北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
俺の空 本店@高田馬場「掛け豚そば」
■異論激論!
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
「ラーメンを進化させるのは誰か」山路力也
ラーメンの歴史は進化の歴史である。先達の創り上げてきたものを尊重しつつも、より新しいものを生み出そうという気概に満ちたラーメン職人たちによって、これまで劇的な進化を遂げてきた。ラーメン百年の歴史の中で、特にここ数十年の進化のスピードたるやすさまじい。常に新しい意欲的な取り組みがなされ、ラーメンという食べ物はどんどん進化し続けてきて今がある。
日本料理の名店「龍吟」の山本シェフとお話していた時のこと。先達から受け継いだバトンをそのまま手渡すのではなく、自分たちの時代で何かしら新しい要素を加えて次の世代に託す、という思いで料理を創っていると言っていた。中国料理の「ヌーベルシノワ」の流れや韓国料理の「フュージョン」の考え方も同じことだろう。ラーメンはそのどの料理よりも早く、先取の姿勢を貫いてきた料理だ。だからこそラーメンは面白いと思うのだ。
しかし、ここ十年くらいの傾向として、より新しいものを生み出そうというラーメン職人の闘いを尻目に、その時に流行っているラーメンを模倣したに過ぎないラーメンを出す店も増えてきた気がする。例えばガッツリ系しかり、濃厚豚骨魚介つけ麺しかり、最近では家系ラーメンが驚くほどに増えている。「売れるものを出す」というのは、商売として当然のことであろうが、一ラーメン好きとしては寂しさや哀しさを覚え、ラーメン文化の進化という意味においても、停滞を招いている気がしてならない。
また、ラーメンの場合は他のジャンルの料理と違って基本文法や型がない。その分、自由なはずのラーメン職人が、見えないラーメンの型にとらわれて、自由にラーメンを創りづらくなっている側面も感じ取れる。例えば、麺の太さや形状を変えるとか、スープの素材を変えるというのは進化でも深化でもなく変化でしかない。ラーメンはもっと自由で良いはずなのに。もっと進化出来るはずなのに。
ラーメンが次の百年に向かってさらに進化していくために。ラーメン職人は己の殻を破り、これまでのラーメンにおける常識を捨てて新たな闘いをする段階に来ている。しかし、それはなかなか難しいことだ。しかし、今世界ではラーメンの常識を一切無視した新しいラーメンが生まれつつある。日本のラーメン店などで経験を持たずに、ネイティヴがその土地で新しく創ったラーメンに、ラーメンの進化の希望が見える。それは日本人として、日本のラーメン好きとしてはなかなか悔しい話であって、例えるなら柔道の世界大会で日本人がことごとくロシアに負けてしまうような。
ラーメンという食文化全体を俯瞰すると、海外の食文化の歴史や叡智が結集されて、どんどん面白くなっていくのは動かし難い事実になってきた。しかし、やっぱりその最先端には日本のラーメン職人がいて欲しいと思うのだ。あぁ、あまり好きな言葉ではないのだけれど、こういう時に使うのだな。「頑張れ、ニッポン!」
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は4月5日に新横浜ラーメン博物館を卒業する『かもめ食堂』の限定ラーメン「さんまラーメン 醤油味」を山路と山本が食べて、語ります。
「さんまラーメン 醤油味」900円