本連載を初めてお読みになる方は<孫子の投資法その1>を先にご覧ください。 http://okuchika.jugem.jp/?eid=4482


■勝利を得るためには五つのことがある。

1)戦ってよい時と戦ってはいけないときをわきまえていれば勝つ。
2)大軍と小勢のそれぞれの活用法を知っていれば勝つ
3)上下の人々が心を合わせていれば勝つ。
4)よく準備をして油断をしている敵にあたれば勝つ。
5)将軍が有能で主君がそれに干渉しなければ勝つ。

 基本は「戦わずして勝つ」ですから、大半は「戦ってはいけない時」になります。
 戦っていいのは、「絶対相手に勝てる」と確信を持つことができるときと、相手が攻めてきてどうしても守らなければならない時です。ただし、後者の場合 は、もし相手に勝つことができないと判断したときには、迷わず退却すべきです。退却は立派な戦術の一つで、決して恥ではありません。退却する自軍を追いか けてきた相手を罠に誘い込むなど、敵に最終的に勝利する方法はいくらでもあります。

 投資では、「相手(市場)から攻めてくる」ことはあり得ません。自分から投資を始めない限り何も失いませんし、守る必要もありません。ですから、投資家が戦っていいのは「絶対相手(市場)に勝てる」と確信できる時だけです。

 バフェットは、このことを「投資はいくら見逃しをしても三振にならない野球だ」と例えます。自分が「絶好球」だと思うボールが来るまで決してバットを振ってはいけないのです。バットを振らない限り、投資家が失うものは何もありません。

1)大軍と小勢のそれぞれの活用法を知っていれば勝つ

 米軍のような巨大な軍隊と、チェ・ゲバラやカストロが率いた革命軍とでは、自ずから、戦略・戦術が異なります。強大な軍隊がゲリラ戦をやっても、巨大な 組織の統制がとれないだけですし、逆に革命軍(ゲリラ)が正面攻撃を仕掛けても、一瞬にしてハチの巣にされるのがおちです。

 バフェットは、100万円クラスの投資家からスタートし、数兆円単位の資産家になりました。100万円の投資であれば、ゲリラ戦術も有効でしょうが、数兆円規模の投資では、当然戦術が異なってきます。

 11歳から投資を始めたバフェットは、少額(小勢)の投資法にも、多額(大軍)の投資法にも通じていたからこそ、傑出した投資家になることができまし た。投資法というのは、それぞれのステージにおいて、変化させなければならないのです。多額(大軍)の投資を行っている現在のバフェットの手法を単純に真 似しても、少額(小勢)で成功することは難しいでしょう。


3)上下の人々が心を合わせていれば勝つ。

 どれだけ勇猛な武将がそろっていても、内部でお互いに不和な軍隊が戦争に勝利するのは困難です。チームワークこそが、勝利のカギです。

 投資は、基本的に一人で行う孤独な作業ですが、たった一人で行う時でも「心を合わせる」ことは大事です。つまり、心の中で色々な意見が飛び交わない=<迷いが無く一つの判断を自分で貫ける>状態の時に勝利できるのです。

 あれこれ迷うのならば、決して投資を始めてはいけません。心が乱れていれば、勝利の可能性はとても少なくなります。繰り返しますが、投資はいくら見送りをしても三振にならない野球ですから、迷いが吹っ切れるまで待てばよいのです。


4)よく準備をして油断をしている敵にあたれば勝つ。

「油断大敵!」
 この言葉は多くのことを教えてくれます。多くの戦争での敗因は、戦術の失敗や戦力の不足ではなく、この油断です。
 例えば、バブルで株価が急騰し多くの人が浮かれているときに、「いつやってくるかわからないが必ずやってくる危機」に対する備えを怠らないのがバフェットです。
 ですから、バブルが崩壊し人々がパニックに陥っている時、準備を怠らないバフェットは、市場に総攻撃をかけて大勝利をわがものにするのです。


5)将軍が有能で主君がそれに干渉しなければ勝つ。

「君臨すれども統治せず」
 これこそが、理想的な君主です。英国女王と英国議会、あるいは天皇陛下と日本の国会(江戸幕府)のような「二権分立」が大事だということです。国家など の集団の統合を象徴する権力と、世俗の事柄を上手にこなす権力は分離しなければなりませんし、お互いに過度に干渉しあってもいけません。

 少々厳しく言えば、統合の象徴が健在であれば、世俗の権力はいつ交代しても構わないということです。最近は、国王の象徴としての力が衰えてきたように見えるタイですが、過去において国王の威信は絶大で、何回クーデターが起こっても国内政治は安定していました。
 バークシャー・グループにおける国王=<象徴的権力>は、もちろんバフェットです。
 そして、傘下企業の経営実務を行う経営者達が<将軍>です。バフェットがすごいのは、人材を見極める鋭い選択眼を持っているということで、そのおかげで彼はバークシャー傘下の経営はそれぞれの経営者=<将軍>に任せて、口を出す必要はありません。

 ただし、統治をしなくても<君臨>はしていることには注意しなければなりません。どうしても見過ごすことができない問題が生じたときには、「伝家の宝刀」を抜いて傘下企業の経営者に辞職を促したり、解雇をすることもあるのです。

☆BIg tomorrow 9月号(7月25日発売)に、「バフエット流」に関するインタタビュー記事が掲載されています。
☆8月下旬に「バフェットに学ぶ【永久不滅投資法】」-損を出さないで永遠に資産を増やすことは可能か-(同友館)を発刊予定です。

(大原浩)

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 GINZAXグローバル経済・投資研究会・代表大原浩著


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*ブログ「大原浩の金融・経済地動説」http://www.actiblog.com/ohara/

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)