10月に発売された「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」がそのひとつ。
いったいどんな仕組みでゴミの削減につながるのでしょうか。商品を開発したファーメンステーションの酒井里奈さんに聞きました。
廃棄されるしぼり粕を、価値ある資源として有効活用
「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」は、ファーメンステーションがJR東日本スタートアップとアサヒグループホールディングスとの協業で開発した商品。使われているエタノールの主な原料は、通常であれば廃棄されるはずのりんごのしぼり粕なのだそう。
「協業企業の2社ともに以前からりんごのお酒『シードル』を販売していますが、その醸造過程で発生するりんごのしぼり粕は、全量廃棄されていたんです。そこで、弊社の発酵技術を使って、この廃棄物をゼロにしましょうという取り組みを2018年から始め、しぼり粕を原料としたエタノール製造に挑みました」(酒井さん)
発酵に必要な糖分がほとんど残っていないしぼり粕からのエタノール抽出は「なかなかに大変だった」そうですが、2019年に成功。その後、アサヒグループの技術協力を受けて発酵プロセスを改良し、効率的に精製できるようになり、今回の発売に至ったのだそうです。
エタノールのもうひとつの原料、お米の生産者までわかる
そして、もうひとつの原料はお米。
こちらは、ファーメンステーションが独自に取り組んでいるプロジェクトです。
「岩手県奥州市の休耕田を使って無農薬・無化学肥料のJAS有機米を育て、そのお米を使って独自の発酵技術でエタノールを製造しています。このオーガニックライスエタノールとりんごエタノールが『お米とりんごの除菌ウエットティッシュ』の原料になっています」(酒井さん)
生産者の方の顔まで見えるというクリーンさも安心して使用できるポイントのひとつ。廃棄物を資源として活用。さらに、新たなゴミも出さない
さらに驚くのは、製造過程でまったく廃棄物を出していないということ!
「エタノールを作る際に出る粕は、化粧品の原料や牛や鶏の飼料に利用しています。特に飼料は嗜好性が高く、牛や鶏の食欲を誘うと評判が良いんです。育った牛はJR東日本の関連ホテルのレストランで調理され、話題にもなりました。
そこで終わらず、さらに飼料を食べた鶏が生んだ卵を販売し、鶏の糞は肥料にして地元の農家さんがお米や野菜を育てる──というふうに、徹底してゴミを出さずに、資源を循環させる仕組みを構築しています。卵をブランド化したり、卵で作ったお菓子を販売するなど、そこから産業や雇用を生み出していることも特徴ですね。いわゆる『サーキュラーエコノミー』と呼ばれる循環型経済を実践しています」(酒井さん)
「サーキュラーエコノミー」とはヨーロッパ発の経済モデル。「単なるリサイクルやリユースとは異なり、有害な廃棄物を出さず、資源を有効活用して新たな価値を生み出し、循環させていく仕組みのこと」だとか。ファーメンステーションは日本でそれを実践する企業として海外からも注目されているそうです。
使う人が増えれば、しぼり粕の廃棄量ゼロを目指せる!
しぼり粕という廃棄物を有効活用して作られているということは、この商品を使う人が増えれば増えるほど、しぼり粕の廃棄量が減っていくということです。実際、月に数十万個分売れると、協業企業1社が出すしぼり粕の廃棄量がゼロになるのだとか!
「今、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、除菌シートって至るところで使われていますよね。ノベルティでもらったり、お弁当に入っていたり。月に数十万個というのは市場全体から見るとわずか数%です。決して、実現できない数字ではありません。
一人ひとりが今あるものをこの商品に置き換えることで“ゴミゼロ”に貢献できる。気軽なゴミ削減運動として考えてもらえればいいなと思います」
リピートしたくなる、“まろやか”な除菌シート
それでも、実用的でなかったり、使い心地が悪ければ、選ぶ選択肢には入りませんよね。
その点、「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」は、今もっとも実用的なアイテムであり、使い心地は快適。除菌シートにありがちなエタノール特有のツンとした匂いが少なくしっとり感がある、とても“まろやか”な除菌シートなのです。
酒井さんによると、“まろやか”な理由は、「天然由来のエタノールだから」。
ファーメンステーションが作るエタノールはお米やりんごのしぼり粕からできている。丁寧な工程を経てじっくりと抽出されたエタノールは肌あたりもよく使い心地も抜群。「エタノールは2種類あって、現在日本で流通しているほとんどは輸入品です。安価な原材料から作られ、巨大な塔のような装置で蒸留を繰り返して、純度を上げていきます。それに対して、私たちが作るエタノールは、酵母の力で発酵させたもろみを丁寧に蒸留し、ゆっくりと時間をかけて抽出しています。だから、原料に含まれる香りや成分が残るのです。それと、石油由来のエタノールのように揮発性が高くないので、水分が多く感じられるのかもしれませんね」
天然由来であっても除菌効果は十分で、一般社団法人日本衛生材料工業連合会が定める基準の性能テストできちんと効果が認められています。
「ビールで例えるなら、この商品はクラフトビール。地元に根付いていて、個性的。数ある除菌シートの中で、『こんな商品もおもしろいね』と選んでもらえればうれしいですね」(酒井さん)
「お米とりんごの除菌ウエットティッシュ」10枚入り 187円(税込み)企業が、「この商品を買うことで、一緒に循環型社会を作ることができれば」とノベルティや社内のイベントで配布するアイテムとして購入するケースも多いそうです。
それは個人でも同じ。
「ゴミゼロ」を実現したくても、買わなければいけない、使わなければいけないものもあります。それならば、「買うものを選ぶ」という行為でサスティナブルな社会作りに参加してみてはいかがでしょうか。
酒井里奈
株式会社ファーメンステーション 代表取締役。大学卒業後、都市銀行、外資系証券会社などに勤務。発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、2009年3月卒業。同年、株式会社ファーメンステーション設立。岩手県奥州市にある「奥州ラボ」にて米からエタノールなどを製造している。研究テーマは地産地消型バイオエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は麹菌。好きな発酵飲料はビール。