「おばさん」をキーワードに、揺らぐ年齢観や女性の価値観の変化を、歴史社会学者の田中ひかるさんがつづる連載、第7回目は40代、50代女性の「おばさん」呼ばわりについて。

おばあさんに「おばさん!」と呼ばれた

連載初回で、「最近は『中年だけど“おばさん”とは呼びづらい』女性が増えてきました」と書きました。裏返すと、中年になっても「おばさん」と呼ばれたことがない女性が増えているということです。

私の周辺にも、ネット上にも、他人から「おばさん」と呼ばれてギョッとしたという40代、50代女性の経験談があふれています。

「発言小町」 (※) に「おばあさんに『おばさん!』と呼ばれた」というトピックを立て怒っている51歳の女性もいました。

昨日、スーパーでの出来事です。たまたま納豆売り場を通りかかった時のこと。「おばさん!おばさん!」と大声で叫んでいる高齢者の女性がいらっしゃいました。(中略)構わず通り過ぎようとしたのですが、「おばさん」の連呼は続きます。「へ!? ひょっとして、私?」と思った瞬間。「ちょっと、おばさん、あなただよ。ぐじゃぐじゃに刻んだ納豆ってどこにあるの!?」(中略)子どもや若い方から「おばちゃん」と呼ばれることはまあ良いです。しかし自分の母親世代の方からそう呼ばれて、正直、「あなたにいわれたくないわ!!」と猛烈に腹が立ちました。

私にはトピ主の気持ちがよくわかるのですが、最初のレスは「51歳は『おばさん』では? 他に何と呼べばいいと?」。ほかに「たとえ相手が何歳でも『おばさん』以外の呼びようがありますか?」「やはり、『おばさん』でよいのではないでしょうか。お姉さんではちょっと無理があるような気もします」といったレスがありました。

トピ主は、51歳の自分が「おばさん」か否かを問題にしているのではありません。「お姉さん」と呼ばれたいわけでもないでしょう。自分よりもずっと年上の女性から「おばさん」呼ばわりされたことに腹を立てているのです。

「医者のおばちゃん」「弁護士のおばちゃん」

もちろん、トピ主に共感する意見もたくさんありました。

すごく失礼な人に遭遇されましたね。無視で当然です。私は還暦を過ぎていますが知らない人におばさんやおばちゃんと呼ばれることにとっても抵抗があります。仕事はスーパーでの接客業ですが年に1度か2度おばちゃんと呼ぶ客(たいてい中高年の男性)に遭遇しますが礼儀知らずな品性に欠ける人だと思っております。

「おばさん(おばちゃん)」呼ばわりに親しみを込めている人もいるようですが、相手が不快に感じている以上、それは親しみではなく不躾(ぶしつけ)というものです。「パートのおばちゃん」「掃除のおばちゃん」は単語化している節もあります。

「医者のおばちゃん」「弁護士のおばちゃん」とは言わないのに「パートのおばちゃん」「掃除のおばちゃん」はためらいなく使うという人は、たしかに「品性に欠け」ています。「お医者さん」「弁護士さん」同様、「店員さん」「パートさん」「清掃スタッフさん」と呼べば済む話です。

いずれにしても、ネット上にこうしたトピックが数多くあるということは、それだけ「おばさん(おばちゃん)」と呼ぶことがデリケートな問題であるということでしょう。

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田中ひかる(たなか・ひかる)さん
歴史社会学者。1970年、東京都生まれ。女性に関するテーマを中心に、執筆・講演活動を行っている。近著『明治を生きた男装の女医―高橋瑞物語』(中央公論新社)ほか、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)など著書多数。公式サイト

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