岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2018/04/02

おはよう! 岡田斗司夫です。

今回は、2018/03/25配信「押井守著『誰も語らなかったジブリを語ろう』を岡田斗司夫が語る!」の内容をご紹介します。
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2018/03/25の内容一覧

押井守『誰も語らなかったジブリを語ろう』

 押井さんの『誰も語らなかったジブリを語ろう』の話をしましょうか。

 まず、「ジブリ映画にはろくな評論がない。ジブリをけなす人はいない。なぜかというと、ジブリというのは、国民的アニメになったからだ。国民的アニメを批判しても誰も得をしない」と。
 例えて言えば、最近ネットニュースにも流れてたんですけど「吉永小百合の映画がコケても、誰も吉永小百合を叩かない」のと同じ。他にも、まだ存命だった時代に黒澤明が新作を作ったら、それが別に面白くなかったとしても、誰も「面白くない」とは言わずに、「重厚感がある」とか、「エンターテイメント性よりも本物を取った」とか、とりあえずみんな褒めるのと同じですね。
 国民的作品というのはそういうものであって、批判して誰かがいい気分になるようなものじゃない。いわば、オリンピックをやっている時に、オリンピック選手の批判が出てこないようなものですね。
 「ジブリの何がすごいのかと言うと、そんな国民的アニメを作る作家集団というところまでジブリを持っていった鈴木敏夫がすごいのだ。そして、ジブリ作品とは、逆に言えば、批判に恵まれない、かわいそうな状況にある」というのが押井さんの考えなわけですね。

 じゃあ、そんな批判に恵まれないジブリ作品に対して、押井守自身はどう考えているのかというと。
 押井さんによると「映画というのは「構造」がすべてである」と。映画が他の芸術媒体と比べて、何が大きく違うのかというと、論理的な構造によってすべてが組まれているということ。そして、こういった論理的構造性というのは、宮崎駿には決定的に欠けている気質である。つまり、「宮崎駿は「天才アニメーター」だけども、映画監督としては、おそらく二流以下である」というのが押井さんの考えなんですね。
 この「アニメーターとしては天才だけど、映画監督としては落第」という視点は、すごく面白いんですよ。この視点で語られる宮崎駿評には、この本の値段以上の値打ちが必ずあります。

(中略)

 たぶん、押井さんが定義しているこういった監督論、「監督とはこういうものだ!」というのは、現実の監督とズレ始めているんです。そして、ズレ始めていることには本人も気が付いている。だから、この本は押井守さんがインタビュアーであるライターの人に教えるというインタビュー本みたいな形で作られてるんですけど、途中から「えっ? そうは思いませんけど……」と言うライターの人に対して、「こうなんだよ!」と押井さんが自分の理屈を押し付けるみたいになってるんですよ。
 要するに、押井さん自身も、この本の中で最も大事だと言っている「論理」で相手を説得することができていないんですよね(笑)。そういうところも含めて、全部をさらけ出しちゃうところも、この本の面白さなんですけど。
 つまり、押井さん自身の監督論というのも、ややズレてきているかもしれないし、機能してるかどうかもわからない。それに関して押井さんが論理で説明できなくて、なんとか例え話で押し切ろうとしている、と。こういうところも気をつけて読めば、この本は、すごく面白いんですよ。

(中略)

 愛がないのの何が問題なのかというと、「自分には重要な部分が見えないから、評価ができかったり、このアニメを面白く感じられないだけなんじゃないか?」とか、「この人の才能がわからないんじゃないか?」という「自分自身の無知への恐れ」みたいものが生まれないところなんですよ。
 この本の中では、押井さんの、エリートとか学生運動の人達の間で年中論争ばっかりして青春時代を送っていた人特有の「断言で人を脅す」というテクニックがすごく入っているんです。
 この本の中で「鈴木敏夫は恫喝で人を動かしている」と言ってたけど、押井さん自身も、インタビュアーの人をすごい恫喝してるんですよね。だから、僕なんかは「なんか「口がうまいコミュ症」みたいな人だな」と思ってるんですけども(笑)。

 ところが、それはあくまでも、この本の前半の話なんですよ。後半はものすごいんです。あのね、高畑勲のことを語りだした押井守は、たぶん、世界で一面白いんですよ。
 なぜかというと、押井守さんは、宮崎駿に欠片も向けていない愛を、高畑勲に対しては向けているからです。かつて高畑勲を尊敬していて、今は「かつて高畑勲を尊敬していた俺自身が恥ずかしい!」と思うというような、歪んだ愛を(笑)。

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