自分の脳の使い方、知ってる?

仕事がデキて、プライベートも充実、人間関係も良好......。理想的な自分はどんな人? それ、脳が変わると簡単に実現します。

では、どうやって脳を変えるの? じつは、脳は"セルフデザイン"できるのです。理想の自分になるための脳の作り方を、医学博士で脳画像診断医の第一人者である加藤俊徳先生に伺います。

自分の脳の状態を簡単に知る方法

私はクリニックで、脳の画像診断を長年行っています。脳の画像を見ると、その人がどのような思考回路で普段の生活をしているのか、どんなことが苦手なのかだいたいわかります。それほどに、脳は個性的で、嘘をつきません。

自分の脳がどうなっているのかは、画像診断をするとはっきりとわかります。しかし、みなさんすべてが画像診断できるわけではありませんので、画像を見なくても大まかに知る方法をご紹介しましょう。それは、「自分が得意なことと、苦手なことを知る」ことです。

たとえば、喋るのは得意だけど、何かアイデアを考えるのは苦手とか、運動は好きだけど何かを覚えるのが超嫌い、など。自分が得意なこと、苦手なこと、好きなこと、嫌いなことをリストアップしてみてください。それはそのまま脳のクセであり、自分の今の脳の状態を示しています。その「得意不得意リスト」をどう読み解くのか、このあとに解説します。

8つにわけられる脳の役割

まず、脳の仕組みについて簡単に説明しましょう。脳は1,000億個以上の細胞で構成されていますが、同じような働きをするいくつかのまとまりにわけることができます。それぞれが連携し、機能しているのです。

よく知られているのは「右脳」と「左脳」です。さらに、頭部の「前方」にまとまっている4つの機能と、「後方」にまとまっている4つの機能に分かれます。左と右、前と後ろですね。前方の脳は主にアウトプットに関わる機能を持ち、後方のは、主にインプットに関わる機能を持っていると覚えてください。

わかりやすくするために、その8つの機能を「脳番地」と呼びます。

思考系脳番地......物を考えたり判断に関わる 感情系脳番地......好き嫌い、うれしい、悲しいなど感性や社会性に関わる 伝達系脳番地......話す、伝える、文章を書くなどコミュニケーションに関わる 運動系脳番地......体を動かすこと全般。指先が動く、口元が動くなどにも関わる 理解系脳番地......入ってきた情報や物事を理解し、役立てることに関わる 聴覚系脳番地......言葉や音などから情報を得ることに関わる 視覚系脳番地......目で見たものから情報を得ることに関わる 記憶系脳番地......物を覚えたり、思いだすことに関わる 1、3、4は、前頭葉にありアウトプットに関わる 5〜8は、その他の場所(後方)にありインプットに関わる 2の感情系脳番地のみ、アウトプットとインプットの両方に関わる

このように、脳は8つの機能が連携して、さまざまなことに対処しています。たとえば、「言葉を話す」という行為は、脳の中で以下のような連携が行われています。

(5)「理解系」で理解し、(8)「記憶系」から情報を引っぱってきて、(3)「伝達系」を経由し、(4)「運動系」で口からしゃべる、というメカニズムです。

普段何気なく行っている行為はすべて、8つの脳番地のいずれかを使い、私たちは生きているのです。

感じのいい人は、脳をまんべんなく使っている

ところで、あなたのまわりに「感じがいい人」と「感じが悪い人」がいませんか? その違いは、脳の画像にはっきりと現れます。

包容力があり、人格者の人は相手に安心感を与えますが、そういう人の脳は、8つの脳番地がまんべんなく使われているのです。

逆に、不安を与える人は脳の使い方のバランスに偏りがあります。極端に使っている脳番地と、休眠中の脳番地があるので、そういう「アンバランス脳」の人に会うと、人は何か嫌な感じを受けるのです。脳の画像診断からも、脳の使い方が似ている人は行動パターンや考え方が、よく似ているのがわかります。

脳の使い方が偏るのはなぜ?

では、なぜそのようなアンバランスな脳が作られてしまうのでしょうか。

それは、「得意なこと、好きなことはする。苦手なこと、きらいなことはしない」からです。

みなさんも、思い当たることがありませんか? 運動が健康にいいとわかっていても、疲れているからジムをさぼる。映画を見るのは好きだけど、読書はあまりしない。旅行などの手配は、面倒なので友人に任せてしまう。 運動が嫌いな人は、運動系脳番地が未発達です。映画が好きな人は視覚系が発達し、読書が苦手な人は理解系が弱い。旅行の手配は複雑で、また判断も必要なので思考系が弱い人には苦手です。

このように、脳が弱い部分=苦手なことなので、ついつい避けてしまいがち。すると、得意な脳番地はどんどん育ち、使わない脳番地はあまり発達しないため、アンバランスな脳になっていくのです。

これらの脳の成長具合を「枝ぶり」と呼びます。使っている脳は神経回路がどんどんつながり、画像を見るとまるで枝が伸びていくように見えるのです。一方、使われていないところは画像では白く見え、枝(神経)が育っていないのがわかります。この枝を成長させていくことが大切になります。

さて、「得意不得意リスト」を作った人は、得意なこと、苦手なことがそれぞれどの脳番地に当てはまるか、チェックしてみましょう。以下は、リストの一例です。

【得意リスト】

アイデアや企画を考えるのが好き → 思考系が強い(抽象的なことを考えられる) 表情豊かな方だと思う → 感情系が強い(喜怒哀楽がはっきりしている) 説明や文章を書くのが得意 → 伝達系が強い(コミュニケーション上手) フットワークが軽い → 運動系が強い(体を動かすことが苦ではない) 場の空気を読むのが上手い → 理解系が強い(状況を瞬時に推察できる) 上司の指示に的確に対応できる → 聴覚系が強い(一度言われたことはインプットされる) 絵を描くのが得意 → 視覚系が強い(目からの情報を的確に把握) ダンスが得意 → 記憶系が強い(動きを記憶している)

【不得意リスト】

大勢よりひとりが好き → 思考系が弱い(複数の人の意見の優先順位が決められない) 日々単調で、ワクワクしない → 感情系が弱い(物事に冷めている) 人前で話すのが苦手 → 伝達系が弱い(順序立てて話がうまくできない) 細かい作業をするのが苦手 → 運動系が弱い(手先が上手く動かない) 部屋が片付けられない → 理解系が弱い(状況を区別して整理できない) 話が長い人が苦手 → 聴覚系が弱い(音から理解するのに弱い) 人によくぶつかる → 視覚系が弱い(空間把握が苦手) 冷蔵庫の中を把握できない → 記憶系が弱い(物事を記憶できなくなっている)

ちなみに現代人は、スマホの普及により「記憶系」が弱くなってきている人が増えています。スマホの中にすべての情報が入っているので、何も覚えておく必要がないからです。これはとても危険なこと。記憶系番地は、積極的に鍛えましょう。

──この記事は、2017年6月15日の記事を再編集して掲載しています。

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加藤俊徳(かとう としのり)先生
株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。米国ミネソタ大学放射線科MR研究センター研究員などを経て、1992年、脳白質線維の活動画像法を国際学会で発表し、PCローターバー博士(2003年ノーベル医学生理学賞受賞者)に認められ、その後、脳個性の可視化に成功し「脳の枝ぶりMRI画像法」として実用化。個人や企業、組織の脳教育アドバイスなども行う。『めんどくさいがなくなる脳』(SBクリエイティブ)、『8つの脳タイプ』(マガジンハウス)、『発達障害の子どもを伸ばす 脳番地トレーニング』(秀和システム)など、著書多数。

取材・文/島田ゆかり、image via shutterstock

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