「人の行動を変えるのは、10のアドバイスよりも、たったひとつのほめ言葉」。そう語るのは、独自の教育メソッド「ほめ育」を開発し、世界17か国、のべ50万人に伝えてきたという原邦雄氏です。

原氏によると、人の心を動かす「100点のほめ方」には大きな力があり、過去に仲違いした人──不信感を抱かれている仕事相手や、冷め切った家族とのコミュニケーションまで改善することができるそう。一体どうすれば、そんな魔法のようなほめ方ができるのでしょうか。

100点のほめ方

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怒られ、叱られても、人は変わらない

『100点のほめ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者である原邦雄氏は、食品メーカーのトップセールスマンから大手コンサルタント会社に転職。そこから、「現場を知るために何かの分野で一番になりたい」という志を抱き、ラーメン業界で「一番」になることを決意。ラーメン店で住み込みをし、洗い場から店長まで務めたという異色の経歴の持ち主です。

ダメ出しばかりの鬼店長だったため、一時は店員のほとんどが辞めてしまい、大ピンチに陥ったという著者。しかし、何気なくひとりのスタッフをほめたとき、そのスタッフのうれしそうな笑顔を見て、ある気づきがあったといいます。

怒られ、叱られても、人は変わらない。むしろ萎縮して、ビクビクして、ミスを重ねて、叱られないように、それを隠そうとしてしまいます。

その代わり、良いところを見て、尊重し、共感し、ほめることで、人は前向きになれる、と。

(『100点のほめ方』70ページより引用)」

そこで著者が始めたのが、毎月1回の「ほめる会議」。スタッフ全員を集め、なるべく具体的にひとりひとりの働きぶりを「ほめる」ようにしたのです。

最初に変わったのは、自分の視点

「ほめる」を意識することで最初に大きく変わったのは、スタッフを見る著者自身の目でした。これまで欠点ばかり見ていたのが、それぞれの「良いところ」が目に入ってくるようになり、ふだんからこまめにほめ言葉をかけるようになったのだとか。

すると、自信を持ったスタッフの動きが良くなり、お店の売上げは驚くほどアップ。スタッフの離職も止まってシフトにも余裕ができ、お店全体にプラスのエネルギーが回ってくるようになったのです。

3つのアクションで「100点のほめ方」に

著者の体験が物語るように、人を動かすほめ方ができるようになると、相手との距離が一気に近づき、よりあたたかい関係性を結べたり、すれ違いばかりだった人と本音で話しあえたりするようになります

それなのに「ほめる」のが苦手な人が多いのは、遠慮することや意見を言わないことが「空気を読む」につながる日本の風土の影響もあると著者はいいます。ほめた経験も、ほめられた経験も少ないため、いざほめようとしても照れてしまったり、どんな言葉をかければいいかわからなかったりしがちです。

著者によれば、「100点のほめ方」自体はシンプルな技術であり、誰でも身につけることが可能とのこと。とくに大切なのは、次の3つのアクションです。

【アクション1】関係性の土台をつくる
関係改善を図り、きちんと話を聞くことで、相手が「この人にほめられたい」と思える土台をつくる

【アクション2】「ほめポイント」を見つける
「マジック質問」で、相手が本当にほめてほしいポイントを探す

【アクション3】100点ほめ
生き方すべてを肯定し、ほめる

(『100点のほめ方』82~83ページより引用)

【アクション1】の基盤となるのは、「あなたのことを知りたい、理解したい」という気持ちを伝えること。相手が「この人は自分の話を聞こうとしてくれている」と思ってくれれば、いい関係が築けて、「ほめ言葉が効く状態」になります。

【アクション2】でおこなう「マジック質問」とは、相手の好きなこと、継続していること、大切にしていることの3つを聞くこと。この3つを聞くことで、その人が大切にしている価値観を理解することができるのだそう。

最終段階の【アクション3】では、相手の半生を振り返るような気持ちで、丁寧にほめていくことが鍵とのこと。現在の状況だけでなく、相手の過去や乗り越えてきた困難などの生き方すべてを肯定して「ほめ切る」ことで、相手が納得せざるを得ない迫力が生まれるのです。

本気で「ほめる」と自分も研ぎ澄まされる

著者が提案する「3つのアクション」に通底するのは、「あなたを理解したい」という強い思いです。

「ほめる」というと、つい見た目やわかりやすい成果に注目しがち。でも本当に大切なのは、相手の考え方や価値観を知ろうと歩み寄り、それを尊重すること。

そこから生まれる「ありがとう」「あなたはすごい」「あなたを大切に思っている」という言葉がどれほど人を勇気づけるかということは、もし自分がそうしてもらえたら……と考えると、しみじみ身にしみるような気がします。

「自分のことを覚えておくのに精いっぱいだから、そこまで他人のことに関心を払えないし、覚えておけない」

こう思う人もいるかもしれません。それならせめて、あなたが「この人」と思うたったひとりを本気で思いやり、観察し、考えてみてはいかがでしょうか。たったひとりに心を尽くすだけでも、自分の感覚が研ぎ澄まされ、自然と周りのことも目に入ってくるのです。

(『100点のほめ方』221ページより引用)」

本書では、勉強嫌いな子どもへの接し方、関係がこじれた両親との仲直り、「ほめる」と「叱る」をセットにして部下を育てる方法など、「ほめる」を活用して人間関係を変えていった事例も紹介されています。

「ほめる」ことは決して相手をコントロールするためのものではなく、人と人とがつながりあい、信頼しあうための技術だと語る著者。

ほめるの古語は、「ほむ」。「相手の繁栄や幸せを祈る」という意味です。

(『100点のほめ方』266ページより引用)」

「ほめる」を探求しつづける著者の視点から、人間関係を育む多くのヒントを学べる一冊です。

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100点のほめ方

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