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東大生と京大生への講演 その7
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東大生と京大生への講演 その7

2023-10-02 15:24



    「アナリストよ、
    歴史家のように記述し、
    科学者のように分析し、
    芸術家のように共感し、
    哲学者のように思考せよ。」


     2015年に東大生と京大生を相手にアナリスト業務について講演したことがありました。その講演内容をメモってくれた東大生のA君がいました。
     8年前のものですが、懐かしく想い紹介します。


    ■18■21世紀と20世紀との違いについて。多くの制約。持続可能性について。


     21世紀とはどういう時代になるのだろうか。
     日本の上場企業の経営者は悩んでいるはずだ。
     60年代の高度成長期であれば、企業は環境意識を持たずとも、大量生産により業績の拡大を目指ぜばよかった。ところが、21世紀は、企業は、地球環境や人権意識など、広範な社会的な責任を果たしつつ、収益を確保しなければならない。収益の最大化だけを目指せばよい時代は終わった。
     目先の収益の確保に走れば、従業員の大部分は派遣社員に置き換わり、社会の批判の矛先は企業経営者や投資家に向かう。
     さらに、労賃の安い新興国において重労働を課すことは許されない。品質がよく、安いものであっても、それらを作るだけでは不十分となった。
     企業は、地球環境保全に配慮し、人権を守ることが求められる。
     自動車関連の企業であれば、「将来、きっと排ガスを出すような自動車は全面的に禁止になる。私たちの会社はそのとき、社会にとって不要となる」といった深刻な悩みと経営者は対峙し、苦しんでいる。

     「会社は21世紀中、持続可能なのか」という問いは、経営者にとっても、投資家にとっても、重要な問いかけだ。
     製品の出来や製品に対する需要で事業の持続性を測るだけでは不十分だ。
     追加的な諸条件、つまり、地球環境の保全や人権の遵守といった企業の存続条件を含めて、企業業績の持続性を熟考しなければならない。

     DDMモデルは、事業の持続可能性を時間軸として設定できるため、「持続可能性」をキーワードにした21世紀の株式の評価に適するバリエーションだ。膨大な利益が上がる短期の事業よりも、わずかな利益しか上がらない永遠の事業の方が、DDMによる評価は高くなる。
     前者は、有限の値に収束するが、後者の値は無限になる。※
     (※要求利回りrと配当成長率gがほぼ同じのとき)。

     人間には寿命がある。
     多くの人々は、自らが生きていない遠い将来のことは考えなくてもよい、と思っている。それは20世紀の大部分の投資家のあり方だった。短命なビジネスも永遠のビジネスも、PERによって同列に評価していた。
     これでは、もはや、21世紀には合わない。
     近い将来だけではなく、子孫のために、孫やひ孫の代まで含めた遠い将来のことも考えて運用する姿勢がDDMをベースにした運用だ。

     北京の大気汚染を解消するために絶対に必要なものはなんだろうか。
     それらは金銭的な価値に変えられない。だから、重要なものだ。
     大気汚染が完全に解消するまでの期間、大きな需要が見込まれるものだ。

     いつになれば、東京湾に多様な生物が豊かに共存できるようになるだろうか。
     いつになれば天の川が日本のどこでも見られるようになるだろうか。

     多くの志を持つ個人が、上場企業の器を借りて、お金では到底買えない崇高な価値を創造している。そこで働く多くの仲間たちがいる。
     さあ、そんな個人を固有名詞で特定しよう。
     その仲間たち、つまり、歴史に名を残す組織を特定しよう。
     それは現代版「幸せの青い鳥」である。
     永続する組織はどこにあるだろうか。案外、身近にあるかもしれない。
     身近にあって、見ようとしなければ見えないものかもしれない。
     見えないならば、世の中の人々に十分に認識されていないかもしれない。
     商品開発の現場で輝く地上の星を見つけよう。
     その青い鳥を見出し、未来の子どもたちに伝えよう。
     身近に輝く星を後世に伝える。
     それが投資というものであってほしい。
     その意味で、投資とは科学技術ではなく、願いであり、祈りに近いものだ。


    ■19■寡占化、富の集中、格差


     その時代の風に乗れば、企業の配当期間も利益も同時に高めることができる。
     そのようにして、環境対応に成功した例として、トヨタがある。
     数十年で1万倍という利益成長をした。つまり、トヨタという会社に富の局所的な大規模集中が起こったのである。
     たとえば、1950年代から2010年代までに、トヨタの売上は数千倍となった。1950年代に一株トヨタ株をもっていれば、現在は株式分割などで数百株程度になっている。そして、株価は数百倍になっている。
     100社以上日本にあった自動車製造会社は大規模な8社に集約された。
     業界は寡占状態となった。巨大なグローバル企業TOYOTAが誕生したのだ。
     ほとんどの投資家が信奉している業界内でのROEの「平均への回帰」は起こらなかった。
     なぜならば、
     株価が数万倍になった原動力は、企業規模の増大であり、それに伴う利益の増大である。ただし、限界利益率の高い企業であれば、再投資がキャッシュフローの一部で賄える。それにより、継続的で増加を伴う配当と多数回の無償の株式分割が長期間にわたり実行されることが効いてくる。
     トヨタの場合は、株式分割によって1株が数百株になった。一方で、株価は数十倍になった。数百倍と数十倍の「積」の力で株価は数万倍になったというわけだ。


    ■20■結び 若手アナリストに期待すること


     自分の時間軸ではなく、社会の時間軸で企業調査を行ってほしい。
     自らが引退するときに、一生をかけた「作品」(=レポート)は倫理観に支えられたものであってほしい。
     その高い職業意識から、日々の業務といえども、それらをつなげたときに、その様子が自然なものであり、それらが時代を超えた大作になるような態度で仕事をしてほしい。
     日々を単なるルーティンワークに終わらせないでほしい。
     日々の仕事をつなげていけば、自然に繋がって、光輝くロング・チェイン(長鎖)となる。そんな毎日を過ごしてほしい。
     君たちが働き始めて引退するまでのその長い月日。その月日に重ねた努力は報われるだろう。しかし、君たちのアナリストとしての目標は、自身のビジネス上の成功という単なる手段のみではない。それは、あくまで、君たちがそれぞれに生きる意味を深く知り、人類と地球環境とが調和の中に永続的に共生できるように、この21世紀に自ら働きかけ、前に進めるという壮大な目的の中にあるのだ。


    アナリストよ、
    歴史家のように記述し、
    科学者のように分析し、
    芸術家のように共感し、
    哲学者のように思考せよ。


    (NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)


    (情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織/団体の見解ではありません。)
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