岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2017/07/19

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2017/07/02配信「今ならここで見られる、おすすめ映画作品」の内容をご紹介します。
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2017/07/02の内容一覧

『プライベートライアン』を冒頭20秒で超えた『ハクソー・リッジ』

 映画『ハクソー・リッジ』の公開に合わせて、今、Huluでは戦争映画の特集をやってるんだけどさ。
 ハクソー・リッジってどんな映画かというと、沖縄戦の話なんだよ。
 もうね、本当にテレビでCMが流れてないんだけど。それは、ハクソー・リッジが米軍対日本軍の戦いを描いている話で、俺ら日本人は悪者の方だからなんだよな(笑)。

 沖縄に「前田高地」っていう高地があるんだよ。そこが日本軍の基地になっていたんだけども。その北側がものすごい崖になっていて、米軍ではこれを「ハクソー・リッジ」って呼んでた。
 「ハクソー」っていうのは「hack saw」つまり、弓型のノコギリのことなんだ。ほら、よくカナダで大きな丸太を切る時に大の大人が二人で、ギイギイって切ってるノコギリがあるでしょ? あれがハクソーなんだよ。「弓ノコのような崖」って言うくらいの場所だから、本当に険しい崖だったんだけども、ここで戦争をやってたわけだよね。

 主人公のデズモンド・ドスっていうのは、本当に実在したおじさんなんだけども。彼は「良心的兵役拒否者」というやつで、なんかね、「セブンスデーなんとか」っていう派閥だったと思うんだけど、「自分はキリスト教を信じているから、武器を取って戦うことは拒否します」と言うんだよ。
 アメリカ軍の面白いところは、そういうヤツでも入隊させるんだよね。入隊させた後で、「この仕事はできません。これもできません。でも、このミッションだったら大丈夫」っていうことを見つけてあげるんだ。
 ベトナム戦争の頃は、そういう制度が当たり前になってたんだけども、だけど、第二次大戦の時には、仕組みとしてはあったんだけど、活用した人はほとんどいなかったんだ。
 そんな中に、デズモンド・ドスという若者が入って行って、「自分は武器を持って戦うことはできない。でも、祖国のために尽くしたい」ということで、第二次大戦中、アメリカ軍が最も苦戦したといわれるハクソー・リッジの戦いの中に、衛生兵として参加して、仲間を助けるという映画なんだけど。
 やっぱりね、すごいんだよこれが!

 もうね、「ハクソー・リッジは、冒頭15秒でプライベート・ライアンを越えた」と言われてる。まあ、その『プライベート・ライアン』が公開された時は、「ついにフルメタル・ジャケットを越えた!」というふうに言われてたんだけど。
 ここで言う、「戦争映画の越えた/越えてない」というのが何かっていうと、「どれくらい戦争をリアルに描いているのか?」っていうことなんだよね。

 例えば、1979年に『地獄の黙示録』が出て来た時は、それを見た観客は「ベトナム戦争ってこういうものだったんだ」と思い知らされたんだ。
 ベトコンを攻撃するということは、ヘリコプターで水田の上をバーっと通って、上からナパーム弾をバンバン落として、農民たちを機関銃でバリバリ殺すという、その当時まで、アメリカ人が考えていた「ベトナム戦争ってこんな戦争だったんだよな」っていうイメージは、完全に「一方的な虐殺」だったんだ。
 でも、「その虐殺されているアジア人というのは、アメリカ人に対して、すごく執念深く戦いを挑んできたんだ」っていうことを地獄の黙示録という映画が描いた。これが戦争映画の印象を変えちゃった。地獄の黙示録のおかげで、ベトナム戦争というのがすごい悪いイメージになったんだ。まあ、この映画が公開されたのはベトナム戦争が終わった後だったんだけど。
 まだその時代に生きていた、ジョン・ウェインとかのハリウッドの昔の戦争映画の役者たちが、もう、なんとか「ベトナム戦争というのを正義の戦争だ! いつものアメリカ人のノリだぜ! 民主主義を知らない国には、俺たちが行ってやる! 民主主義イエーイ!」みたいな映画を作ったんだけども、そういう映画は軒並み外れていって、地獄の黙示録だけが戦争映画の名作として残った。
 それは、「戦場のリアリティ」というのをちゃんと見せたからなんだ。

 その後、『プラトーン』という映画が作られて、これは「いやいや、地獄の黙示録なんてまだまだ気楽ですよ。本当のジャングル戦というのは、こんなにスゴいんですよ!」っていうのを打ち出した。
 「ジャングルの中でアジア人と戦うというのは、こんなに怖いことなんだよ? 俺たち、最新の装備を持っていても、ナイフしか持ってないヤツ相手にガクブルですよ」というのを描いたのがプラトーンね。

 で、その後、さっきも言った『フルメタルジャケット』が出てきた。
 いつだって「決定版」を作るのが大好きなスタンリー・キューブリックおじさんがやってきて「ちょっと待てよ」と。
 地獄の黙示録? わかったわかった。プラトーン? わかったわかった。……でも、違うだろ? 一番スゴいのは、ジャングルでもなければ、戦闘機でナパーム弾を落として、そのあとのヘリコプターからの機銃掃射じゃないよ。そうじゃなくて、「なんにも知らない軟弱な、ロックンロール聞いてヘイヘイ! って言ってるアメリカの若者が、兵隊として取られて、いきなりバリカンで頭をグリグリに刈られて、殺人マシンにさせられること」なんだよ! だから、俺は訓練シーンから撮るぜッ! 俺のフルメタルジャケットの冒頭シーンでは、本当に役者の頭を丸刈りにするぜ!
 ――って、本当に何十人もの役者の頭を刈って、死ぬほどツラい訓練から、鬼軍曹がどんなにひどい言葉を使って新兵たちをイジメ抜くのかを完璧に描いたんだ。
 これで「すげえ!」って思ったら、そこまではあくまでも「前半」で。後半では、「ベトナムに送られた彼らが、小隊移動という、A班とB班が交互に交互に移動しながら、どうやってベトナム人を殺していくのか? そして、「殺す」ということは、どういうことなのか?」を描いている。
 自分達は、前半で描かれた地獄のような新兵訓練によって強くなってるんだけども、それに対するベトナム側は、か弱い女の人が「このままだと家族が殺されるから仕方ない」と言ってライフル持って、狙撃兵として戦っているという、なんか、どこにも正義がないような状況を作ってるんだ。
 スタンリー・キューブリックが、そうやって「どうだ!? これが戦争だッ!」ってバーンって決めたわけだよな。これが1987年。

 そしたら、1998年に『プライベートライアン』が作られる。
 スティーブン・スピルバーグが出てきて、「いやあ、キューブリック先生のフルメタルジャケットには、みんなびっくりしたよね? でも、俺が作ったらもっとすごいぞ! キューブリックが作ると面白いけど、長いじゃん? 途中で寝ちゃうじゃん? 俺が絶対に寝ない戦争映画を作るぜッ!」と言ったわけだ。
 プライベートライアンでは、「オマハ・ビーチ」というノルマンディ上陸作戦で一番すごい激戦のシーンから始まるんだ。これがいわゆる「冒頭の20分」というやつだよね。アメリカ軍が海岸に上陸して、ドイツ軍のトーチカっていう固定砲台に手榴弾を投げ入れて降伏させるところまでが、「これでもか!」ってくらい描かれているんだ。
 耳元で「ビーン!」という弦楽器みたいな音をたてながら飛んでくる機銃の弾の間を掻い潜って、アメリカ軍の兵隊がガーッと海岸に上がって行くんだけど、砂浜にたどり着くまでの段階で、もう半分くらいはドイツ軍の機銃掃射で殺されて、海が本当に真っ赤に染まるくらいに死屍累々なんだ。
 そこで撃たれたやつらってのも……機銃の弾っていうのはすごくデカくて重いから、人間に当たったら、胴体の直径とそんなに変わらないくらいの穴が開くし、腕に当たったら腕が千切れ飛ぶ。足に当たったら足が吹き飛ぶんだよ。スピルバーグが撮った『プライベートライアン』の冒頭20分というのは、呆然となりながら自分の落ちている腕を拾って繋げようとしているヤツとかが、戦場の中でボンヤリ映っているくらい、ものすごい光景だったんだよね。

 このプライベートライアンは、天才スピルバーグが撮っただけあって、「第二次大戦映画の戦争表現の極限だ」というふうに言われてたんだよ。
 設定的にも本当に正確で。例えば、それまでも戦争映画はいろんなものがあったんだけど、プライベートライアンでは、オマハ湾に上陸するアメリカ軍のライフルの銃口に透明のビニールの袋が被せてあったんだよね。これ、何かっていうと、ライフルの中に水が入らないためのビニール袋なんだけども、そんなの実際にその戦場に行ったヤツ以外、みんな忘れてたんだよ。それをちゃんと調べて、全員の銃にビニール袋をかぶせたもんだから、世界中の軍事マニアから「これスゴいぞ!」って言われたんだけども。

 ところが、こないだ公開された『ハクソー・リッジ』はさ、『プライベートライアン』を冒頭20秒くらいで越えちゃうんだよね。
 「こんな戦争映画、見た事ねえ!」って。本当に僕も「まだこんな撮りようがあったんだ!」って思うくらいスゴいんだよ。
 おまけに『フルメタルジャケット』のような、「何も知らない普通の青年が兵隊になるまで」っていうのをちゃんと描きながら、「そいつらが沖縄に行って日本人とどんな戦い方をしたのか?」っていうのを、描き切ってる。
 もう、本当に、息も出来ないくらいスゴい戦争シーンだから、映画館でやってるうちに見たほうがいいよ。

 たしかに、ハクソー・リッジは、上映している映画館も宣伝やってる割に少ない。それはしょうがないよ、日本人を相手に戦っている映画なんだから。
 でも、メル・ギブソン監督だから、単純に「日本人を悪者にして撮ってる」ってわけじゃないんだ。すごい、ちゃんとした映画として撮ってる。
 そしてまあ、出てくる日本兵が強い強い。もう本当にね、持ってる装備が全然違うんだけども、アメリカ人と対等に戦うし、映画の方でも「まだやるか? まだやるか?」というてんこ盛り状態で、めちゃくちゃ面白いから、是非見てみてください。

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