岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/11/09

 今日は、2019/10/20配信の岡田斗司夫ゼミ「驚異の2時間トーク!朝日新聞「悩みのるつぼ」卒業記念講演」から無料記事全文をお届けします。


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「悩みのるつぼ」卒業記念講演の内容

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【画像】スタジオから

 こんばんは、岡田斗司夫ゼミです。
 9月にやった「悩みのるつぼ」卒業記念講演というのがあるんですけど、今日はそれを配信しようと思います。
 講演が始まって、一番最初に「なんでこの講演をやることになったのか?」という経緯説明をやっています。
 これは、ニコ生やYouTubeで見る人には関係ないので、興味がない人は飛ばしてくれて構わないんですけど。一応、これは伏線にもなっているので、ちょっと聞いておいていただければありがたいと思います。
 具体的な内容が始まるのが、5分目辺りからですね。
 1つ目の人生相談の「婚活してるんだけども、ちょっとモヤモヤしている」というのに対する答えは、13分目辺りから始まります。
 2つ目の相談「高校時代に好きだった人が忘れられない」というのに対する答えが、30分目辺りから始まるので、ちょっとせっかちな人や時間のない人は、自分の興味あるところまでサッと飛ばして見てみてください。
 今回、この講演の中で皆さんにお見せする無料の部分は、60分あります。どうぞ存分に楽しんでください。
 それでは、岡田斗司夫の「悩みのるつぼ」記念講演、始まります。

人生相談の悪手と「相談している人を疑う」こと

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【画像】講演会場から

(本編開始)
 はじめまして岡田斗司夫です。
(会場、拍手)
 どうもありがとうございます。ありがとうございます。
 あの、普通、こうやって拍手とかをしてもらうと、ものすごく頭を下げるんですけど、今日はあまり頭を下げません。
 その理由は、もう、たった1つでありまして。
 実は、この卒業記念講演、こういう講演って、だいたい新聞社主催とか、どこかに協賛企業があったり、または皆さんが参加費を払ったりするのが当たり前なんですけど。今日のこれは、実は僕の趣味で開いてまして。「新聞連載が終わったから講演をやりたい」と自分で言って勝手にやっているんです。
 この会場代から何からで、嫌な話、20万円くらい掛かってるんですけど、これ、全部、僕の自腹なんですね。
 なので、今日、僕は全然ここにプレッシャーを感じてないんです。たとえ、講演が面白くなくても、「皆さんは交通費しか負担してないのに、俺は20万以上も払っている」という気楽なポジションで話してますので(笑)。
 今日の講演は、だいたい2時間くらいあるんですけど、途中で1時間目くらいになったら、10分か15分くらいトイレ休憩を入れます。
 その後、まだ話す時間が残っていたら、さっき皆さんが書いてくれた相談について話しますけども……今、見たら、わりとあるんですよね。
(会場から集めた相談用紙の入った箱を見ながら)
 あるんですよ。結構、びっしり書いている人もいるので、これを出来るだけ消化したいと思います。

 今日、皆さんには、実は「申し込みフォーム」というのを書いてもらいました。
 だいたい、新聞社のこういう講演会って、往復はがきでやるんですけど、往復はがきだと、やりとりが遅くなるというのと、あとは「新聞に載っているQRコードもしくはURLというやつを見て、自分でフォームに辿り着けるような人しか来なかったら、便利だ」と思ったので、勝手にそういう枠を作らせてもらったわけですね。
 なので、皆さんは、あそこに色々と書かなきゃいけなかったと思うんですけど。それを書いてもらったおかげで、ここにいる皆さんは、だいたい10代から70代くらいまでの年齢層で、ほぼ均等に分かれています。男女比もほぼ1対1になるように配してます。
 僕にとって、こういった理想的な講演環境は初めてなんですね。だって、そんな年齢層の偏りも性別の偏りもない講演なんて、普通、出来ないんですよ。
 皆さんは、約8倍の競争率を抜けてここに来られました。

 という、講演会であります。
 なにか質問や相談がある方は、カードが配られていると思うので、それに書いて適当に、その箱に入れていただければ結構です。
 よくある手を挙げて質問というのはやりませんので、何か聞きたいことがあったら、そこに放り込んでおいてください。よろしくお願いします。

・・・

 朝日新聞土曜版の人生相談コーナー「悩みのるつぼ」というのを、僕、コーナーの誕生の第1回から担当していて、10年以上やってたんですね。
 それを、この間、卒業しました。今日はその卒業記念講演というやつなんですけど。
 講演の申し込みフォームの中に「岡田斗司夫に一言」という記入欄があったんですけど、そこでわりと多かったのが「なんでやめるんですか?」という質問だったんですね。
 もう、それは、本当に去年の今頃「シンドいな」と思ったからなんですよ。

 「シンドい」というのは何かというと「やり遂げる楽しさよりも疲労感の方が上回ってしまった」と。
 10年間、1回もそれがなかったんですよ。とにかく面白くて、面白くて、どんどんやってたんですけど。去年の秋くらいに、面白いよりシンドいがちょっと上回って「これは辞めるサインだな」と思ったんですね。
 まあ、それで辞めようと思ったんです。それでも、決心するまでにはちょっとかかって、今年の3月くらいに編集部にお願いしたら、「後任者を見つけるのに時間がかかるから、もう半年くらい担当してくれ」と言われたので、その半年後の9月にめでたく辞めることが出来たんですけども。
 だから、この3月から今までの6ヶ月間、続けて来たのは「辞めたい」と急に言って辞める自分の我儘に対する支払いみたいなもんですね。そんなことって、普通、あんまりないですから。
 普通なら、編集部から「先生、そろそろご引退を……」みたいなことを言われて辞める場合が多いので、自分から辞めると言い出すということには、向こうもかなりビックリしてまして。なので、ちょっと支払いをしてました。

 なんで疲労感の方が楽しさを上回ったのかと言うと、別に、疲れる相談が増えたわけではないんですよ。
 そうじゃなくて、純粋に、書いてて楽しい気持ちがちょっと減って来ちゃったんですよね。
 あのね、やっぱりパターン化してるんですよ。自分でもわかる。初期の4年くらいは、自分で言うのはナンですけど、「上手い!」って思う答えが3ヶ月に1回くらいはあったわけですよ。
 ところが、まあ最近はですね、その「上手い!」って思うのが、半年に1回くらいになってしまった。これはたぶん、あんまり傍から見てもバレない程度だと思うんですけど。
 だけど「まあ、仕方ないからやろうか。だって、朝日新聞だしね。キャリアにもなるし」なんて思い始めたら、たぶん、もうそこで最後なんですよね。
 こういう仕事って、本当に「やり甲斐が100」なんですよ。「やり甲斐100で、それ以外は0」でやるべきという、わりと特殊な仕事なので、そう思ってしまったら、そこで辞めるべきなんです。

 多くの人に、今回のアンケートも含めて「残念です」とか「続けてください」と言われたので、メチャクチャあの盛り上がったんですけど。
 でも、盛り上がったからといって、やり甲斐は増えないので(笑)。
 すみません、なんでこんなことを笑いながら話しているかというのは、後で話します。ちょっと、自分自身、変わったところがあるので、変なタイミングで笑うと思いますけど。
 最後の2回くらいは「はい、これで終わり!」と気持ちよく駆け抜けることが出来たので、自分では、なかなか良い感じの終わり方だと思っています。

・・・

 ここからが本題です。
 そもそも、僕はこういった新聞の人生相談というのを、あんまり読むタイプじゃなかったんですよ。
 だから、かれこれ10年間も続けてきたんですけど、最初に依頼を受けた時にはすごくビックリしたんですね。「とりあえず、やったこともないけど、面白そうだな」と思って引き受けたんですけど。
 この悩みのるつぼというコーナーには、4人の回答者がいて、毎週、週替わりで悩みに答えるわけですね。だから、月に1回くらいの間隔で自分に担当が回ってくるんです。

 「僕は人生相談をあんまり読まない」って言ったんですけど、なんで読まないのかと言うと、僕にとってあんまり面白くないものが多かったからなんです。
 それは、普通の人が他人から受けた相談に答える時のパターンと似ているんですけど。
(ホワイトボードを指差して)

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【画像】相談に答える悪手

 ここに「悪手」と書いてあります。
 悪手というのは、まあ、たぶん、将棋とか囲碁の用語だと思うんですけど。悪い手のことですね。「これはやっちゃいけないよ」というパターンなんですけど。
 だいたい、人生相談に答えるのが下手な人というのは、聞いている途中で「そこ、間違ってる!」って、指摘しちゃうんですね。
 おまけに、聞いている最中に「こうすればいいに決まっている!」っていう、自分の中の結論を見つけちゃう。
 そして、途中からは、相手の話が終わるまで「さあ、どういうふうにこれを言ってやろうか?」と、言い回しとかを考えるようになっちゃうんですね。
 こういう特徴は、だいたい頭が良い人に多いです。なので、頭の回転が速い人は、あまり人生相談に向いていないと思っています。なぜかと言うと「相手の話す速度を飛び越えて、自分の頭が回転しちゃうから」ですね。
 そうじゃなくて、ゆっくり考えなきゃいけないんですよ。ゆっくり考えるためには、どうすればいいのかと言うと、相手が何か一言口にする度に、その一言を言い返してどんどん言葉を引き出すくらいのやり取りに持っていかないと、なかなか人生相談というのは上手くいかないんです。
 でも、新聞とかの人生相談を見ると、なんか、相手が言っていること、読者の相談に対して、すぐに答えを思いついて「こうすればいい」と考えて、「じゃあ、どのように新聞の紙面で文章に書いてやろうか?」と思っているような、なんか薄いのが見えてたような気がしてたんですね、10年くらい前までは。
 「そういう人生相談が多いんだったら、自分自身が入って行って、色々とやり変えるチャンスあるかな?」と思って引き受けたんですけど。

 なので、相談に答える時には「そういう悪いパターンにならないために」ということを考えていました。
 これも「今後、皆さんが人生相談を受ける時に、これを覚えておいてくれれば、あまり変なことをしなくて済むよ?」ということなんですよ。
(ホワイトボードを指差して)

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【画像】人生相談でやったほうがいいこと

 これをやった方がいいよの1つ目は「自分が思いつく答えは、相手もすでに検討済みである」ということですね。
 悩みを持っている人というのは、ものすごくリアルに考えているわけですよ。なので、自分がすぐに思いつきそうな答えというのは、だいたい相手は想定済みで、それを何度も却下して考え直すということを繰り返しているわけですね。考えた上で落としているわけ。だから、あんまりそれをアテにしない。
 相手はすでに、そんな答えには気付いているわけですよ。その相談を聞いた時「そりゃ、これしかないだろう」という答えは、だいたい、相手も引き当てているわけです。「じゃあ、なんで、相手はそれを聞いてくるんだろうか?」と、そこを考えないと、全てが崩れちゃうんですね。
 例えば、「子供が勉強しないの」と言われたら「ガミガミ言い過ぎじゃないの?」と答える、「彼氏が浮気するの」と言われたら「そんな彼氏とは別れた方がいいんじゃないの?」と答える。でも、そういう答えは、全て、相手はもう思いついていて、検討済みなんですよね。
 なのに、なぜそれを聞いてくるのかというと、「そういう普通の答えでは納得出来ない理由というのが、ハッキリと口に出していない部分にあるから」なんですよ。
 で、この「ハッキリ言っていないこと」というのは、僕ら自身が他人に相談する時のことを考えたらわかると思うんですけど、絶対に情報をチョロ出ししてるんですね。
 あんまり言いたくないことは最後まで隠しておいて、わりと人聞きが良いような、一見、相談に見えるんだけど、実はどうでもいいことくらいから、チョロチョロと相手に出して、相談を始める。ところが、相手はそれが相談の本質だと思っちゃうから、自分が序盤に出している、「そこは、わりとどうでもいいんだけど」みたいなものに、あっという間に食いついて、結論を出して、答えたつもりになっちゃう。そうすると、自分も相談する意欲を失っちゃう。こういうパターンがあるんです。
 なので、「普通の答えでは納得できない理由が、相手には必ずある」と。それを聞き出すなり、まあ、言ってくれないかもわからないので、こちら側で考えない限り、人生相談というのは、上手く行かないんですよ。

 というのが、僕が10年間くらいやってきたパターンなんですけど。
 こういうことを、しょっちゅう考えているもんですから、僕は「相談している人を疑う」というクセがついてしまいました。
 具体的に言うと、新聞社に寄せられる文章を……実際に新聞社に寄せられる文章というのは、新聞に掲載されているものより、もうちょっと長いそうですけど、編集者があそこにまとまるように収めてるんですけどね。
 新聞記者というのは面白いもんで、本質をズラさずに文量だけを縮めるというのが、メチャクチャ上手いんですよ。というのも、新聞って紙面が限られていて、「急に何かのニュースが飛び込んできたら、他の記事が5行縮まる」とか「明日の天気が崩れそうだといったら、天気概況が2行伸びる」ということがあるんですね。
 すると、自分が苦労して書いた原稿を、その分だけ減らさなきゃいけない。こういうことが年がら年中あるから、とりあえず文章量の調整は、彼らはすごく上手いんですよ。なので、文量は調整しているんだけど、わりと文章の本質は、そのまま残してくれるんですけどね。
 で、新聞社に寄せられる相談文というのを、僕はあんまり信じないようになりました。
 これは、相談している人の人格を疑っているわけじゃないし、相談文に噓が書いてあると思っているわけでもないんですよ。
 でも、相談者本人の中には「言いたくないこと」や、あとは、もうちょっと複雑な「あんまり考えたくないこと」みたいなものが心の中にある。それらは相談文の中に決して書いてないんだけども、どこかに隠れているような気がするんですね。

「占い師に負ける」人生相談

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【画像】講演会場から

 では、実例です。皆さんに配ったプリントの一番最初のやつです。


「父親の借金を背負い続ける彼」

50代のバツイチ女性です。
離婚して10年。一人暮らしも辛くなってきて婚活を始めました。たまたま大学時代の友人と連絡がとれ、婚活の話をすると、ありがたいことに立候補すると申し出があり、お付き合いを始めることになりました。
彼は1つ年上で結婚歴はありません。亡くなったお父さんが多大な借金を残したことは、うわさ話で聞いていました。
わたしは、別居婚には興味がなかったので、何度も確認してから交際を始めたのですが、次第に同居出来ない事情があるらしいことがわかってきました。
現在、一緒に暮らしている叔父さん夫婦に、亡くなったお父さんは多額の借金があり、本人は返済を続けながら、二人が亡くなるまで同居する約束だというのです。また、実はお父さんは自殺で、その第一発見者が彼だったことも聞き出しました。
最初に確認したとき、借金や叔父叔母さんとの同居の本当の理由を話してくれなかったことに不信感を覚えています。また本人の性格と事情から考えると、このままお付き合いしていても、時間が経つばかりで、叔父叔母が長生きすれば、いつまでも結婚も同居も出来ないかも知れません。
一方で、今私が見捨てたように去れば、彼はどんなに辛いだろうかと考えると、もう少し待ってみようと思ったりもします。どうすれば良いかアドバイスをお願いします。


 こういう相談です。

 僕、相談を聞いたら、だいたい「要するにどういうことか?」っていうのを考えるようにするんですけど。
 はい、皆さんが来る前に書いておきました。頭いいでしょ? あらかじめ板書しておいて、その時間分、長く喋ってやろうと思ったわけですね(笑)。
(ホワイトボードを指差して)

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【画像】相談1

 まず「1. 50代で10年前に離婚」。
 で、この人は「2. 同居するために婚活してて、大学時代の知り合いと付き合うことになった」と。
 しかし、「3. 彼には同居できない事情があった」と。これは後出しだったんですけど。
 その結果、「4. 別れるべきだと思うけど、気の毒だし、別れるのは無理」と。

 これが、この相談の概要なんですけど。
 もともと、この人は「独り暮らしが嫌なので婚活している」はずなんですよ。同居人を探すために婚活しているんだから、同居できない事情があるんだったら、さっさと別れるのが、まあ筋なんですね。人情ではなく筋なんですけど。
 でも、この人は嫌みたいです。嫌な理由は、最後に書いているように「今、私が見捨てたように去れば、彼はどんなに辛いだろうか」とカッコいいことを書いているんですけども。
 ……今、俺、こう言って、ちょっとビビってるんですけど。実際にこの相談を送ってくれた人が、この場にいるかもわからないんですもんね。もし、いたら、すみません(笑)。
 まあ、カッコいいことを書いてるけど、本音はね、別れたくないんですよ。人間にはね、「好きだから」とか「もったいないから」とか、いろんな理由があるんだと思います。
 とにかく、自分では「別れたくない」と思っているから、別れたくない理由というのを探して、一応、最後にカッコつけて書いているんだと思うんですね。

 なぜ、僕がそんな読み方をするのかというと、相談文って、だいたい「自分にもこういう悪いことがある」というネガティブなことを入れるタイプの人と、絶対に入れないタイプの人に分かれるんですよ。
 この人は入れないタイプです。弱みを見せないタイプですね。
 ということは、別れたくない理由が「彼が可哀想だから」という部分は、ちょっと割り引いて聞くことにするんです。
 これが、まあ「相談者を疑う」ということなんですけど。

 つまり、理性では「こいつと付き合っても無駄だ」ということが、そろそろわかって来ているんですけど……すみませんね、こんなエゲツない言い方になって。
 感情では「でも、好きなの!」とか「でも、もったいないの!」とか「でも、いい男なんだもん!」「でも、大学の時、彼、モテてたもん!」とか、どんな理由があるのかはわからないんですけど、感情的には別れたくない。
 この人は、理性より感情が勝っているタイプだと思うんですよね。
 なので、「今、私が見捨てるように去れば~」という建前を、つい考えてしまって、その結果、人間というのは面白いことに、自分自身が考えた建前に縛りつけられちゃうんですね。
 本当言えば「彼と別れたくない!」というのが、たぶん本音なのに、その建前として「今、彼を見捨てたらちょっと可哀想じゃないか」という理屈を考えついた。すると、その建前に、自分がいつの間にか縛られてしまって「別れちゃいけない」という気がしてしまう。
 ところが、時間はどんどん経って行くし、自分は誰かと同居するために婚活しているわけで、焦りが生じてきて、同時に「早く別れなきゃ!」という気もしてきている。
 この2つの自分の心が、ぶつかっていると。自分自身が創り出した建前と、リアルな状況という、この2つがコンフリクト(衝突)を起こしちゃってるわけ。
 そこで、この人は「さあ、どうしようか」と悩んでいる。たぶん、普段からあんまり、こういう新聞とかに相談をしないタイプの人だと思うんですけど、相談文を寄せて来ました。

・・・

 じゃあ、どうすればいいのか?
 こうなると、回答者である僕の役割は「彼女に、自分自身の建前に気づいてもらうこと」なんですけど。
 ここでズバッと「あんた、本当はこうでしょう?」って書いても、たぶん何も解決しない。
 では、どうすればいいのか。

 まず、「そいつはダメ男だ」と言わなきゃいけないんですね。
 ところが、彼女はまだ相手の男が好きだから、「ダメ男」って書いたら反発されるんですよ。
 そこで僕が編み出したのが「そんなダメ男を見捨てなかったあなたは偉い!」って最初に書いたんですね。「あなたは偉い!」って書いたら、「彼はダメ男」と書いても、たぶん許してくれるだろうという計算で書き出したんです。
 「ダメ男を見捨てなかったあなたは偉い! ……でも、落ち着いて考えてみようよ」という2段にしようと思って、第1段階では、これまでの行為を褒める。「見捨てなかったのは本当に偉かったですよ! ナイス判断ですよ!」と。で、2段目で「でも、彼の行動をもう一度振り返って、ちょっと考えてみませんか?」と続ける。
 一度、褒めてから「彼のことをちょっと疑ってみませんか?」と言うことで共犯者関係になるわけですね。
 まず、相談者と敵対関係になって、彼女が味方をしている相手に対して、僕が文句を言ってたら、彼女の親とか兄弟が「そんな男と別れろ!」と言っているのと、全く同じ状況になるわけですね。
 そうじゃなくて、まずは彼女と共犯関係になって「ダメ男と別れなかったあなたは偉いですね!」と言ってから、2人掛かりで彼の行動を検証するという流れに持っていかないと、なかなか振り向いてくれないんです。
 そして、第3段階。ここが大事なんですけど、「彼と別れることを勧めない」ということです。
 ここに書かれている状況から見たら僕は絶対に別れた方がいいと思うんですけど、でも、それは僕の勝手な判断なんですね。
 なので、「もし、このまま付き合うとしたら、こういうことを覚悟して、考えた方がいいよ」という提案をしようと思いました。

 この3段構えで書いたのが、こういう答えです。


あなたは素晴らしい女性です。多大な借金を知りながら、結婚前提の交際を始めました。


 もう、ここから始まるんですけど。
 確かに、この人はすごいんですよ。「この彼氏には借金がある」と、友達の噂で知っていながら、結婚しようと思ったんですから。相手のリスクを全部引き受けようと思ったんですよ。
 その意味では、彼女は、僕は色々いいましたけども、度胸がある良い女だと思います。


でも私から見ると、彼はそんなあなたにふさわしくないように感じます。
そもそも、そんな事情がある人がなぜ、あなたの結婚相手に「立候補」してきたのでしょう?
何度も確認したのに、付き合い始めた後でタイミングよく出てくる「なぜ同居できないか」という不幸話の数々。
ついでに言えば、それらはすべて「彼がそう言っているだけ」であって、あなたが自分で確認したことではありませんよね?
「彼の話は全部ウソに違いない」と断言するつもりはありません。でも最悪の予感がしませんか? 「父親の不幸を理由に、50を過ぎて一人暮らしも結婚もせずに叔父夫婦の家に居候するダメ男なのかも?」って。
こういうタイプの男性は結婚が話題にでるたびに、同情させるような話題で「できない理由」を教えてくれます。
居心地の良い居候生活から抜け出したくないので、まるで叔父夫婦の老後に責任があるかのように語ります。
とまぁ、こういう私の一方的な邪推を繰り返しても意味がありません。大事なのは「彼の現状の確認」と「その上でどうするかの判断」です。


 こんなふうに、僕の持っている疑いを全部言ってしまってから、「でも、これは邪推ですから、あなたが確認するのが一番いいですよ?」と言うわけですね。


彼の家に行って、おじさん夫婦と話しましょう。
「結婚前提で付き合っています。あなたたちに借金があるため独立できないと言われました。結婚したら私も借金を引き受けますので、再交渉させてください」って。
もし彼が叔父夫婦に会わせてくれたら、私の言ったことは間違いです。謝ります。
その場合は「優しすぎて何でも引き受けてしまう彼」に代わって、叔父夫婦との口約束を交渉で再契約してください。二人の将来については、彼じゃなくあなたが主導権を持つべきだからです。
でも、もし彼がまたもや「新しい理由」で会わせることを拒否してきたら……わかりますよね? 彼は「そういう男」です。
あなたの動機がいまも「婚活のみ」なら別れるべきでしょう。彼と別れられない理由が「恋愛」になっちゃってるなら、ダメ男との恋愛を楽しむことだけ考えましょう。
50を過ぎて「借金をいっしょに背負ってもかまわない」と思える恋愛に出会えたことだけでも、実はラッキー! そう割り切れるなら、ダメな彼と知りつつもう少し様子見をしても大丈夫だと思います。


 こんなふうに書きました。

・・・

 これを送った時、編集部はかなり驚いたんですね。
 「悩みのるつぼ」って、相談してきた人とコンタクトを取る場合が多いんですよ。「こういう回答が岡田さんから返ってきたけども、大丈夫か?」というふうに聞くわけですね。さすが朝日新聞、コンプライアンスです。
 とはいえ、朝日新聞というのにも、出版社としての矜持というのがありますから、プライドがありますから、もし相談者から「ダメ」と言われても、掲載を下げたりしないんですね。そうじゃなくて、相談文の方のニュアンスを変えたりして、全般の当たりを柔らかくするんです。
 つまり、僕の権利は侵害しない。相談者の権利も侵害しない上で、ちょっと確認を取るわけですよ。
 そしたら、相談した人この50代の女性は、僕の答えに納得してくれなかったそうで、「彼はそういう人じゃない!」って言って来たんですよ。
 でも、僕の答えを掲載することは許可してくれた。まあまあ、やっぱり心の広い人です。
 その結果、新聞に掲載されました。
 その一週間後、編集部から、僕のところに、こんなお便りが転送されて来ました。相談者の彼女からの直メールです。


お世話になっております。
さて、あれから岡田さんのアドバイスをそのまま実行してみました。


 これには理由があるんですけど、後で。


彼に「叔父叔母さんに会わせて欲しい」と頼むと、今更ながら「段取りするから待って欲しい」と言われ、その後「叔父叔母は会いたくないと言っている」と言い出しました。
「それでは自宅に連れて行ってもらいたい。外で見てるから、あなただけ家に入る様子だけでも見せて欲しい」と頼むと「無理だ」と言われました。
「それなら、免許証で住所を確認させて欲しい」と言っても、決して見せてくれません。
とうとう「残りの借金は700万でなく7000万で、叔父はヤクザだった」と言い始めました。
あまりに話がコロコロと変わるので、私も信用できず、別れ話を伝えました。「預かっていた荷物を会社へ本人名で送ります」とLINEすると、慌てて荷物を取りに来ました。
岡田さんの明察通りの展開となり、まさかこんな不誠実な人柄とは思いもよらなかったので、呆れ果ててしまいました。


 僕はこれを読んだ時に、ちょっと呆れたんですよ。
 「まさか、こんな不誠実な人柄とは思いもよらなかったので呆れ果てる」前に、自分の判断力に呆れ果てろよ、と(笑)。
 たぶん、これ、新聞で相談文を読んだ人のほとんど全員が「この男はダメだ」とわかっていたと思うんですよ。でも、本人は気がつかない。面白いことに。
 この呪いみたいなものをちょっと外してあげると、急に動けるんですけど、なかなかこれが外れないんですよね。


ヤクザと言えばこちらが怖がって断ってくるだろうという魂胆なのでしょう。


 こういう書き方から、もう本当に、彼に対する恋愛感情がなくなっているんですよね。


思い出すと、最初から何事も自分からハッキリと言わず、私が推察して言った言葉を利用して嘘を重ねていた印象です。
いい歳をして、相手の本質を見抜けず、すっかり舞い上がっていた自分自身も不甲斐ないのですが、嫌なら断ればいいだけのことでさえ、自分から言わず相手から言わせるように仕向けるやり方にも情けなくなりました。
ちなみに、占い師によると「何度も同じようなことをしているヤツ」らしく、「男女を問わず借金をして踏み倒している、かなり悪いヤツ」らしいです。
この真偽の程も私は調べようもありません。また、そもそも彼が今誰と暮らしているのかも、とうとう判明しないままです。
以上のような結果となりましたが、人は歳月を経るとどのように変貌していくのかわからないといういい勉強をしたと思います。
でも、楽しかったこともあり、お金の被害はなかったので、占い師が言う程悪い人にも思えないのです。やっぱりちょっと甘いかもしれませんね(笑)。
岡田さんには、適切なアドバイスを頂き、よいきっかけを頂きました。お手数ですがお礼申し上げて頂けましたら、お伝えください。
今度は、ちゃんとした結婚相談所に登録しようと思います。


 というふうに書いてありました。
 つまり、この人、僕の回答を読んだ時は納得できなかったので、占い師のところに行ったんですよね。で、占い師に「その彼は信用ならんよ」と言われて、それで、僕が書いていることを確認してみたら、やっぱりそうだった、と。まあ、解決したから良かったんですけど。
 所詮、新聞の悩み相談というのは……さっきまで僕は、とうとうと理屈を語り、推理を語り、「それが当たっただろう?」みたいに、まるで自分の手柄みたいな話し方をしましたが、人生相談において、ロジック、理屈というのは占い師に負けるんですよ。その程度のものなんですね。
 あとは、まあまあ「反省してないなあ」とかですね(笑)。
 でも、この人は、別に結果として上手く行っているから、全然問題ないんですよね。反省する必要もない。
 さっき僕が話した「なんで、自分は騙されたんだろう?」というのも、僕はもう、ある種の呪いみたいなものだと思っているし、角を曲がる時に石に蹴つまずいたみたいなもんだと思うから。
 「原因を特定して、自己を反省して、行動を直そう」なんて、50過ぎてからは考えなくてもいいんですよ。今、上手く行っているんだったら、問題ない。

 このように、新聞の人生相談というのは、相手に納得してもらえるとは限らないんですね。
 でも、その人の役に立たないと意味がない。
 この辺りの加減が難しいんですね。
 必ずしも、相手に納得してもらう必要はないんだけども、でも、役に立たないと意味がないので、時には、その人があんまり聞きたくないことも言わなきゃいけないわけですね。

サイコパスによる相談の「因数分解」

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【画像】講演会場から

 では、2つ目の事例に入ります。


「好きと言われて苦しい」

20代女性です。
私は高校時代からの友人にずっと恋をしています。私が好意を伝えた今でも時々会って食事をしたり遊んだりしてくれるだけで幸せになりますし、その人が幸せな時は私も幸せです。
先日、その人から恋人ができたと報告を受けました。その人が幸せを手に入れたことをうれしく思いました。私が幸せにできたらもっとうれしかったでしょう。でも、私はその人を好きな自分が好きなのです。
話は変わるのですが、そんな自分勝手な私のことを好きだと言ってくれる人がいます。彼とは大学で出会いました。一緒に映画や買い物や食事に行きます。他の異性の友人ともそのような付き合い方をしていますから恋心は全くなく、彼も友人の一人だと思っていました。
しかし彼は違ったようで、私が振り向くまで離れる気はないようです。私に好きになってもらえなければ生きる意味がないとまで言います。私は干渉されるのが好きではないため、そんな風にアピールを受けるたびに彼が面倒になります。私を苦しめないようにすると言いますが、正直苦しくて仕方ない。私は彼を嫌いたくはないのに。
添い遂げられるわけでもない人を好きでいながら、そんなにも私を好きでいてくれる彼を愛せない自分はおかしいのでしょうか。彼を愛せるよう努力すべきなのでしょうか。


 という相談です。
 これも今年になってからの相談です。今回は比較的最近のやつばかりを選んでみました。

 じゃあ、今回もまた、この20代女性の相談したいことをまとめてみましょう。やっぱり、だいたいこの4段階になると思います。
(ホワイトボードを指差して)

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【画像】相談2

 まず、「1. 高校時代の友人がいまだに好きな20代女性」。
 で、「2. その人に恋人が出来たけど、素直に祝福することが出来た」。
 ところが「3. 自分を好きだという男が現れた」。
 その男は、しつこくしつこく言い寄ってくるわけですね。その意味では自分と彼は同じ立場なわけです。彼女も、自分のことを好きではない昔の友人に「好きだ、好きだ」と言い続けて、その人に恋人が出来たんだけど「まあ、それでいい」と思っている、と。
 同じように、自分のことを好きだ好きだという男性がいるんだけど、なんか、その男性のことは気に食わないというか、その人に好きだ言われると、不安になって、ツラくなってくる。
 結果、「4. そんなに自分のことを好きだと言ってくれる彼を愛せない私は変なのか?」と。
 これが相談です。

 今回の講演への申し込みフォームには、岡田斗司夫へのメッセージ欄があって、皆さんに書いてもらったという話をさっきもしましたが、その中で一番多かったのが「どうやって回答を思いつくんですか?」というものだったんですね。
 「どうやって、こういう文章を書くのか?」ではなくて、「そもそも、回答を思いつく視点というのを、どうやって手に入れたのか?」ということなんですけど。

 まあまあ、手っ取り早く言っちゃうと、僕は「この相談者の彼女は同性愛者、レズビアンの人ではないか?」と思ったんですね。
 なぜかというと、人称代名詞が違う。この人は、すごく注意深く、自分が好きになった相手のことを「高校時代の友人」「その人」「恋人ができた」と書いている。
 もし、この人がレズビアンでなければ、「彼に彼女ができた」というふうに書くはずなんですよ。
 というのも、その次に自分を好きだという男の人を書く時には、人称代名詞がちゃんと「彼」なんですね。
 つまり、この人は「彼 / 彼女」という言葉と「その人」という用語を、文章内できちんと使い分けているんですよ。
 普通、こういう人称代名詞が混在する人、ゴチャゴチャになっちゃう人というのは、文章が下手な人が多いんですよね。
 ところが、この人は、大変クレバーな文章を書いている。言葉の使い方から、人称代名詞以外の日本語の使い方は、ほとんど完璧なんですよ。
 ということは、ここの部分に何か変なことがあると、僕は考えたんですけど。

・・・

 なんで、そういうことを最初からパッと思っちゃうかというと、僕、普通の人とはちょっと違う、いわゆる心の障害というのを持っているんですね。
 僕は、実は……まあ、別に診断を受けたわけじゃないんですけど。おそらくサイコパスという症状があるんですよ。
 サイコパスというのは何かと言うと、「反社会的人格」と言われます。
 反社会的人格。良心が異常に欠如している。他者に冷淡で共感しない。慢性的に平然と嘘をつく。行動に対する責任が全く取れない。罪悪感が皆無。自尊心が過大で自己中心的。口が達者で表面が魅力的(笑)。
 全てが当てはまるわけではないんですけども、自分でも「なるほどねー」って思うんです。
 この「なるほどねー」と思うところが、僕が思うにサイコパスなんですよ。というのも、普通の人は「こういうのがサイコパスで、反社会的人格だ」と、診断テストに書いてあって、自分がそれに半分以上当てはまってると思ったら、青ざめるんですね。青ざめたり、パニックになったり、否定しようとしたり、落ち込んだり、怒ったり、絶対にするんですよ。それが普通の人です。
 ところが、僕は「なるほどねー」って思うんですね。「ああ、それだったら色んなことが説明つくよね」って。僕は離婚しているんですけど、元奥さんに会った時に「俺ってサイコパスらしいよ?」って嬉しそうに言ったら「今、気がついたの?」って言われて。ちょっとそれはショックだったんですけど。「お前は、知ってたのか」と思って(笑)。
 「お前は反社会的人格だ」と言われて、別にヘコまないのはなぜかと言うと、「それは単なる分類に過ぎない」と思っているからですね。
 「自分の反社会的な性格が、役に立つか立たないか?」がポイントであって「お前は反社会的性格のおかげで迷惑をかけている」と言われたら、これには僕も落ち込むんですよ。でも、例えば、サイコパスの特徴の中にある「慢性的に平然と嘘をつく」というのは、もし小説家とかマンガ家が持っている能力だったらプラスに働くわけですね。社会に貢献するわけです。
 つまり、「その人が反社会的人格であるということと、その人が社会の役に立っているかどうかというのは、全く関係ない」と、一瞬で分けて考えられるんです。
 なので、さっきの、僕がちょっとディスり気味に話した50代の女の人に関しても、僕、何の感情も持ってないんですよ。まあ「ちょっとくらい反省してほしいな」とは思ってるんですけど。それは口だけであって、どちらかというと「今、上手くいってるし、占い師に聞いて上手くいったんだから、それで全然いいじゃん」と本気で思えるわけですね。
 それは、僕の中に、たぶん他人への共感というのが……ええとね、なんとか捻り出した共感というのが、あるにはあるんですけど、心底からの共感というのが、あんまりないからだと思います。
 今の流れで、自分がサイコパスとわかったらどうするのかと言うと。まあ、恥ずかしがったり、コンプレックス持ったり、他人に隠したりしても、誰も得しないんですよね。
 むしろ他人に言った方がいい。でないと、自分がサイコパスの性分を持っているおかげで、みんなに迷惑をかけるかもしれないし、「いや、岡田さん、あんたサイコパスだから、ここに気が付かないかもしれないけど、これは気をつけた方がいいよ」って言われたら、これは僕にもメリットがあるから、どちらかというと、どんどん言った方が良いんですね。
 「その結果、どう思われるのかは、それはもう、知ったこっちゃないよ」って、正直、思っちゃうんですよ。「自分がサイコパスであることにコンプレックスを持っても誰も得しないし、むしろ、それを利用して社会の得になることが出来たら、みんなお得だな」というふうに考えます。
 サイコパスは普通の仕事には向いてないと言われてまして、社会生活も失敗がちだそうです。刑務所に入る場合も多いです。
 しかし、運良くその性質と仕事が相性が合えば、まあ、なかなか成長するんですね。
 例えば、サイコパスの代表例と言われているのが、Appleの創業者のスティーブ・ジョブズです。
 彼は、学生時代から付き合っていた仲の良かったスタッフでも、たった1つミスをしただけでもクビにするような男で。同じく、学生時代から付き合ってた、自分の方から一生懸命、告白して付き合った彼女がいたんですけど、その彼女が妊娠した時には、絶対その子供を認知しようとせずに……自分でその子に名前までつけているんですよ? でも、1円も養育費を払おうとしなかったという、そういう男なんですね。
 織田信長と言う人も、残酷だけど信心深い。例えば、織田家の菩提寺という寺はすごい守るんですけど、比叡山は平気で焼き討ちするんですよ。つまり、織田信長の信心というのは、たぶん、自分の中でスパンと割り切れてるんですね。「自分を守ってくれる寺は大事だけど、比叡山は邪魔だから焼き討ち」っていう考え方なんですよ。
 豊臣秀吉は「人情に弱くですね、人懐っこい」と言われているんですけど、同時に、自分が年を取ってから生まれた子供捨丸の悪口を京都の壁に書かれた時は、犯人を見付けて首をのこぎり引きにしました。それくらい残酷なんですね。
 サイコパスというのは、わからない人が聞くと、なんか一方的に「残酷で、同情心がない。人情がない」と思うんですけど、違うんですよ。今の秀吉の例を聞いてわかる通りです。「バランスが狂ってる」んです。
 つまり、泣き落としで話されたり、人情に訴えかけられると、人一倍弱いんですよ。ところが、それをされない限り、どこまでも冷酷になれる。限度がないんですね。
 自分に直に人情で訴えられない限り、あまり心が動かない。ところが、訴えかけると、すごく泣いちゃう。だから、他人から見ると、近くにいる人間ほど混乱しちゃうんですね。
 その結果、「あの人は本当は人情に熱くて、いつもそれを隠しているんだ」と考える人もいれば、「そうじゃない。あいつは人情に熱いフリをしているけど、人情なんか1つもない冷徹な人間だ」と断じる人もいる。
 でも、僕はサイコパスだからわかるんですよ。そうじゃないんですね。おそらく、秀吉も、同情心とか共感が、自分の中から出てくる時と出てこない時のコントロールが出来ないんですね。溢れる時は200%出るんだけど、出ない時は人の10%も出ないという性格なんだと思います。
 これがサイコパスの本質です。

 僕は、さっきから言っているように、自分をサイコパスだと思うんですよ。
 両親が死んだ時も、すごくかわいがってくれた両親なんだけど、ほとんど感情が動かなかったんです。
 しかし、「両親は、あんなに自分を可愛がってくれたのに……」というふうに、例えば、奥に楽屋があるんですけど、あそこに入って、今から5分、自分に言い聞かせると、ボロボロと泣くことが出来るんですね。
 まあ「男優とか女優を信用したらいけないよ」というのは、彼らは、たぶん、こういう性質を持っているから泣けるんだと思います。自分の中の共感力というのを、ある程度はコントロール出来る。
 さっき「コントロールできない」と言ったのは、普通の人みたいなコントロールは出来ないんですけど、極端な100か0かのコントロールは、わりと簡単なんですよ。
 まあまあ、ここでようやっと話が戻るんですけども。
 講演のアンケートを見たら、僕に対して何か人格的な部分を期待している人が、時々いらっしゃるんですね。「あんな文章を書くから、優しい人だろう」とか。
 違うんですよ。新聞に掲載される文章を書く前の段階では、徹底的にエグく相手の心をえぐって、推理して。書く段階になってから「どうやったら伝わるかな?」と書いてみて、半日置いて「今から愛情を3割り振り掛けよう」と決意するんですね。「3割の愛情って、どれくらいかな?」と思って書くと、ちょうど相手のことを思いやってるような文章になるんですけど。
 こんなことを話しているのも、全て連載が終わったからですよね。今さらこれを話しても、僕に損はない。だから、話したいから話しているのであって、自分で20万円も払って、皆さんに見ていただいているわけなんですけど。
 なので、もう本当に、これ、真面目に申し訳ないんですよ。僕に対して人格的な部分を期待して来た人には。「温かい人柄が~」とか書いてくれる人もいるんですけど、それ、本当にないんですね。
 例えば、僕は、この相談者の報われない恋心みたいなものに、なんか全然「可哀相」とか「切ない」という気持ちになれないんですね。
 「ふーん。自分は高校時代の友人を好きな気持ちを大事にして、祝福している癖に、他人が自分を好きだと言ってきたら、やけに冷てえ女だな」って、正直思っちゃうんです。
 そこで「じゃあ、なんでこの人は、彼の気持ちにこんなに冷淡なんだろう?」って。
 そして「なんで、彼も、この人は自分に気がないとわかっているはずなのに、それでも諦めないんだろう?」と。
 相談にも「彼は諦めない」と書いているくらいだから、何回も何回もフラレて、それでも「好きだ、好きだ! 僕は待つよ!」と言ってるはずなんですよ。「なんで、彼は待てるんだろう?」と思ったんですね。
 そこで、頭の中でさっき言ったことが、カチャカチャと組み上がってきたんです。

・・・

 この相談者の人は、彼に「実は私は同性愛者で、女が好きだ」ということを言ってないんですよね。
 きっと「好きな人がいて、諦めきれないから」と言っているだけなんですよ。
 でも、「好きな男がいるのか?」と周りから聞かれた時には「好きな男はいない」と即座に答えるわけですね。
 なので、この男の人は「まだ自分にもチャンスがある!」って、つい思い込んじゃうわけなんですよ。
 だから、その情報を自分から開示さえすれば、自分からオープンに「いや、言いにくいんだけど、私、実はこういう恋愛傾向を持っている女なの。申し訳ないけど、男のあなたは好きになれないの」と言いさえすれば、この問題はとっくに解決するんですけど。
 そのことを言い出せないので、まるで、それを自分に言わせようにしている彼に対しての苛立ちが出て来ているんだと、カタカタと繋がってくるわけですね。

 このカタカタという繋がりが、皆さんが質問のところに書いてくれた「どうやって思いつくのか?」という質問に対する答えだと思うんですけど。
 これは、さっきまで説明していた通り、「それは、僕は人間的な部分というのをあまり持っていないサイコパスで、純粋に論理だけで探っていけるから」なんです。
 なので、この方法は、な皆さんにはなかなか取れないと思います。かなり生来的なものに寄るものですから。
 この人は何か隠したいことがあるのに、なんでそれを新聞でするんだろう? 新聞で相談しちゃうから、「その人」って書いたり「彼」って書いたりするような矛盾が出てきちゃうんだけど、何を隠したいんだろう? って。
 まるで「普通の人だったらこうするんだけど、この人違うな」みたいなパターンを見るという、なんか未知の生物を観察するよう目で見るようになるんですね。
 そして、「この人はレズビアンなんだ」と考えれば、僕の中で、全ての辻褄が合ったんです。
 これで「なぜ彼女は、自分のことを好きだと言ってくれる彼が苦手なのか?」もわかります。なぜかというと、彼がストレート、異性愛者だからですね。
 彼は、自分の恋愛感情にてらいがないんですよ。やましさというか、隠さなきゃいけない部分がない。なので、堂々と「好きだよ! いつまでも待つよ!」って言って来ちゃうんですね。「そこが、なんか腹立つ」というか。逆に、普段、自分が抑えておかなきゃいけないと思っていることを、この男にも隠さなきゃいけないということが、段々と負担に感じて来ているんです。
 まあ、言っちゃえば、自分が損してる感と言ってもいいですし、劣等感と言ってもいいですし、罪悪感みたいなものを、勝手に自分を好きだと言っている男に対して感じてしまっている。
 これが、彼に対する冷たさの原因だなと思いました。

 ここまでは、もう仮説なんですよ。仮説による理屈立て。
 こういう推理の次に行う検証の方法は「もし、そうだと考えたら、この相談文はわかりやすくなるか?」なんですね。
 すると、ものすごく複雑な構造に見えた相談が「自分が同性愛者だということを隠してその気のない男に言い寄られている」という、シンプルなものへと変わるんです。
 だって、最初に書いてある「いまだに高校の時の友人が好きで、その人には今、恋人が出来た。それを素直に祝福できた自分がいる」という部分って、相談には全く関係ないんですね。実はこの人の相談は「好きでもない男に言い寄られて、なんか鬱陶しい気分になりながらも、その人を愛せない自分は変じゃないかと悩んでいる」というものであって、前半は要らないんです。
 じゃあ、いらない前半をなぜ書いたのかと言うと、「この人が本当は相談したいんだけど、人前では言えないことを、こっそり書いているから」。だから、前半に、丸々余分なものがついてるんですよ。
 そう考えると、この相談文は全てが繋がっていく。「自分は同性愛者だ」ということを隠して、その気のない男に言い寄られている。最近は、それが段々と不安になってきて、まるで「男を愛せない自分が変じゃないか? 自分はそこを直した方がいいんじゃないのか?」という気にさせられてきた。自信がなくなってきた、と。
 人生としては複雑なんですけど、相談文としては単純な相談に因数分解できたわけですね。

・・・

 これでスッキリしたので、あとは回答を書くだけです。
 この人が困っているポイントは「自分を肯定しきれなくなってきている」ということ。そして、「彼の告白を断る理由が、そろそろなくなってきた」ということ。
 この2つのみにフォーカスして、回答を書きました。


高校時代から好きな人って女性ですよね? で、相談のホンネは「思い切って男性を好きになるよう努力すべきか」じゃないでしょうか?
好きな人の人称代名詞はあいまい、言い寄ってくる男性の人称代名詞は「彼」と具体的なので、そう考えました。すると好きな人のことを「添い遂げられるわけでもない」と決めつけているのも納得できます。
で、ポイントは「私は女性が好きだ」という指向と「好きでもない人に言い寄られてめんどくさい」という問題をゴッチャにしてることじゃないですか?
前者はただの指向、つまりあなたの個性です。それに対して後者は人間関係の悩み。分けて考えないと、ただの悩みが「るつぼ化」しちゃいますよ。
まず前者について。好きな人がいて、想いを伝えても否定されず友人関係が続いて、その人に恋人ができたら祝福できた。理想の「片思い」という恋愛ですね。
ところが、あなたの相談文には「好きな人が実は女性」ということがまったく書いていません。あなたは「カードを伏せたままプレイする」、 つまり相手にホンネを隠して対応するクセがあるんです。
なので言い寄ってくる彼にも「ごめーん、私オトコはダメなの」とはっきり言えない。すると彼は「じゃあ待てばいいんだよね?」と余計にムキになる。
そこまで面倒な彼なのに「嫌いたくない」というのは「彼は悪くない。悪いのは男性が好きになれない自分だ」という無駄な罪悪感があるからじゃないですか?
「報われない恋」に殉ずるという意味では、彼はあなたと同じ「同志」です。あなたが彼をイヤなのは、同じような「報われない恋愛」に対する態度が、あなた自身の潔さに比べて彼のがみっともなく尊敬できないからです。
でも彼がみっともないのは、あなたの指向を知らないから。「いつか報われる」と信じちゃってるからじゃないですか? 「言い寄ってくれている彼」に対して真摯であるためには「実は私は」と打ち明けるしかないでしょう。でないと「男を好きになれない私がダメなんだ」という間違ってるし無駄な罪悪感がますます膨らむだけだと思います。
どうしても彼に言えないなら「ゴメン、あなたが嫌いになった。もう見るのもイヤ」と告げて、悪役を引き受けて振ってあげてください。


 こんなふうに答えました。
 あの、解説しなかったら、この回答ってそんなに悪くないと思うんですけど、解説しちゃうと、もう自分がどんなに嫌なやつか……って、まあ、どんどん話しちゃうんですけど(笑)。

「ジャグリング状態」な問題と「解決不能」な問題

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【画像】講演会場から

 おお、ここまでで50分も使ってしまいました。
 実は、もう1つ例があるんですけど、それは時間があったら後で話すようにしましょう。

 さっきの回答の中で「悩みがるつぼ化しちゃう」という言葉を使いました。この人ね、ただでさえ具体的な問題を抱えているんですよ。
 「自分を好きだ」と言う男がいて、断っているんだけど、段々と面倒臭くなってきた。また、その理由を相手に言えない。いつまでも「これは隠さなきゃいけない」と思っていたら、どんどん自分自身の中に罪悪感が生まれてしまう。
 この人も、高校生くらいの時には「自分は女性を好きだ」ということに罪悪感までは持っていなかったはずなんですよ。隠しているだけで。ところが、今は罪悪感まで持たされてしまって、余計な悩みを抱えている。僕はこれを「無駄な罪悪感」と呼んでいるんですけど。

 もう、後半は、たぶん、質問カードを見ながらバーッと話すことで終わっちゃうと思うので、ここで一度、まとめておきますね。
(ホワイトボードに図説しながら)

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【画像】悩みとは、問題

 悩みというのは何かと言うと、単に問題なんですよ。
 ところが、この問題が個人の中に増えていくわけですよ。
 そして、問題というのは1つあると、それが別の問題に繋がって、こっちの問題とあっちの問題と繋がって、いっぺんにいろんな問題を考えなければいけなくなってくる。
 僕らも、1つ1つの問題だったらシンプルに回答を出せるんですけど、複数の問題を考えている時にはそうもいかなくなるんです。
 僕はこれを「脳がジャグリングしている」と言います。ジャグリングというのはお手玉のことですね。複数の問題を僕らはお手玉するように考えているんですよ。このお手玉の数が多ければ多いほど、脳に負荷が掛かるんですね。なので、本来だったらさっさと決められることに何時間も考えちゃうんですよ。
 このジャグリングのことを「悩み」と言います。
 僕らの持っている個別の問題はそんなに複雑ではないんですけど、それのジャグリング状態にハマっちゃうことが多いんです。
 鉄鋼王のカーネギーという人も、昔、ものすごく悩んでたそうなんですよ。もう本当に「俺の悩みは数限りない」と。
 今夜は本当は、奥さんとディナーに行く約束をしてて、久しぶりの約束だから家に帰りたいんだけど、会社のことや、プライベートなこと、親戚のことで、問題が山積みなんですね。
 ダメな親戚が「仕事の世話をしてくれ」とか。で、仕事の世話をしたら「トラブルがあったから、その尻拭いをしてくれ」とか。「刑務所に入っちゃったから、保釈金を払ってくれ」とか。もう本当に、いろんな悩みがあったそうです。
 そこで「もうダメだ!」と思って、「こうなったら、悩みを全部書き出してやれ!」と思って、有名な黄色い便箋というやつに鉛筆で書いていったそうなんですね。
 しかし、書く前は「500くらいあるんじゃないか?」と思っていた問題が、70個を超えたくらいで、ピタッと止まったんです。1つ1つの問題は確かにあったんですけど、書いてみたら70個しかなかったんですよ。「あ、70以上はないわ」と。
 で、その70個の問題の中に、今日の夜の間に、絶対に解決しなきゃいけない問題は1つもなかったんですね。
 つまり、彼に必要だったのは「問題が70ある」という総数を把握することだったんです。そして、それぞれ、どんな問題なのかとわかった瞬間に、便箋を引き出しにポーンと入れて、奥さんと一緒にご飯を食べに行ったそうなんですけど。
 これが、カーネギーの成功術と言われています。

 問題は「鉄鋼王のカーネギーのような成功した人でも、問題が70くらいあれば、ジャグリングがピークに達して、全く物が考えられなくなる」ということなんです。
 カーネギーというのは、実はいろんな悩みを数年間持っていたんですね。そんな中、一晩で全部書きだしてみたら、ほぼそれで……解決はしてないんですよ。気が済んじゃったんですよね。悩みではなくなった。翌日から、彼はその70個の問題を、1つずつ潰して行ったそうです。
 中には、何年間も解決できない問題もあったんですけど、それは、ただ単に今は解決できない問題か、もともと解決できない問題なんですね。
 例えば、問題の中には「人類はなぜ戦争を止められないのか?」というのもあったんですよ。それ、今晩中に結論を出さなくてもいいじゃないですか。だけど、他のものと一緒に考えていると、「うちの会社の売上が下がっている」とか「うちの会社の若い社員が段々と言うことを聞かなくなっている」とかと「なぜ、世界は平和にならないのか?」というのが、頭の中でリンクしちゃうんですね。そうすると、家に帰れなくなるんですよ。
 でも、そんなの、書き出した瞬間に「世界はなんで戦争がなくならないのか? そんなもん、今晩、考えなくていいよ」と。
 逆に言えば「俺、金あるんだから、金の力で学者を山ほど雇って、なぜ世界は平和にならないのかを考える学会を作らせればいいだけじゃん!」と考えて、カーネギーはそこに出資して学会を作る、と。
 「若者はなんでこんな愚かなのか?」ということについても、「よく考えたら、俺が金出して財団を作って大学を作って、若者の教育資金を出せばいいだけじゃん!」と、パパパっと解決して、悩みはなくなったそうです。
 問題はなくならないんです。ただ、このジャグリング状態がなくなったんですね。
 こういうお手玉状態というのを、僕らは悩みと言うんです。

・・・

 あと、休憩前のポイントなんですけど。
 今回は、恋愛っぽい悩みを2つ取り上げたんですけど、編集者に言わせると、実は「悩みのるつぼ」に来る相談の8割までが相続問題なんだそうです。
 やっぱり、新聞の読者層にバッチリですよね。みんな相続問題で悩んでる(笑)。

 その相続問題を除いたものが、僕ら4人の回答者に届くんですけど。その4人に届く問題のまた半分以上が「他人をどうにかしてほしい」という問題なんですね。
 「お母さんをどうにかしてほしい」「旦那をどうにかしてほしい」「子供をどうにかしてほしい」なんです。
 だけど、申し訳ないですけど……。
(ホワイトボードに図説しながら)

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【画像】「どうにかしてほしい」問題

 これが相談する人。僕の方は、出来るだけ元気に答えようとします。
 僕は、この相談者の人に対して何か言うことは出来るんですけど、この人が心のなかで思っているどうにかしたい悪いヤツに対しては、どうにもならないんですよ。
 相談する人は「どうにかしたい」と思っているから、僕らの言葉を聞くんですけど、僕がそこでどんな言葉を言ったとしても、どうにかしたいと思っている人には影響は全くないんですね。その人自身が「問題だ」と思って、僕のところに来れば、なんとかしようはあるんですけど。

 基本的に、悩み相談というのは……ひょっとしたら、今日の質問カードの中にも、そういう相談がいっぱい入っているかもわかんないんですけど。反省しました? 今。しましたね、今の顔は(笑)。
 基本的に、第三者をどうにかすることはほぼ不可能なんですね。
 なので、「第三者に対するあなたの対応を変えましょう」とか、もしくは「あなたの考え方を変えましょう」とか「彼に対してこういう戦略をとったらいいのではないでしょうか?」という……これはもう、サイコパス特有の戦略とかやり口を教えるやりかたなんですけど。

 とにかく、第三者をどうこうしようというのは、絶対に考えてはいけないんです。
 たまに「悩みのるつぼ」に関して他の人に話すと、「この人をどうにかしてあげられないの?」って言われることがすごく多いんですけど、原理的に不可能なんですね。
 占い師も絶対にそういう問題に対しては答えません。「あなたはどうするべきか?」しか答えてくれずに「この人をどう仕向けるのか?」という方法はないんですね。
 方法がないからこそ、心理操作とか、メンタリズムとか、悪の心理学とか、他人をコントロールするという本が爆発的に売れるんですよ。それは、そんな方法ないのに、あるように見せかけて商売するというやり口が、この世の中には蔓延しているからですね。
 それくらい、人というのは「第三者をどうにかしたい」と迷う。でも、それに関してはあんまり答えられないんです。

・・・

 まとめの最後の話にいきます。これが終わったらトイレ休憩にしますね。
 どうしようかな? なんか、あんまり本音全開で話すのも考えものですよね。マジで今「しまったな」って思っているんですよ。
 講義が始まって最初の頃、皆さんが持っていた好感的な波動が、今では、極めて薄く、本当に極めて薄くなっている(笑)。

 ええと、回答不能な相談文のパターンというのを書いてみますね。

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【画像】回答不能な相談

 まず「1. 相談がない」。これ、結構あります。いろいろ書いてあるんだけど、実は困っていることがない。最後に「これでいいんでしょうか?」って書いてあるんだけど、「これでいいんでしょうか?」なんて思ってない。これね、すごく多いです3割くらいあるかな?
 次に、さっき話した、半分くらいある相談。「2. 他人をどうにかしようとしている」。
 あと、どう言えばいいのかな? うーん、「3. 本来解けない相談」というのがあるんです。
 もう、だいぶ前、中学生くらいの男の子からの相談だったと思うんですけど、「おない年くらいの中学生くらいのアイドルみたいな女優さんを、すごい好きになってしまった」と。
 「彼女は今、中学生で女優をやってて、忙しいから恋愛をしている暇はないと思う。でも、彼女はこれからどんどん綺麗になって、いろんなイケメン俳優との出会いの場があるはずだ。早く彼女と付き合わないと、チャンスがなくなってしまう。でも、僕はあと半年で高校受験を控えているので、それまでにどうすればいいのかを教えてください」と書いてあったんですよね。
 これは、本来、無理なんですよ。
 まず、「人間というのは見える範囲の手近でしか恋愛しない」んです。まあ、中学生の男の子にこんなことを言っても無駄だから、言わなかったんですけども。
 人間の恋愛というのは実は手近で見える範囲でしかしない。だから、社内恋愛とか、クラス内恋愛とか、サークル内恋愛というのがある。
 「いや、違う! 俺はテレビでしか出会えない彼女のことが好きになったぞ!」と思ったら、「それは、あなたにとっての近場がテレビだったからだよ」と。クラスよりテレビの方が近場という人生を生きているから、テレビの中の女の子を好きになっちゃっただけ。簡単な話で、人間は近場にいる人しか好きにならないんですね。
 なので、もし、その女優さんが「自分のファンしか好きにならない」という変わった性格であれば、君にもチャンスはあるんだけど、そうじゃないだろ、と。その子はその子で、自分の職場関係という俳優さん同士の恋愛関係の中で、たぶん、彼氏を見つけるはずだ、と。だから、もしこの問題をどうにかしたかったら、あなたの近場を変えるしかないよというのが回答なんですけど。
 「高校受験を控えているから、あと半年以内に、その彼女と自分が付き合う方法を教えてくれ!」という、そんな相談を僕に持ってきた編集部も編集部なんですけど(笑)。
 こういう、本来、解けない相談というのがあるんです。
 さっき言った「人類はどうすれば戦争をやめるのか?」もそうなんですよ。「男と女はわかりあえないのでしょうか?」もそうですし、「なぜ、男は浮気するのでしょうか?」もそうなんです。それらは全て解決不能問題なんですね。

 こういった解決不能問題を持って来られると、最終的に、あらゆる新聞の回答者は「どう言って誤魔化すか?」しかないんですよ。
 「どう言ってこの人の怒りをなだめるのか?」という、まるで、シシ神様の怒りをなだめる『もののけ姫』のアシタカ君のように「どうやれば、この人の絶望している状況を解消できるのか?」を考えることになります。
 たぶん、「なんで男は浮気をやめないんですか?」と言う人は、人類の男全員に言っているのではなく、たまたま自分が出会った何人かの男の行動に怒って、それを全てまとめて言っているのであって、この怒りをプライベートな問題のところまで落としていくと、ようやっと神様の怒りが静まって、会話可能な状態になるわけです。
 なので、本来、解けない悩みというのを、その人の本音の部分までダウンサイズしないと、なかなか難しい部分があるんです。

 まあ、悩みの解き方、るつぼの作り方というのは、だいたいこんなもんなんです。
 今、35分くらいですね。女性が半分だから、50分まで休憩して、その後、皆さんに書いてもらったカードを見ながら、ちょっと答えていきたいと思います。
 どうもお疲れさまでした。
(本編中断)


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