たとえばこの時期ニュースでもよく耳にする「春一番」もそのひとつ。立春から春分のあいだに初めて強い南風が吹くと、「やっと春がきたなぁ」とワクワクします。そうやって目にはみえないのに、肌で季節をおしえてくれる風ですが、名がつく風は「春一番」だけではありません。じつは日本には2000以上もの風の名前があるのだとか。
そこには日本人ならではの繊細さが感じられますが、さらに「そのネーミングセンスには感心せざるを得ません」と言うのは、幼いころから自然と歳時記に興味をもっていたという、イラストレーターのさとうひろみさんです。著書『大切にしたい、にっぽんの暮らし。』には、そのセンスあふれる風の名前が、このように紹介されていました。
・花信風(かしんふう)
花が咲くのを知らせる風。うららかに晴れた春の日に吹くそよ風。
・黒南風(くろはえ)
どんより雲った梅雨の頃に吹く風。
・薫風(くんぷう)
初夏に新緑の間を吹き抜け、若葉の香りをただよわせる快い風。
・野分(のわき)
台風のこと。二百十日、二百二十日前後に吹く、野を分け草木をなぎたおすほど強い風。
・空っ風(からっかぜ)
雨や雪を伴わない乾燥した冬の冷たい強風。
・木枯らし(こがらし)
初冬に吹く、木の葉を散らして枯れ木にしてしまうような冷たい風。
・おろし
山から吹きおろす冷たい冬の強風。「富士おろし」「六甲おろし」など。
(『大切にしたい、にっぽんの暮らし。』P66~67より引用)
どれも名前を見ただけで、その情景が浮かんできそうです。
なお、野分に書かれた「二百十日、二百二十日前後に」というのは、立春から数えた日数のことだとか。ほかにも立春から数えて88日目は「八十八夜」といって茶摘みの目安にするなど、新しい年のスタートとなる立春は1年をとおして大切にされてきたようです。
「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」という言葉にもありますが、春の風が厚い氷も次第に解かすように、冬のあいだに固くなった身も心も、これからゆっくり解かしていけたらと思います。
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