日常のうつくしさを綴った清少納言の「枕草子」。「春はあけぼの」で始まる一節を、誰もが学校で一度は読んだことがあると思います。冬は最後なので記憶がぼんやりしているかもしれませんが、「つとめて」つまり「早朝」が一番いいときだと清少納言は思っていました。
冬は、つとめて。雪の降りたるは、言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、炭櫃火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。
(「新版・枕草子」P.15)
冬の早朝ほど辛いものはないのに!と思ってしまいますが、雪や霜の白さが美しいし、寒いからと火を起こそうと炭を持って歩くのも冬らしくていいと。逆に昼間になってあったかくなってしまうと、炭も白くなってしまって今ひとつというのです。
寒さは冬しか味わえない魅力冬を寒いと感じられるのは、四季が豊かな日本で暮らしているからこそのこと。もし仮に一年中同じ気温だったとしたら、春になってあったかくなって嬉しい、秋がきて涼しくなって嬉しいと言ったことも感じられなくなってしまいます。冬は寒いからこそいいものだと、清少納言は教えてくれているのです。
どんなに厳しい冬もいつかは終わって春に変わり、毎年巡ってくると思う季節も、確実に次があるとはいえないもの。そう思うと、この冬をより味わおうと言う気持ちになってきます。早朝のキーンと張りつめた空気で深呼吸すれば身も心もシャッキリするし、鳥のさえずりさえも聞こえない静けさの中で目をつぶれば、深く自分と向き合えます。新しい年を迎えるこの時期に、とてもふさわしい季節なのかもしれません。
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(杉本真奈美)