岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/03/28
おはよう! 岡田斗司夫です。
今回は、2018/03/11配信「『ルパン三世 カリオストロの城』最後の解説(前編)」の内容をご紹介します。
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2018/03/11の内容一覧
- 今夜は『カリオストロの城』
- アバンタイトルは、「アニメーションの教科書」
- なぜルパンは札束を捨てたのか?
- 「ルパン三世」とはなにか?
- 東京ムービーの誕生
- 受け入れられなかった大人向けのアニメ
- 宮崎駿の転換と、近藤喜文の存在
- 『リトル・ニモ』という夢の顛末
- アニメ制作経験のない若者が集まった、テレコムというスタジオ
- 『オネアミスの翼』を手伝ってくれた伝説のテレコムスタッフ
- 最小の手間で実現された最高のオープニング
- 白いワンピースの女の子への思いやり
- メチャクチャすごい空のシーン
- 時間の経過を見せる
- ルパンと次元の関係を、セリフなしで表現
- 宮崎駿が本来描きたかったこと
- ブラカリ城「矛盾なく設定されている物語の舞台」
- カリオストロ城の裏側
- カリオストロ城のモデル
- 「1968年」の謎
- 「なぜルパンはニセ札を捨てたのか?」の謎が解けた
宮崎駿が本来描きたかったこと
ここまで『ルパン三世 カリオストロの城』オープニングの一連のカットを、ずっと説明しました。
さっき、「これは実は、コンテの段階から様々な箇所で手を抜いている」と言ったんですけども、本編では採用されなかったオープニングのコンテというのが、ジブリから発売されている『ルパン三世 カリオストロの城 スタジオジブリ絵コンテ全集』というものに掲載されているんです。
宮崎駿がテレコムのアニメーターのことを、もうちょっとマシだと思っていた時に、こうしようと思って描いたオープニングがあって、これがなかなかいいんですよ。
例えば、本来予定されていたオープニングで宮崎駿が描きたかったものというのが、これなんですけども。
(パネルを見せる)
田舎道を走るトラックの荷台に乗っているお姉さん2人に、地図を持ったルパンが道を聞いてるんですね。そして、道を教えてくれたことに礼を言うルパンに、ポイッとオレンジを投げてくれる。こういうシーンがもともとのコンテには描いてあります。
「お姉さんが投げてくれたオレンジを、ルパンがキャッチして、チュッと投げキッスをする」という書き込みもありますね。なかなかかわいいシーンです。
このコンテで注目すべきは、背景を引っ張る方向を指定する矢印です。この矢印を見ると、「トラックの横を並走していたフィアットが、最後、左側へ避けて行く」という、このシーンでの動きというのがわかります。
他にも「BG引き、マルチ」って書いてあるんですけど、どういう意味かと言うと「この背景の山と、手前の建物とを別速度で左側に引け」ってことなんですね。つまり、背景のAとBとを別速度で引くことによって画面に立体感を出して、更にこのフィアットを左端へはけることによって、画面全体にダイナミック感を出そうとしてるんですね。
この他に載っているのが、「山道でロバに引っ張ってもらうフィアット」というシーンです。
(パネルを見せる)
まあ、ルパンたちの乗っているフィアットは、こんな急勾配の山道は登れないので、ロバに引っ張ってもらっています。ロバの上には男の子が乗っていて、フィアットの屋根から顔を出した次元が、たぶん、足だけでハンドル操作をしています。ルパンは、ロバに負担かけないために、車から降りて、その横をゆっくり歩いています。
この時にも、「手前の木は下方向に引っ張って、奥の山は上方向に引っ張って、空も上方向にちょいと引っ張る」という指示がに書いてあるんですね。この引っ張る速度の差によって立体感を出しています。
(パネルを見せる)
あとは、これは「山道の途中でガソリンが切れたフィアットに給油するために、一旦山を降りた次元が、ヒーヒー言いながらポリタンクを担いで登ってくる」というシーンです。
これらのシーンって、ちょっと見てみたいと思うじゃないですか。こういうのが、メチャクチャカッコいいんだけど、今回のオープニングでは使われなかったボツシーンですね。
これらのシーンは、すべて作画の手間に掛かるものばっかりなんですよ。例えば「ロバをちゃんと正面から描かなきゃいけない」とか、あとは「オレンジを投げる女の人、投げキッスをするルパン」というふうに、作画的にちょっと難しい。だから、ボツにされたんですけど。
ただ、それ以外にも、これらのカットがボツになった理由があります。なぜかというと「これを見せると、ルパンと次元の孤独感がなくなっちゃうから」なんですね。
オープニングに、道行く人々との触れ合いを描いたこれらのシーンを入れてしまうと、「泥棒という生き方を選んだルパンと次元というのは、真っ当な人の世界からはぐれてしまった迷子のような存在で、それは楽しそうに見えるかも知れないけど、実は孤独で寂しいものかもしれないよ」という作者のメッセージが伝わらないんです。
こんなふうに、女の子にりんごを投げてもらって投げキッスをしてしまうルパンとか、もしくは山道でロバに乗った子供に引っ張ってもらうルパンというのを描いちゃうと、孤独感が出ないんですね。
そうじゃなくて、「真っ白な服を着て歩いている女の子を、気が付かれないようにそーっと避けていく」くらいのルパンのほうが、今回の映画の世界観には合ってるんです。
なので、こういった地元の人との触れ合いみたいなシーンは全部カットしています。
「あくまで、作画に手間の掛からないカットに統一した」というのももちろんあります。
例えば、草原の真ん中でスタックしてしまったフィアットを、次元とルパンが一生懸命押してるカットとかもボツになっているんですけども。これはもう、単純に作画が大変だから使うのをやめたんだと思います(笑)。
ただ、本編に採用されたオープニングを見てわかるのは、「ギリギリまで作画的な手間を省略した分、構図や画面全体の色味に徹底的に拘っている」ということなんです。
そういう視点から見ると、これらのシーンがボツになった理由は、やっぱり「色味がゴチャゴチャしてるから」なんですよ。採用されたカットというのは、1カット1カットの「明るい/暗い」や、「朝/昼/夜/夜明け」とハッキリした色味であり、なおかつ、抜けがいい画面と圧縮した画面が交互に繰り返されるなど、見てる人を退屈させない綺麗な構図で出来ているカットばっかりなんですよ。
作画監督を務めた大塚さんは、宮崎さんのコンテのすごさについて、「迷いや失敗をアニメーターに許さないところだ」って言ってるんですよね。
(続きはアーカイブサイトでご覧ください)
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