどうつながっていられるかわからなくなってしまうのです。」
LBAの主な症状に、見ず知らずの人にまで充電器を借りられないかと尋ねるというものがあります。「この不安を抱える人の行動を観察すると、彼らはひどい強迫観念にとりつかれているように見えます」とローゼン博士は述べています。
02.幻想振動症候群(ファントム・バイブレーション・シンドローム)
ポケットのなかで携帯が振動したと思って、電話を取りだして確認してみると、どこからも着信がなく、錯覚であると気づく。「10年前ならポケットの中がごそごそと感じたら、手を伸ばしてそこを掻いていたでしょう。今は、ポケットに携帯を入れていないことがわかっていても、それがかゆみだとは考えないのです」。
ゆっくりとしかし確実に、幻想振動症候群に蝕まれていると博士は言います。最近の調査では、常につながっていることを心配すればするほど、かゆいだけなのにスナップチャットの通知やメール着信と錯覚しがちであることが示唆されています。これは「着信音依存症(リングザイアティ)」とも呼ばれます
03.携帯電話依存症(ノモフォビア)
携帯が手もとにないことに不安を感じるとすれば、それは携帯電話依存症です。2015年の調査で、この恐怖心を測定するためのアンケートが作成され、「スマホを使いたい時に使えないとイライラする」や「スマホが手元にないと、家族や友人とすぐにコミュニケーションできず不安などの項目に同意する比率が高いほど(まさに私たちのことですね)、より携帯電話依存度が高いということがわかりました。
2015年に行われたもうひとつの調査では、このコンセプトをもとに、iPhoneユーザーを小さなグループに分け、鳴っても無視して文字探しパズルをやる実験をしました。パズルの出来が悪くなると感じながらも、電話が気になって心拍数や血圧が上がりました。
04.見逃してしまう、取り残されてしまうことへの恐れ(FOMO:フォーモ)
見逃してしまうことへの恐怖が、スマホのそもそものストレス要因かもしれません。ソーシャルメディアの投稿、例えば入手困難なチケット、家族との贅沢なディナー、孫がはじめて歩いたなど、どんなことであれ、それに関わりたいと思ってしまうことが引き金になっています。
ローゼン博士の研究では、8週間にわたり大学生のスマホ利用について調査しました。平均して、学生たちは電話を1時間に4回、1回につき4分を費やしていました。
なぜそんなに焦っているのでしょうか?「私たちは見逃してしまうことを恐れているのです」と博士はいいます。友人や家族の生活のインスタ映えする画像と自分の生活を比べるのは当然です。そしてそれが嫉妬心や果てはうつ病につながることもあるのです。そうした暮らしをしていると次に起こるのは、一番先に「いいね」をしたり、投稿にコメントすることを目指すようになるのです。
「つねにつながっていると、独創的な考えを自ら生みだす機会も失われてしまいます。私たちは友人や家族との絆を深める時間を自ら失っているのです。なぜなら、何が起こっているのか、スマホでチェックするのに多くの時間を費やすので、実際の彼らの表情を読み取ることができなくなっているからです」とローゼン博士はいいます。
そうした感情に訴える時間を失うことで、コミュニケ-ション能力は低下します。また、着信音をオンにしたまま携帯を枕元に置いていると、睡眠サイクルは完全に破壊されます。でもこんな恐ろしい話を聞いても、じゃあ控えようとはなかなかならないのです。
でも幸い、ちょっとのことが大きな改善につながることもあります。
ローゼン博士が提案するのは、まず携帯をチェックする時間を決めること。難しいことではありません。15分間タイマーをセットします。携帯電話をサイレントモードにして、画面を下にすれば通知を見れなくなりますね。タイマーが鳴ったら、2分間携帯で自分の見たいものを見てください。そして、これを繰り返します。「これが上手く行くようになると、(まるっと1週間くらいかかるかもしれませんが)アラームが鳴ったらそれを止めてまた仕事を継続すればよいのだと気づくようになりますとローゼン博士は言います。そうしたらタイマーを20分、25分、さらには30分へと延長するのです。
30分までアラーム時間を延長することができたら、「ほんとうに上手くいっているサインです。倍の時間を我慢することができたのですから」とローゼン博士。頻繁にやりとりをする人たちに対して、自分は30分おきにしか携帯電話をチェックしないので、その間しか反応できないと伝えましょう。
その状態に違和感を覚えなくなったら、自分の自由時間にも同じルールを適用しましょう。
ローゼン博士によれば、「セブン・トゥ・セブン」ルールを採用している企業もあるようです。従業員はいつでも電子メールを送信できますが、相手は午前7時から午後7時の間にしか読まないと認識しておくというものです。そして寝る1時間前には(もう次になにを言おうとしているかはわかりますよね)携帯電話の電源をオフにして、別の部屋に置きましょう。「難しいこととは思いますが、深夜に携帯電話をチェックすると睡眠が損なわれるのです」とローゼン博士はいいます。さらに、博士は「目覚まし時計の代わりに携帯を使う必要はない …。目覚まし時計なら99セントショップで売っています」と。
Sarah Klein/4 Ways Your Phone Is Stressing You Out?And How To Take Back Control
訳/コニャック 編集/長井紅美
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