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「勇者の冒険」最終回 デジタルゲーム事業部 妄想記録【229日目】
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「勇者の冒険」最終回 デジタルゲーム事業部 妄想記録【229日目】

2015-03-26 13:30
    こんにちは、すすろです。

    リレー小説の第10回(最終回)を書いていきたいと思います!
    第9回はこちら
    http://ch.nicovideo.jp/neet-coltd/blomaga/ar748481


    魔王島の安全管理業務。
    かつて俺は、それを、魔王による危険から人々を守る仕事なのだと理解していた。
    しかしそうではなく、あらゆる危険から「魔王を」守る業務だと気付いたのは、役人になってしばらくたってからのことだ。

    地方都市勤務の3年間で、俺は様々な事実を知った。
    最初、地方都市へと赴任したとき、業務内容は護衛任務と聞かされていたので、魔物から都市を防衛する仕事だと考えていた。
    しかし、警護するのは、主に駅と線路周辺だった。
    それも、乗客の多い昼間ではなく、貨物輸送の多い夜間中心なのである。
    要するに、俺達の護衛対象は、列車によって運ばれる貨物だったのだ。
    その中身の多くは、たとえば魔物から剥ぎ取った素材のような、とりたてて変わったところのない、通常の物資だ。
    だが、ここまで警備を厳重にして守りたかった一部の荷物の中身を、俺はやがて知ることになる。

    1種護衛官の俺は、1年で鉄道沿線警備業務から、特別施設警備業務へと配置転換された。
    その地方都市の外れにある特別施設には、列車から下ろされた例の貨物の一部が、運び込まれていた。
    施設内は、一部の国家役人以外は立ち入りが禁止されていた。
    そこで俺は貨物の中身を知った。
    それは魔物だったのだ。
    正確に言えば、冷凍・圧縮された魔物の幼生だった。
    この施設では、それらを解凍して復元していた。
    そして、解凍された魔物の幼生を、山奥や海中等に放流するのだ。
    それはつまり、人間の手によって、魔物の数を増やしているということに他ならない。

    魔物の繁殖方法は2種類ある。
    一つは、通常の生物と同様に、雄と雌とが交尾して卵が生まれる、という具合だ。
    もう一つは、魔王自らが生み出すという方法である。
    通常の繁殖方法は、親と同種の魔物しか生まれず、基本的に一度に生まれる卵は1個、受精から卵が生まれるまで及び生まれた卵の孵化に時間がかかるという制限がある。
    それに対し、魔王はあらゆる種類の魔物を同時に複数、短時間で生み出せる。

    昔は、一度魔王が様々な種類の魔物を生み出し、世界に拡散させた後は、各魔物の繁殖能力にまかせておけば、その個体数は維持されていた。
    しかし、産業の発展とともに、魔物の狩猟がさかんになり、需要と供給のバランスは崩れた。
    つまり、魔物の繁殖が、人間に狩られる数に追いつかなくなったのだ。
    魔物が絶滅してしまえば、産業が成り立たなくなる。
    そのため、人工的に、魔物を増やすということになった。
    ただ、魔物というのは、人間に害を及ぼす存在でもあり、それによって被害を受けている人々もいるという事実がある。
    したがって、おおっぴらに魔物の人工増殖を行うことは不可能なため、この事業は極秘で行われている。

    特別施設で勤務しているとき、これらの魔物の幼生は、どこから運ばれてくるのだろうと思っていた。
    その疑問はすぐに解決した。
    それらは魔王島から運ばれてきていた。
    魔王が直接魔物を生み出す方法が、増殖には最も効率がいいのだから、その事実にはうなずける。
    魔王島から船で魔物を運び、鉄道を使って各地の特別施設に運び、そこから魔物を拡散させる。
    このような流通システムになっているわけだ。
    勇者鉄道というのは、そもそも、この目的のために建設された鉄道だったらしい。
    だから、多くの赤字路線を抱えながらも、それらを廃線にせず、維持し続けているということだ。

    最終決戦は目前に迫っているはずだった。
    魔王島に上陸した俺は、魔王城に入城する。
    そこに確かに魔王はいた。
    しかしそれは、俺の待ち望んでいた魔王の姿ではなかった。
    人間を殺戮し、屈服させ、支配し、世界を思うがままに操ろうとする邪悪な存在である魔王は、そこにはいなかった。
    あるのは、拘束され、衰弱し、やせ細った体中に栄養補給のチューブを差し込まれ、魔物の生産を強要され続ける、魔物繁殖装置としての魔王の存在だけだ。
    周りには、白衣の研究員たちがいて、ときどき魔王の体から、皮膚や血液、肉の一部等を切り取っていく。
    魔王がいつ死んでもいいように、効率よく魔物を生み出すことのできる細胞を作る研究をしているそうだ。
    一人なぜか割烹着を着た研究員がいて、この人が最も研究成果をあげており、すでに何度も成功を重ねているらしい。

    魔王はうつろな目をして、時々呻き声をもらしている。
    俺は、魔王がラスボスなんかではないことに、もはや気付いてしまった。
    今ここで、倒そうと思えば、魔王を倒すことは容易い。
    しかし、それには全く意味がない。
    魔物を生み出し、増やし、維持し続けているものは、魔王ではないからだ。

    最終決戦は、まだずいぶん先らしい。
    そして、俺にはそこへ向かう手段も方向も、戦うべき相手が誰なのかすらも、皆目見当がつかなかった。
    (「勇者の冒険」完)

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