ピーナッツバター嫌いが一変した出会い
Photo by. 柳詰有香 Yuka Yanazume写真は、Alaska zweiのバナナ&ピーナッツクリームサンド。 定番の人気メニューで、わたしも大好物です。しかし、長い間、「ピーナッツバター」はどちらかというと苦手な食べ物でした。 独特のにおいとクセがあって、後味が重い、そんなイメージがありました。ところが数年前、千葉・九十九里のピーナッツを使ったピーナッツペースト(柔らかなピーナッツバター)を食べて、価値観は一変!
そのままスプーンで口に運んだら、ふわり鼻に抜けるいい香り。 嫌なえぐみは一切なく、何より、無糖なのに“甘い”。 原材料は落花生=ピーナッツだけなのに、優しい甘みの奥にほんのりと塩味も感じる不思議。なぜこんなに美味しいの!? もっと早くこの子に出会いたかった……。
(C)bocchiおいしさの秘密を知りたくて、ピーナッツ製造・販売をされているBocchiの三代目・加瀬宏行さんにピーナッツのいろはを教えていただきました。
畑で生まれる甘み。「ぼっち」の秘密
掘り起こされたばかりのピーナッツ (C)bocchi殻をまとったピーナッツがどのようにできるか、ピーナッツ畑を見たことがないわたしには想像がつきませんでした。
まず、掘りたてのピーナッツの姿に驚きました。一株一株にこんなにもびっしりなっているとは! 夏の時期に黄色い花を咲かせるピーナッツ=落花生は、受粉すると花の下の子房柄と言われる部分が伸びて地中に潜り込み、地中で結実するとのこと。 収穫期(日本では8〜10月)の短い間だけ、掘り起こして洗い、すぐに茹でて食べることができるそうです。わたしも、掘ってすぐに茹でた“茹で落花生”をいただいたことがあります。煎り落花生とは異なるホクホクやわらかなおいしさは忘れられません!
しかし、掘りたてのしっとりと水分を含んだ状態は傷みやすいため、すぐにひっくり返して10日から2週間かけて地面で干され、その後円筒状に積み上げられて1~2カ月間、風に当ててゆっくりと自然乾燥されたのち、ようやく出荷されるそうです。 この円筒状に積み上げられた落花生は、千葉の産地では「ぼっち」と呼ばれる風物詩。 加瀬さんのピーナッツのブランド名(Bocchi)の由来でもあるこの“自然乾燥”が味を左右する大きなポイントとのこと!
「ぼっち」で自然乾燥されているピーナッツ (C)bocchiピーナッツという“種”は、掘り起こされ乾燥が始まったその瞬間から、自らの遺伝子を残すために発芽させられる状態を保とうと、デンプンをショ糖に変化させるとのこと。 振ると殻の中でカラカラ音がするほど乾いていても、地中に植えれば発芽するそうですが、このときに生成されたショ糖こそ、食べた時の甘みのひみつ。アメリカなどの大規模産地では結実したら大きな機械で掘り起こされ、畑で干すなどということはせずにすぐに工場へ運び、焙煎されるそうです。
さらにBocchさんでは、畑から届いたピーナッツを商品にあわせた丁寧な製法で加工するため、その甘みや味わいがより凝縮されたピーナッツペーストができるのだとか。 現在広く世界中で栽培されているピーナッツの多くが大規模栽培のため、 人力で掘り起こしてゆっくり干す伝統が残る日本は、貴重な生産地ですね。
「ぼっち」が、千葉県産のピーナッツペーストの、無糖なのに感じられる特別な甘みを作ってくれているのだと知り、農家さんが何年先も「ぼっち」を積み上げられるよう応援したい、次の夏は必ず、「ぼっち」を拝みに行こうと思いました。
ピーナッツのプロから学ぶ、おいしい食べ方
(C)bocchi「ピーナッツは万能調味料ですよ!」と加瀬さん。さすが、ピーナッツのプロは、おいしい食べ方をたくさんご存知です。 写真は、ある日の加瀬家の昼食。 冷やしうどんのつけダレにピーナッツペーストを加え、トッピングにも砕いたピーナッツ。 なるほど、胡麻ダレのうどんに胡麻をふるイメージでおいしい味を想像できます。 作ってみたい!
(C)bocchi (C)bocchiカレーに混ぜたり、砕いたピーナッツは焼きそばやサラダにかけたり、加瀬家の食卓にはいつもピーナッツがあるそうです。 写真のメニューはハムなどが使われていますが、野菜の旨みにピーナッツのコクが加わればリッチな味になるため、お肉を入れなくても大満足の一皿になります。丁寧に作られたピーナッツの甘みと香りをダイレクトに味わいたいから、まずは、ぜひVegan料理に使ってください。
いつものおひたしに、昆布だしと少しのうすくち醤油にピーナッツペーストを加えるだけで ちょっとリッチなおつまみが完成しますよ!
一般社団法人全日本落花生協会によると、ピーナッツにはビタミンEをはじめアルギニンやプロリンといった美肌成分が豊富に含まれているそうなので、美肌習慣にもよさそうです。わたしも、引き続きお世話になります!
Vegan(ヴィーガン)とは、完全菜食。 動物性のものを一切使わないライフスタイルや、そのような食事のことをさす言葉。 本連載『TOKYO VEGAN』では、おうちでつくれるVeganレシピのほか、おいしい野菜や調味料、世界のVegan事情についてなどをゆるゆると綴っています。Vegan(ヴィーガン)とは、完全菜食。
次回は、近年の人気スポット・台湾のVegan事情をレポートします。
Profile:大皿彩子 Saiko Ohsara
Alaska zwei 店主 / 株式会社さいころ食堂 代表 "おいしい企画"専門のフードプランナー。VeganカフェAlaska zweiの運営のほか、食に関わるブランドプロデュース、レシピ開発、空間コーディネート、イベントのトータルコーディネート等を行う。 saikolo.jp