「悪夢とはいかないまでも、起きたときにいやな感じが残ったり、新型コロナウイルスに関連する夢を見たりするケースが増えるのは不思議ではない、むしろ当然だと思いますね」と語るのは、東洋大学社会学部社会心理学科教授の松田英子先生

夢とはどんな現象かについて伺った前編に続き、不安やストレスと夢の関わり、そして奇妙な夢と前向きにつきあう方法を教えていただきました。

自然災害後やパンデミック下では、悪い夢を見やすい

いい夢よりもイヤな夢のほうが記憶に残りやすいことを、多くの人が経験として感じているのではないでしょうか。

実際、喜びや幸福感よりも、不安やストレスのほうが夢にはダイレクトに関わりやすいのだそうです。

松田先生 :

コロナ禍の今だけでなく、東日本大震災のような災害時にも大きな不安やストレスによってイヤな夢を見る人が増えたことがわかっています。

自然災害やパンデミックの不安は、仕事や家庭のストレスに比べると不可抗力で自分が招いたものではないぶん、ストレスの度合いも大きいので、より夢に出やすくなると思います。

また、津波や揺れ、豪雨、壊れた家などと被害が目に見えてイメージしやすい災害に比べると、コロナ禍はウイルスの映像や防護服を着た医師などがニュースで流されるだけで、被害のイメージは抽象的。

自粛生活による環境の変化で感じるストレスも人それぞれなので、夢にどのように出るかはかなり個人差があるのだとか。

松田先生 :

目に見えないウイルスなどの不安は、群れをなす小さな虫や昆虫、音やカビの臭いなどに姿を変えて出てくることが多いんです。

その他、マスクや清掃道具、人工呼吸器など感染予防や治療に関わるものが出てくるのは興味深いですよね。

遅刻する、歯が抜ける。不吉な夢は何かを暗示している?

コロナ禍に見やすいという小さな虫の群れや昆虫の夢は、侵入してくる、まとわりつかれる、得体が知れないといった不安のあらわれなのでしょうか。

他にも不安にさいなまれているときに見やすい「追いかけられる」「遅刻する」「歯が抜ける」といった夢は、どのような心理を表しているのでしょうか。

松田先生 :

変な夢を「何かのお告げかもしれない」とすぐに結びつけてしまう人がいますが、その意味はもっと身近なところにあると考えていいでしょう。

社会人であれば、始業時間やアポイント、納期など、時間を守ることに縛られています。そのストレスが追いかけられる夢や遅刻する夢に形を変えているのかもしれません。

追いかけられる夢は、世界でもよく見られる夢のトップ3に入ります。

「歯が抜ける」という夢なら、うまく話せるかどうかを心配するアナウンサーや大事なプレゼンを控えた人が見ることもあります。また査定などで自分を評価される不安が「テストができない」といった夢に出てくることも。

不吉な夢を見ると、すぐ頼りたくなるのが「夢占い」です。

松田先生 :

その人の悩みや社会的背景によってその夢を見た背景も違ってくるので、夢占いで自分の深層心理を探ることは心理学的にはあまり有効だとは言えません

特に、悪いことが起こる予兆と考えるのはやめたほうがいいですね。実際には自分の不安が現れているだけのことも多いと思います。

ただ、うれしいことが書いてあればワクワクして行動も積極的になるので、楽しむぶんにはいいと思います。

イヤな夢を遠ざける方法と、見てしまったときの対処法

夢占いを読む代わりに、松田先生がすすめるのは見た夢をスケジュール帳にメモしておくこと。そして自分の予定と照らし合わせてみましょう。

嫌な夢を見た原因は、翌週に控えていたプレゼンやその準備状況のせいかもしれません。プレゼンが終わったら、見る頻度が減っているかも確認しましょう。

松田先生 :

夢は、自分が何に対して不安を抱いているのかを知る材料になります。

自分を知るツールとポジティブに考えれば、実際の生活の中で自分の行動を正したり不安の原因をやわらげたりすることができます。

その結果、変な夢を見ないようになるかもしれません。

変な夢を見ないために心がけたいことは、まず睡眠の質を上げること。前編でも説明したように、夢を覚えていないのは夢に邪魔されないほどよく眠れていた、脳内の情報処理がスムーズに行われていた結果だと考えられます。

そして不安のもとを緩和・解消すること。さらに、自分を不安にさせるようなニュースにばかりアクセスしないこと。ベッドの中でコロナ関連のニュースを追いかけて不安を醸成しては、変な夢を見るのも当然です。

それでもイヤな夢を見てしまったら、下記の対処法を試してみましょう。

松田先生がすすめるのは、不安障害に用いられる行動療法の「曝露法(エクスポージャー)」という技法。

不安の原因は避ける限りは解消されません。そこで、人に話したり日記やブログなどに書いたりして、あえて不安に自分をさらし、不安や恐怖、怒りといった感情を鎮めていく方法です。

もうひとつ、松田先生がすすめるのは「見た夢の結末を変える」という方法。イヤな夢の続きを見られるとしたら、どんな結末にしたいかを自問します。

たとえば、電車に間に合わなくて遅刻する夢なら「知り合いが車で送ってくれて間に合った」というハッピーエンドにイメージの中でするだけ。病気やケガは無事に完治、虫やゴジラはやっつけるか仲良くなってしまえば簡単です。

そうすることでイメージの中で不安などのネガティブな思考が緩和され、その後に見る夢にいい効果が生まれるのだそうです。

松田先生 :

夢は、他の誰かに見せられるものではありません。自分の記憶に基づいた自分だけが見られる映像で、自分が自分に見させているんです。

変な夢を見たからといっていたずらに不安にならず、自分でコントロールするぐらいの気持ちで上手につきあってほしいですね。

最後に、「イヤな夢を見るのは、問題にきちんと向き合えている証拠でもある」と松田先生。

松田先生 :

遅刻の夢を見るのは、遅刻がイヤだから。いつも遅刻するような人は、遅刻を恐れるような夢なんて見ません(笑)。

コロナ禍でイヤな夢を見る人は、いつも手洗いやマスクをして自粛生活もがんばっている人。そうやって自分をほめてあげてほしいですね。

新型コロナウイルスが収束に向かえば、次第にイヤな夢も減るはず。安心してくださいね。

気持ちを軽くしてくれる松田先生の言葉。「安心して大丈夫」という穏やかな気持ちで眠りにつくことが、イヤな夢を遠ざけるいちばんの方法なのかもしれません。

>>前編の記事はこちら

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松田英子(まつだ・えいこ)先生
お茶の水女子大学文教育学部卒業。博士(人文科学)。公認心理師、臨床心理士。江戸川大学教授、放送大学大学院客員教授を経て2015年より東洋大学社会学部社会心理学科教授。『夢と睡眠の心理学―認知行動療法からのアプローチ』(風間書房)などの著書がある。

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