「山滴る、甘党市」開場入口。
生菓子、半生菓子、干菓子にはじまり、さらに細かく、最中、羊羹、落雁、煉切り、琥珀、きんとん、というふうに分類できる。ところがほとんどの和菓子屋は、分かりやすい種類とは別の詩的な銘を品の前に掲げる。店頭で求めるものを選ぶとき、種類、素材、色、かたち、どんなところに惹かれるかは人それぞれ。私の場合、まず声をあげて銘を読み、言葉をしみじみ噛み締める。
「森のおはぎ」のブースには、おはぎとわらびもち。
6月21日。前回お伝えした、京都・恵文社一乗寺店 イベントスペース COTTAGEで開催の「山滴る、甘党市」へ赴いた。会場についてすぐ、いつも和菓子屋を訪ねるときと同じように、入口で風にたなびく「山滴る、甘党市」という幕を見上げて玩味。ユニークな市の名が、扉の向こうに並ぶ和菓子の風情を物語る。場内へ一歩踏み出しながら、鼓動が早くなるのが分かる。老舗から若き職人まで、13以上のブースがずらり。テーブル上の菓子たちが、グラニュー糖を思わせる甘い光を放つように見えた。
「御菓子丸」の、枝になる琥珀の実。
開場と同時に各店に列ができ、それは店の外まで長く続いた。親子で夫婦で男性も女性も、多くの人がすぐそこで待つ、和菓子に胸を弾ませている。菓子好きには、喜ばしい光景だった。
兵庫・尼崎より。「粉匙」のどら焼き。
ハンバーガーのようにその場で食べられる、「まっちん」の和風あんバターサンド。
東京より「菓子屋ここのつ」。店舗を持たず、予約制の菓寮や、市やギャラリーで端正な和菓子を販売。
香川県高松市に、菓子木型で和菓子をつくる体験ルームを持つ「豆花」の菓子木型。
「豆花」店主・上原あゆみさんによる、和三盆お干菓子つくりのワークショップも開催。
夜には、東京からやってきたwagashi asobi×京都にアトリエを持つ日菓のトークショーを拝聴。和菓子と言葉が響き合うこと。和菓子で季節を食べること。見ること食べることの掛け合わせの苦楽。新たな菓子が生まれる過程。和菓子とともにある暮らし。4人の若き職人の和菓子への思いを、頷いたり笑ったり驚いたりしながら、ふむふむと聴き入った。
「山滴る、甘党市」盛況の会場風景。
4人は今の時代の中では、思いがけない発想や素材の和菓子をつくることから、しばしば和菓子界のニューウェーブと形容される。「100年前に生まれた和菓子も、その時代では斬新だったはず。『和菓子を変えたい』ではなくて『和菓子でなにができるか』」4人の向きは同じだった。
wagashi asobi×日菓「和菓子のはなし」トークショー。
春夏秋冬の四季。味覚・嗅覚・視覚・触覚・聴覚といった五感。万物は木・火・土・金・水、5種の元素からなるという五行思想。自然や感覚や哲学がぎゅっと詰まった和菓子という小さな世界。無限の可能性を、楽しみを、あらためて思う市だった。
翌日のおやつに。まっちん×山本佐太郎商店「3じのビスケット」と、日菓の生砂糖製「やぎさんゆうびん」。
(写真:松永大地・甲斐みのり)