いちごと野いちごのスープ(『スープ』より)

イタリア料理が専門の人気料理家、細川亜衣さん。結婚を機に東京から熊本へ移住し、現在は子育てをしながら料理教室を主宰。忙しくも充実した毎日を送っています。10月2日には、待望の新刊も上梓。新刊『スープ』や料理についてたっぷり聞いたインタビュー、後編です(前編はこちら)。

――そもそも、料理に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

母をはじめ、叔母や祖母など、家族のためにていねいに料理をつくる女性たちがまわりに多かったのも理由だと思うのですが、自然に料理の道に進んでいたという感じで、とくに大きなきっかけはないんです。じつは、子どもの頃は食べることがあまり好きではありませんでした。でも、中学生になって、成長期だったせいか、急に食べるということにすごく興味が出たんです。おこづかいをやりくりして外食をしたりしているうちに、だんだんつくるほうに関心が向いてきて。暇さえあれば、母の料理本を眺めていましたね。

――大学卒業後にイタリアに留学し、料理を学んだということですが、何が印象に残っていますか?

イタリア国内のさまざまな土地で3年間料理を学びましたが、「これだけ?」と思ってしまうほどシンプルな食材の組み合わせでも、イタリア料理ならではの絶妙なプロセスで「こんなに美味しくなるんだ!」と驚かされたのが、すごく記憶に残っています。日本にいると、ついつい調味料を足してしまったり、工夫をしすぎたりしてしまうのですが、それをしないことでしか生まれない味があるということを、イタリアで学びましたね。

熟れ柿に柚子をしぼる。これだけでおどろくほどのおいしさに(『スープ』より)

――食材の組み合わせが大事なんですね。

私の場合は、これとこれを合わせたら美味しくなるんじゃないかなっていう、ひらめきをたよりに食材を組み合わせています。料理ってパズルのようなもので、経験として分かっている部分に、新しい香りを足したり、調理法を変えたりすると、ぜんぜん違うものになるんですよ。

――美味しい料理をつくるコツは?

味見をすることかな(笑)。塩味が決まらないと思ったら、まず自分で食べてみればいいんです。そして、それを「絶対においしくする!」という執念をもつ(笑)。火の通し具合とか、塩味とか、油の量とか、レシピの分量にたよるのではなく、とにかく何度でも自分の舌で感じてみることが大切です。

――自分の感覚を大切にしていらっしゃるのですね。

そうですね、人生全般でも好きか嫌いかしか考えていないんです(笑)。たとえば器を選ぶときも、料理との相性は考えたことはなくて、好きかどうか、ということだけ。それを基準に選べば、結局何を盛りつけてもしっくりくるんです。

細川亜衣さんに学ぶ、おいしい料理をつくるヒント

・ひらめきを大切に。料理はパズルのよう。素材や調味料を自由に組み合わせてみる。

・とにかく味見。レシピの分量にとらわれすぎず、自分の舌に聞いてみる。

・絶対においしくする!という執念を持つ。途中であきらめず、ベストの味をさぐる。

▼プロフィール

細川亜衣/ほそかわ あい 1972年生まれ。大学卒業後イタリアへ渡り、各地を旅しながら料理を学ぶ。帰国後、東京を拠点に料理家として活動を続け、結婚を機に熊本に移住し、現在は愛娘と3人で暮らしている。夫は陶芸家の細川護光さん。熊本で料理教室「camellia」を主宰している。主な著書に『愛しの皿』(筑摩書房)、『30 Themes, 10 recipes』(リムアート)など。

▼細川亜衣さんの新刊

『スープ』(リトルモア/2300円)

待望の新作レシピ集。トマトなど野菜を使った王道のスープから、メロンのスープ、焼き栗のスープなど、はじめてお目にかかるようなオリジナリティあふれるスープまで、32レシピを掲載。絶品レシピはもちろん、瑞々しい筆致のエッセイ、香りまで感じられるような写真もすばらしく、何度でも読み返したくなる。


装丁は3種類。中身は一緒だが、すべてほしくなってしまうほどどれも美しい。

文/小口梨乃 撮影/野澤朋代

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