著者の有元葉子さん。東京・田園調布で主宰する料理教室「COOKING CLASS」も人気。

冷蔵庫にあるもので、サッとおいしい料理が作れる人になりたい。そんな野望を叶えてくれそうな、素敵な本を見つけました。『有元家のさもないおかず』(三笠書房)は、料理研究家の有元葉子さんの“いつものおかず”を紹介した一冊。

一度作れば覚えられるほど簡単なのに、しみじみおいしく、はっとするほど新鮮。「私の十八番」と言える料理のレパートリーが一気に増えそうです。

「さもないおかず」で料理力が身につく

冷蔵庫やパントリーにある食材で作る“さもないおかず”は、晩酌にもぴったり(本書118〜119ページより)

タイトルにある「さもない」とは、たいしたことはない、どうってことはない──といった意味の言葉です。

本書に収録された62のレシピは、どれもだしや作り置きを使わずに、少ない材料でサッと作れるものばかり。「こむずかしいプロセスはなしで、なじみの食材で」が我が家のさもないおかずの決まりだと、有元さんは語ります。

有元さんのスタジオでは、撮影後に冷蔵庫を空っぽにするのが習慣なのだそう。急にスタッフと一緒に昼食をとることになったときは、あるもので“サマになるおかず”を手早く用意しなくてはなりません。そんな制約のあるなかで知恵を絞ることがおもしろく、料理作りの醍醐味を感じる……と有元さん。

さもないおかず作りを自分のルーティーンにすることで、あるものでおいしいものを作る知恵も生まれ、「できない」を「できる」に変える力も生まれてきます。家のごはんはこれがいいところです。立派なメイン料理はさておき、普段のさもないおかずの引き出しがあればあるだけ料理力が身につきます。

(『有元家のさもないおかず』3ページより引用)

気取らないおかずといえど、有元さんならではの食材のハーモニーが楽しめるのも本書の魅力。丸ごとのピーマンをかぼちゃと合わせた煮物や、「リビー」のコンビーフを薄切りにして長ネギの薄切りをのせた晩酌のお供など、思いがけない組み合わせにワクワクしてしまいます。

定番おかずを「進化系」に変えるひと工夫

いつものきんぴらも、米酢とメープルシロップの隠し味で“進化系”のおいしさに(本書40ページより)

有元さんのおかず作りは「あるもので作る」が原則。「何もないようにみえても、冷蔵庫や食品庫に何かしらはある」という言葉に背中を押されて、私も野菜室を探ってみました。

出てきたのは、煮物に使った残りのれんこん。本書の「れんこんの甘酢きんぴら」を作ってみたところ、コクのある味わいにびっくりしました。秘密はどうやら、甘みにメープルシロップを使うところにあるようです。

ここではいつものきんぴらの進化系として、米酢を加えてほんの少しの酸味とうまみをプラスし、みりんの代わりにメープルシロップを使用。メープルシロップを使うとすっきりとした甘さに仕上がります。

(『有元家のさもないおかず』41ページより引用)

れんこんを炒めながらメープルシロップを加えると、とろっとしておいしそうな照りツヤが出てきます。縦に棒状に切ったれんこんはシャキシャキ感が気持ち良く、食べ応えがあってごはんのおかずにぴったりでした。

味付けは、同量のみそとマヨネーズ。マンネリしがちな魚料理のレパートリーに加えたい一皿(本書84ページより)

ある日は魚料理が食べたくて、「鮭のねぎみそマヨネーズ焼き」を作ってみることに。同量のマヨネーズとみそ、長ネギの小口切りを混ぜたペーストを生鮭にたっぷり塗って、香ばしい焦げ目がつくまでこんがりと焼きます。ペーストで覆うせいか、中の鮭はふっくらとジューシー。すごく簡単なのにこってりとおいしく、これなら忙しいときでも魚が食べられそうです。

「一度作れば覚えられる」というほどシンプルな料理だからこそ、おいしく作るためには手順や調味、組み合わせのセンスが大事だということも教えてくれる一冊。ひとつひとつ味わいながら、すべてのレシピを作ってみたくなりました。

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写真/木村拓

有元家のさもないおかず

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