生を語る墓標を作るルーマニアのポップ氏
ルーマニアの北西、すぐそこがウクライナという小さな村Săpânța(サパンタ)で、墓標を作り続けるDumitru Pop(ドゥミトル・ポップ)氏。
亡くなった人の人生を多彩に描いた十字架で埋まる「陽気な墓」を作ったStan Ioan Pătraș(スタン・イオン・パトラシュ)氏の弟子で、今も同じ小屋で、同じように墓標を作っています。
パトラシュ氏の住んだ家。この写真の左奥に見える小さい建物がアトリエになっている。
未舗装の道を辿って着くパトラシュ氏の家は今は小さな博物館となっています。同じ敷地にあるアトリエを覗くと、ポップ氏が出て来て、知り合いの日本人の話や、故岸田今日子さんと撮った写真などを見せてくれました。
実は、ポップ氏らの墓標はフランスでもあちこちの展覧会に取り上げられており、文化大臣を務めたジャック・ラングと一緒に撮った写真もあって驚きました。
クメール遺跡に情熱を注ぐプロワン氏
それで連想されたのが、数年前、カンボジアの小さな集落にある野外アートセンターで出会った彫刻家Dy Proeung(プロワン)氏です。
1939年生まれの氏は、フランスのエコール・デ・ボーザール(美術学校)で学び、アンコールワットの研究にも関わって、1969年フランス刊行の専門書に名を連ねています。クメール遺跡に情熱を持っており、精密な模型をいくつも作っていて、2000年には、シハヌーク王から過去の業績に対し賞を授かりました。
出会ったとき、そんなあれこれを思い出の品々とともにぽつぽつ語ってくれました。また、私が日本人だと知ると、1960年ごろプノンペンのエコール・デ・ボーザールで日本人の先生に現代美術を教わったと懐かし気な表情も。
プロワン氏が売っていた彫像
数々の業績の反面、プロワン氏の生活は質素の一言に尽きます。粗末な小屋で寝起きしながら、もてる知識をカンボジアの子供たちに伝えることに腐心する地味な毎日です。
カンボジアのアーティストセンターのような場所。子供たちが伝統工芸(彫刻や、革細工、機織り)に励んでいます。
革を使った影絵
ポップ氏との出会いで、なぜプロワン氏が思い出されたのか、その時は良くわかりませんでした。こうして思い返してみると、2人に共通するのは、あけっぴろげなまでの人懐こさと、気さくさ。そうして何より、話をしているときの、表情の穏やかさだと、今なら良くわかります。
「袖ふりあうも多生の縁」とは言いますが、毎日出会い、すれ違う人々は数え切れません。そのうちどれだけの人と、こんな風に穏やかに話をする時間をもてるのかと考えてみれば、彼らとのたった一度の短い出会いが、こうして心に残るのも納得だなと頷いたりしています。