深まりゆく秋をいたるところで感じられ、多くの人でにぎわう鎌倉。神社やお寺、名所旧跡巡りやショッピングなど、いわゆる観光には飽きてしまった方におすすめしたいのが、鎌倉文学散歩です。
あの文豪が愛した場所、鎌倉気候のよさや環境、文化的背景から、明治以降、鎌倉には多くの文学者が移住・滞在し、創作活動を行っていました。川端康成、夏目漱石、芥川龍之介など、その数は300人を超えるといわれています。
かつて文豪たちが愛した鎌倉、そして今もなお多くの作家さんたちが創作活動の拠点とする鎌倉を、文学的視点から散策するのも楽しみ方のひとつです。
湘南の海を一望できる洋館鎌倉中心部の喧噪から少し足をのばし「長谷」へ。木々の生い茂るゆたかな小道を抜けたところに「鎌倉文学館」はあります。時代を感じさせる格調高い洋館は、旧前田侯爵家の別邸だったもので、鎌倉市が寄贈を受け昭和60年より文学館として活用されているそうです。
目の前には広大な庭園、遠くには青く輝く湘南の海が一望できるという、なんとも贅沢な立地。ここには、鎌倉ゆかりの文学者の直筆原稿や著書、愛用品などが展示されています。
「生き放題、死に放題、自由に生きろ」写真/湯川晃敏
現在「鎌倉文学館」では、生誕100年を記念した特別展「生誕100年 生き放題、死に放題 山崎方代の歌」が開催されています。
大正3年、山梨に生まれ、昭和47年から70歳で亡くなるまで、鎌倉に暮らした歌人、山崎方代(やまざき・ほうだい)。「生き放題、死に放題、自由に生きろ」と方代の父が名付けたという逸話もあるほど、その生涯は自由に満ちたものだったそうです。
・手のひらをかるく握ってこつこつと石の心をたしかめにけり
・一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
・茶碗の底に梅干しの種二つ並びおるああこれが愛と云うものだ
逸話のとおり、亡くなるまで無頼の歌人として活躍した方代。型破りななかにも、心に響く短歌を詠み、多くの人に愛されました。
ふるきよき時代を感じる特別展では、全体を、「生きる」(日々の暮らしや人生についての歌)、「愛」(恋愛観についての歌)、「方代さん」(短歌では珍しい自分の名前を詠んだ歌)、「笑う石」(自然や身のまわりの物へ心よせる歌)、「わが帰る村」(故郷と家族の歌)の5つのパートに分け、それぞれのテーマにまつわる約40首の歌が、直筆の書で展示してあります。
季節を五感で感じながら、ふるきよき時代の文学に想いを馳せる。まさに贅沢な秋の一日の過ごし方になりそうです。
期間:2014年10月4日(土)~2014年12月7日(日)(休館日:12月1日(月))
開館時間:10月~2月は9:00~16:30(入館は16:00まで)
住所:神奈川県鎌倉市長谷1-5-3 鎌倉文学館