本連載を初めてお読みになる方は<孫子の投資法その1>を先にご覧ください。 http://okuchika.net/?eid=4482


■戦さ上手はすでに負けている相手と戦う

◎最高に戦いが上手な人が戦争に勝利しても、優れた武勇や手柄は無い。彼は何回やっても戦争に勝つが、それは既に負けている相手と戦うからである。つまり、最高の戦上手とは、相手が既に負けていて、必ず勝てるチャンスをすばやく見つけて逃さない人のことである。

◎勝つ軍隊は、まず勝利を収めてから戦闘を始めるが、負ける軍隊は、まず戦闘を始めてから勝とうとするのである。


 バフェットの師匠ベンジャミングレアムは、「ミスターマーケット」という言葉を発明しました、日本語の語感でいえば「マーケット君」というところでしょうか?要するにマーケットそのものを擬人化しているのです。

 このマーケット君は、グレアムによれば一種の躁うつ病です。機嫌のいい時には来るものは拒まず高値で買いまくります。まるで、「まもなく世界はおれの物 になる」という感じで浮かれるのです。1980年代バブルの時代には実際に、「日本を買い占める」とか「ニューヨークを買い占める」という妄想に取りつか れた紳士がたくさんいました。

 逆に、ふさぎ込んだときには「明日世界の終りがやってくる」のでもあるかのように、手持ちの資産を捨て値で投げ売りします。人類最初のミレニアム(つま り西暦1000年)においても、「人類が滅亡し神の裁きがあるという噂」が流布し、後ろめたい金持ちの多くは全財産を投げすて無一文になり、神の許しを請 うために祈りの生活に入りました。しかし、御存じのように人類はその後1000年以上にわたって滅亡していませんし、神の裁きもまだありません。しかし、 マーケット君がうつの時には、そのような合理的な話は耳に入りません。ただ、いつ世界の終りがやってくるのかとびくびくしているのです。

 しかし、マーケット君を笑ってばかりはいられません。マーケット君とは市場を構成する参加者の象徴であり、大分部分の投資家(少なくとも8割以上)は、マーケット君と同じことをしているのです。

 マーケット君は、結局高値で買って安値で買うことしかできません。つまり孫子の言う「すでに負けている相手」なのです。ですから、バフェットのように賢い投資家は「すでに負けている投資家」=マーケット君を相手に確実な勝利を収めることができるのです。

 なぜマーケット君(大多数の投資家)は、「すでに負けている」のか?
 それは孫子の「勝つ軍隊は、まず勝利を収めてから戦闘を始めるが、負ける軍隊は、まず戦闘を始めてから勝とうとするのである」という言葉につきます。

 バフェットは「投資家は、投資を行ったら後はほとんどすることが無い」と言います。つまり、どの商品に投資したらよいのかを研究したり考えたりすること にすべての精力をつぎ込むべきであり、逆にそれさえきちんとできれば後は何もしなくても良いのです。孫子風に言えば「勝つ投資家は、相手がすでに負けてい て、必ず勝てるチャンスでしか投資をしない」ということです。

 それに対して、「すでに負けている」マーケット君は、「まず戦闘(投資)を始めてから勝とうとする」のが敗因です。投資対象の企業をろくに勉強しないで 戦闘(投資)を始めてしまえば、自分の確固としたオピニオンなどあるはずもなく、噂話に振り回されて売ったり買ったりを繰り返して損を重ねることになりま す。

 それに対して、例えばIBMに投資を始めるまでバフェットは50年もの間、毎年IBMの決算書に目を通していました。そして50年目にして「必ず勝てる チャンスがやってきた」と考え投資を始めました。ですから、少しくらい業績が悪化したり、株価が下落してもあわてることなく、充分に株価が下がればさらに 買い増しをすることさえ自信を持って行うことができるのです。

 もちろん、状況に応じて対応することは必要ですし、バフェットも最初の判断を間違えたと気付いたときには潔く撤退します。しかし、どのような時でも 120%の自信を持つまで投資対象を調査・研究してから投資をスタートします。そのようなバフェットでさえ、間違いを犯すことがあるのですから、「投資を 始めてから考える」マーケット君が勝てないのは当然のことです。

(大原浩)

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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)