<提供元サイトで全文を読む>
父譲りの丸い鼻
「鼻が丸いところ、お父さんそっくり」
これは、私が幼い頃から言われてきたことばです。父を知る人が私を見ると、必ずと言っていいほど鼻のことを言ってきました。
鏡で見ても、肉付きがいい鼻はたしかに父譲り。
私も小学校低学年までは「そうなんだ」と受け止めてきましたが、小学校高学年にもなると、なんだか「ぶさいく」と言われているようでだんだん嫌な気持ちになっていきました。
なぜなら可愛いと言われる子は、皆鼻筋が通った、細くて長い鼻をしていたからです。
鼻にコンプレックスを抱いたまま、私は中学にあがります。
当時はインターネットがまだ普及しきっていない頃でしたから、「丸い鼻 改善」で検索するということも出来ません。
しょっちゅう鏡を見ては、なぜ父に似てしまったのかと落ち込む日々を送っていました。
異性の目も気になってきます。
男子から人気のある女子は、やはりみんな鼻の細い子ばかり。
私はだんだん自分の鼻が憎らしくなってきました。つまんだり伸ばしたりといった攻撃を加え、なんとかいまの形から逃れようとやっきになっていきます。
鼻のことばかり考えているため、初対面の人と会うときにもつい鼻に目が行ってしまうようになり、造形の良い鼻を見るとその人自体を嫌ってしまうようになってしまいました。
相手にしてみれば、なにもしていないのに嫌な態度を取られるわけですから当然嫌がられます。だんだん、私は人を距離を置くようになってしまいました。
大病をした父を見て、鼻への意識が変わる
鼻への強いコンプレックスを持ち、何事にも打ち込めないまま高校へと進学した私に待っていたのは、父の大病でした。
父はがんを患い、もともと太って肉付きの良かった鼻がシュンとしおれたのです。
「お父さん、ぜんぜん鼻丸くないじゃん!」父の鼻の骨格は、丸くありませんでした。
丸く見えていたのは、肉だったのです。骨自体はむしろ高いくらいで、外人のように尖っていました。
少しの変化で、印象がグッと変わると知った私は、それならばやってやろう、とこれまで溜めたうっぷんを、鼻への闘志に変えることに決めたのです。
母に尋ねたところ、鼻の肉はそう簡単に落ちるものではないとのことでした。
父は大病をしたから、鼻の肉まで落ちたようです。
私は考えました。病気をすれば鼻の肉が落ちる。ということは、病気に似た状態を体のなかに作り出せばいいのではないか......。
つまり、過激なダイエットです。
その日から、炭水化物、肉、糖質を取らない生活がはじまりました。水をがぶ飲みし、野菜だけを食べ、何キロも歩き、体力を消耗させます。
体重はどんどん落ちました。もともと、体はそれほど太っていなかったので、160センチに対し体重が40キロを切りそうになったところで慌てた母親に病院に連れていかれ、医師からダイエットをやめるよう注意されました。
その頃の私は体中が黄色く、あきらかに異常でした。
検査数値も悪く、しかも、期待していたほど鼻の肉も落ちておらず、体だけを壊して終わったのです。ダイエットをしても、鼻の肉までは影響が与えられないようです。