最近、ちょこちょこ耳にするようになったFemtech(フェムテック)、2025年までに5.5兆円規模にまで成長すると見込まれている(※)注目の市場です。
Femtech とは、Female(女性)とTechnologyをかけあわせた造語。月経管理アプリなどで、すでにFemtechを暮らしに取り入れているという人も多いでしょう。
Femtechが私たちの生活をどう変えていくのか? テクノロジーによって、女性に特有の悩みや健康課題は解決するのか? 多角的に探るイベントが開催されました。前編はこちら。
最前線で活躍するFemtechプレーヤーたち。そのサービスとは
産婦人科医の宋美玄先生をゲストに迎えて、「女性ホルモンとFemtech〜ティースプーン一杯に踊らされる人生〜」をテーマにトークセッションが行われた第一部(前編)。モデレーターはFemtechの開発にも携わる株式会社ワントゥーテンの中間じゅんさんが務めました。
第二部のテーマは、「女性特有のウェルネス課題をどのようにテクノロジーが解決しているのか? またはしていないのか?」。
Femtechサービスの最前線で活躍する荻野みどりさん、入澤諒さん、田中彩諭理さんに加え、一部のスピーカーの宋先生も飛び入り参加! モデレーターは、Femtechを始めとしたスタートアップ企業を支援する高松祐美さんです。
壇上に並んだ顔ぶれからも、Femtechにはさまざまなサービスがあることがわかります。
母乳に着目した、母親のための新サービス
ブラウンシュガー1ST、Bonyu.labの荻野みどりさんココナッツオイルブームの火付け役となった株式会社ブラウンシュガー1STの代表としても知られる荻野さんは、2018年に株式会社Bonyu.labを設立。母乳の栄養成分をチェックし食事のアドバイスを送るサービス「BONYU.CHECK」を手がけ、β版をリリース。今年7月には本製品版をローンチしました。
荻野さんは母乳に関するサービスを展開していますが、授乳の多様性についても伝えていきたいのだとか。
「ちょうど昨日、渋谷で『おっぱいフラッシュモブ』という集団授乳するイベントを開催しました。『世界母乳の日』に合わせ、授乳の多様性についてみんなでもっとオープンに話し合おうよというスタートの会です。
粉ミルクをあげている人がいたり、パパがあげていたり、母乳をあげている人もいたり。みんなそれぞれのやり方があってもよくて。粉ミルクや液体ミルクなど母乳以外の選択肢があってもいい。どれも、自信をもって選択する自由が全員にあるはずです。
ただ、母乳について話をするのは日本ではまだ時期尚早と考えているので、大前提として、いろんな授乳の形があって、全部OKだよねというところから私は始めたいなと思っています」
精子のセルフチェックツールで、男性も一緒に妊活する世の中に
リクルートライフスタイルの入澤諒さん入澤さんは、生理日や排卵日予測など体調管理ができるアプリ「ルナルナ」などを運営する株式会社エムティーアイに新卒で入社。現在は株式会社リクルートライフスタイルが運営する精子のセルフチェックができるツール「Seem」の開発メンバーです。
不妊の原因の約半分は男性にあると言われています。男性も積極的に妊活に参加しなければ、お金や時間がムダになってしまう、という思いがサービスの根底に。
「妊活って男女でするものですけど、妊娠・出産は女性にしかできない。だったら、男性の参加を促すことができれば、妊活においての女性のウェルネスが改善されるはず。男性向けのサービスではありますが、そういうところから大きく見たときに『femtech』って言っていただけているのかなと思っています」
また、高松さんの「テクノロジーに関わりたいという理由ではなく、世界観を表現するためのテクノロジー、ということですか?」という質問に対しては「完全にそうです」と入澤さん。
「テクノロジーは、達成したい目的とか解決したい課題のための、打ち手のひとつだと思っていて。テクノロジーじゃなくてもコミュニケーションで解決するならそれが一番はやいですし。手段やツールは何でもよくて、男性も一緒に妊活する世の中にしたいという思いでテクノロジーを活用しています」
基礎体温は寝ている間に、おへそで測る
HERBIOの田中彩諭理さん田中さんは、株式会社HERBIOの代表取締役として、おへそで基礎体温が測れるウェアラブルデバイス「Picot」と、女性のヘルスケアアプリを開発しています。
起き抜けに測るものだった基礎体温を、おなかにつけたデバイスで自動的に測ることができ、またその記録もアプリに自動的に転送されるという画期的サービス。基礎体温の概念を変えていくかもしれません。
田中さんがPicotを開発したのは、ピルを飲めなかったことがきっかけだったそう。
「私自身、PMS(月経前症候群)がすごくひどかったのですが、偏頭痛持ちでもあったのでピルが飲めなかったんです。
じゃあ、ピルが飲めないならどうやって月経を管理したらいいんだろうと考えたときに、基礎体温だと。でも、基礎体温を測るのって大変で、毎日舌下に入れながら吐きそうになっていました(笑)。お医者さんに相談しても『頑張って測って』とだけ言われるし。頑張って測っても、ズレることもあるし。どうしたものかと思って。
そのときに、基礎体温を測るのが大変だと思う私は怠惰なだけなのかと悩んだのですが、ふとみんなも同じように不便な気持ちを持っているのかもと思ったんです。 それで、なにか手助けとなるものがあればいいなと思い、簡単に計測できる基礎体温のウェアラブルの開発に至りました」
ビタミンの高松祐美さんこれに対し、高松さんから宋先生に「医師という立場から、Femtechに関してどういう見方をされていますか?」と質問があがると、「基礎体温を毎日とって、紙に書いて……などできないズボラな人でも、健康に繋げてくれる近道かなと思います」とのこと。さらに、第一部でも触れていたFemtechの可能性についても語りました。
産婦人科医の宋美玄先生「話を聞いていてすごいなと思ったのは、たとえば、今まで基礎体温は朝のワンポイントの体温だったけど、Picotなんかは寝ている間の体温が10分ごとにわかる。これによって今までわかってなかったものすごいたくさんのデータが集まって、もしかしたら将来、いま止まっている医学がもっと先にいくかもしれない。あらためて、可能性を秘めていると思いました」
まだまだ課題のあるFemtech、これからどうなる?
セッションの間、リアルタイムで参加者からの質問も受け付けながら、ディスカッションは多いに盛り上がりました。
まだ日本では認知度の低いFemtech事業には、資金調達のハードルが高くそびえていることや、テックで原因や問題を「見える化」されることで、かえって心理的にストレスを感じる可能性があるのではないかという懸念。
女性が当事者として起業家になりやすい分野とはいえ、その事情や問題を説明し、サービスの必要性を理解してもらうために相当の労力がかかること。Femtechの市場を作るためには、スタートアップだけではなく、大手企業のパワーも必要とされていること。
いま、まさに発展途上にあるFemtech。私たちの暮らしをすこやかに、心地よく変えてくれる力を秘めたものとして、ますます注目が集まることは間違いないでしょう。
前編はこちら
現代女性は生理の回数が多すぎる。医師が語る女性の悩みとこれからの解決策
【第二部スピーカー/モデレーター】
宋美玄先生(丸の内の森レディースクリニック院長) ※第一部から引き続き登壇
荻野みどりさん(株式会社ブラウンシュガー1ST 代表取締役社長/株式会社Bonyu.lab 代表取締役)
2018年に自宅で簡単に母乳の栄養状態を確認できるサービス「Bonyu Check」を提供する、株式会社Bonyu.labを創業。CES2019(米国・ラスベガス)に出展、海外メディアからも注目を集めている。また、「8/1 #おっぱいの日」を運営する、あの手この手子育て実行委員会を主催。
入澤諒さん(株式会社リクルートライフスタイル 事業開発ユニットプロデューサー)
大学卒業後、株式会社エムティーアイに入社。 女性向けの健康管理サービスの企画・プロモーションのディレクションや遺伝子検査サービスの立ち上げを担当。2014年にリクルートライフスタイルに入社し、新規事業開発部門に配属。 新規事業として『Seem(シーム)』を立ち上げ、現在はSeem事業全体の戦略策定からUXの検討、プロダクト開発までを担当する。
田中彩諭理さん(株式会社HERBIO 代表取締役)
大学・専門職大学院と臨床心理を専攻し、女性心理について学ぶ。 人材会社にて新規事業を、教育系ベンチャーにて新規事業立ち上げを担当し、営業管理、経営企画に就任。 自身の経験を元にしたヘルスケアIoTを実現すべくIoTベンチャーにてカスタマーサポート、物流交渉、製造調整、経営企画等コーポレート全般を担当し、コーポレートマネージャーに就任。 2017年9月にHERBIOを研究者と共に設立し、代表取締役就任。基礎体温ウェアラブルデバイスと女性専用の体調管理サービス「picot」の開発に携わる。
高松裕美さん(ビタミン株式会社 CEO)
元美容師、25歳でベンチャー業界へ転職。株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ:東証一部上場)の創業メンバーとして代表取締役COOに就任、組織・ビズ側を統括。2014年、同社の株式会社じげんへの約20億円でのM&Aを経て退任。2015年12月ビタミン株式会社を設立し、スタートアップのサポートを行いながらエンジェル投資家としても活動中。日本におけるfemtechや、女性のヘルスケア市場の成長速度のスピードに課題を感じ、femtechの認知活動をライフワークとしている。
※Femtech—Time for a Digital Revolution in the Women’s Health Market (FROST & SULLIVAN)
撮影/中山実華、取材・文/浦上藍子