女性専門の疲労外来ドクター・工藤孝文先生が教える、疲労回復術のウソ・ホント。前編の疲れのリカバリー法に続き、後編では「疲れにくい体」をつくる生活習慣について、よくある誤解を解いていただきました。
1. 運動をするなら、忙しい平日よりも余裕のある週末がいい
「現代人は、体を動かさず、脳だけを働かせる機会がとても多いですよね。じつはこの脳だけが疲れている状態に、人はもっともストレスを感じることがわかっています。
仕事帰りに頭だけが疲れているなと感じたら、平日でも運動で体を動かしてストレスを相殺しましょう。 運動は、うつ病を予防したり、改善させたりする効果があることが研究によって証明されています。
これは、運動すると脳内で精神の安定に深く関わっている神経伝達物質、セロトニンが分泌されるため。30分のちょいキツ運動は、一錠の抗うつ薬に匹敵する効果があるともいわれています。
仕事終わりにするなら、最寄り駅よりもひと駅前で降りて、30分の早歩きをするのもおすすめ。最近流行りの暗闇フィールサイクルなども非日常空間で思い切り体を動かすので、より高い効果が得られます。
夕食後・入浴前のナイトランは食後の血糖値を下げる効果もあり、じつは非常によいストレス解消法です」(工藤先生)
正解は、ウソ
2. ランチはしっかり食べた方が、午後からの仕事がはかどる
「ランチや朝食を抜く、昼はサラダだけといった食生活は、だるさや疲れやすさの原因になります。エネルギーが不足すると、体内では代わりのエネルギー源となるケトン体が作られます。
ケトン体は高いエネルギー価がありますが、だるさや疲労感、頭痛も引き起こすのです。仕事のパフォーマンスを上げるには、一日3食を規則正しく食べることが大切。
朝と昼はしっかり、夜はヘルシーに。吸収率の低くなる昼食は多少、脂肪分が多くてもOKです。
規則正しい食事のもうひとつのメリットは、3食の間隔をきちんと空けることで空腹状態をつくり、臓器を休ませることができること。それだけで疲れにくい体になります。さらに空腹を感じるとミトコンドリアが活性化し、細胞が若返ります」(工藤先生)
正解は、ホント
3. 「寝る前スマホ」はよくないけれど、心の癒やしになる動画ならOK
「寝る前スマホは不眠のもとと認識しているのに、どうしてもスマホを手に取ってしまう人が多いようですね。
夜になると人の脳内では徐々に睡眠ホルモンのメラトニンが分泌され、眠気を感じるようになっていますが、夜にスマホのブルーライトなどの強い光を見ると、脳が昼と勘違いしてメラトニンの分泌をストップさせてしまいます。
さらにブルーライトの光の波長は短く散乱しやすいため、眼精疲労蓄積の原因にもなります。メラトニンの分泌は夜10時から睡眠中も深夜2~3時頃まで続き、深い眠りを持続させます。
ですから夜10時を過ぎたらなるべくスマホを見ないようにしましょう。とはいえ、どうしてもお気に入りの動画を見たいという人は、スマホの画面の色を暖色系に変える設定を活用してください。
目に優しい暖かい色味の光なら、脳への刺激が減るので睡眠への害も多少は緩和されます。
できれば寝る2時間前には部屋の蛍光灯も消して、リラックス効果のある暖色系のダウンライトに切り替え、脳の覚醒を防ぐことを心がけてください」(工藤先生)
正解は、ウソ
4. 眠る前には緑茶を飲まないほうがいい
「覚醒作用のあるカフェインを摂りすぎると、不眠の原因になることはよく知られています。緑茶にはカフェインが含まれていますが、じつは緑茶を水出しするとカフェインが抽出されないのです。
加えて、緑茶にはカフェインの興奮作用を抑制する旨味成分テアニンも含まれています。テアニンはアミノ酸の一種で、脳内で興奮作用を抑えるグルタミン酸にとてもよく似た構造をしています。
日中にコーヒーなどのカフェインを摂りすぎたときにも、寝る前に水出し緑茶を飲めば、テアニンが脳の覚醒状態を鎮めて相殺してくれます。
またテアニンを摂取すると、脳にリラックス効果をもたらすα波が出現するため、疲労回復に最適。脂肪燃焼効果も期待できます。氷で急冷すると旨味が出やすいので、ぜひ「究極のおやすみドリンク」水出し緑茶を試してみてください」(工藤先生)
正解は、ウソ
暮らしのなかで少しずつたまっていく疲れは、暮らしのなかに軽減するヒントがあります。“脱・疲労体質”を目指して、工藤先生の「疲れにくい生活習慣」を実践していきましょう。
──この記事は、2019年8月9日の記事を再編集して掲載しています。
疲れにくい体になるヒント
工藤 孝文 (くどう たかふみ)先生
福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。現在は、福岡 県みやま市の工藤内科で地域医療を行っている。ダイエット外来・糖尿病内科・漢方治療を専門とし、NHK「ガッテン!」、「あさイチ」、日本テレビ「世界一受けたい授業」、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」漢方治療評論家・肥満治療評論家として、メディア出演 多数。日本内科学会、日本東洋医学会、日本女性医学学会、日本抗加齢医学学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本甲状腺学会、小児慢性疾病指定医。
取材・文/田邉愛理、image via shutterstock