(左)Sulsi タックバッグ 8,640円、(右)参考商品。
やりたいことを始めるのに遅いということはないし、これまでのことが全部なくなっちゃうわけでもない。ひとつの仕事にとらわれず、変わっていっていいんじゃないかな。どんな状況になっても、人間、生きていけるものです。
小柄でキュートな印象なのに、きっぱり。自然体なのに、すごくパワフル。今回お話を伺った関谷里美さんは、天然素材のラフィアを用いたバッグを展開するフェアトレードブランド「Sulci(スルシィ)」の代表です。ラフィアバッグ作家としても活躍されています。
2012年のブランドスタート当時、すでにフィリピンのボホール島とセブ島に50名以上の編み子さんを抱え、それでも「まだ足りない」という関谷さん。この話を聞き、彼女のビジネスのスケールの大きさに驚いたのを覚えています。
人生最大の岐路はフィリピンで
(左)パフバッグ 12,960円、(右)アルテバッグ 11,880円。
長らく青山で輸入雑貨店を経営していた関谷さん。25年という長きにわたり愛され、経営も順調だったというお店を突然閉めたのは5年前のこと。「充実していました。でももうやりつくしたっていう思いがあったんですよね」。
お店を畳んだあと、リフレッシュのために訪れたフィリピン・セブ島で、関谷さんは、スルシィが生まれるきっかけとなる光景に出会います。
みやげ物屋で安く売られているカゴを見て、ふと作り手の賃金が気になりました。価格から逆算するといくらももらえていないはず。もし、わたしがデザインしたものを、直接依頼して作ってもらえば。そして販売ルートさえ開拓すれば、つくり手にもきちんと支払いができるモデルができるのではないかと思ったんです。
ーー誰かのために、という思いに加えて、ビジネスとしても成り立たせたいという意志もしっかりあったということでしょうか?
一度はじめたことはやりぬくええ。あくまでビジネスとして取り組むわけですから、やはり利益を生み出さなければいけない。成長もさせなくてはいけない。それをフェアトレードで成り立たせる仕組みを描くことができました。きちんと成り立たせて、継続できてこそ、次のステージへと進むことができるので。
ブロッサムバッグ 16,200円。Sulciのバッグタグには、つくり手のサインが。かわいらしい女の子型のチャームには、現地の子どもたちが少しでも良い環境で学べるように、との願いが込められています。
以降、関谷さんは幾度となくフィリピンを訪れ、ゼロから体制を整えていきます。
「編み子さんになりたい」と希望する女性たちに技術を指導すること2年。ラフィアを使用したキュートなデザインのバッグが日本でデビューしました。
ーーデビューまでの2年間、苦労されたこともあったのでは?
教え始めた当時は、編み子さんたちがなかなか技術を覚えられず、私自身の気力や体力、金銭面でも続かないかも思ったこともありました。また、これは今もなのですが、文化や考え方の違いから、悩まされることも多いですね。
ーーそれでも続けていられるのは、どうしてでしょう?
かぎ針1本で人生を変えられる!フィリピンのみんなの笑顔や一生懸命取り組む姿を見たら、やめることはできません。会社を作るとき、フィリピンに部屋を借りるとき、ひとつひとつの行動が『もう戻れない』と自分に負荷をかけている感じでした。でもそれが『この人は本気だ!』と、編み子さんたちからの信頼や安心感につながり、よい関係を築くことができたのかもしれません。
(左から)ネコのFelina (フェリーナ) 、 イヌのCanie (カニー) 、 クマのTed (テッド) すべて8,640円。
ーースルシィのバッグはどのように使ってもらいたいですか?
手入れして長く使っていただけると本当に嬉しい。軽くて涼しげなラフィアのバッグですから、夏が来るたびに取り出していただけたら。少しでもバッグが持つストーリーを思い出していただけたらいいなと思います。
スルシィのバッグのきっちりそろった編み目は、かぎ針によるもの。数ある技法のなかからかぎ針編みを選んだのにも、関谷さんの思いがあるのだそう。
いつか、みんなが集える「スルシィハウス」をかぎ針編みに必要なのは、かぎ針とはさみ、それにとじ針くらい。特別な道具がいらないのでどこでもできるし、空き時間や、子育てしながらでもできる作業です。ちょっと大げさかもしれないけれど、かぎ針1本で女性の自立を支えることができる。女性をとりまく環境を......もしかしたら、世界を変えられるんじゃないかって、思っているんです。
現在は販売シーズンを終え、来期に向けた新作をデザイン中、という関谷さん。
ーースルシィの次の一歩は、どのようなものになりそうですか?
来期は、欧米での販売を開始し、より多くの方にスルシィのバッグを届けたいと思っています。そのためにマニラのギフトショーへの出展も予定しています。販路を広げる分、商品もたくさん準備しなければいけないので、フィリピンの貿易産業省や行政区の方々からも協力を得て、編み子さんを増やすべく、セブ島の北部でトレーニングもスタートしました。
ーー関谷さんが描くスルシィの未来像を教えてください。
フィリピンに、スルシィにかかわるみんなが集える家を建てて、その中に図書室を作りたいと思っています。お母さんが仕事をする傍らで、好きなときに子どもたちが本を読める。そんな環境を作りたいですね。
[Sulci]