いよいよ冬らしい陽気になってきましたね。
露木行政書士事務所・露木幸彦と申します。
今日は押入れから、真冬用のコートを引っ張り出してきました。


前回まで事実婚(夫婦同然の生活をしているけれど、
あえて籍を入れないカップル)がなぜ増えているのか、
裏側の背景について紹介してきました。



もちろん、法律婚(籍を入れているカップル)に比べ、制約が多いのですが
特に顕著なのは「子どもがいる場合」です。


具体的にいうと子供の認知、養育費、
出産費用の支払という3つですが、
順番に見ていきましょう。




<登場人物>

熊本良子さん(32歳)会社員⇒相談者(妊娠中)
福岡太郎さん(42歳)公務員⇒良子さんは彼氏




まず認知ですが、両者間の子の扱いについて法律婚と
事実婚では大きく異なります。



まず結婚している夫婦の間に子が産まれた場合、
子は夫婦の戸籍に入り、子の戸籍の父親欄には
夫、母親欄には妻の名前が記載されますが、
必要な手続は役所に出生届を提出するだけです。




一方、事実婚の場合はどうでしょうか?



結婚していない男女の間に子が産まれた後、同じく役所へ
出生届を提出したら、子がどこの戸籍に入るのかです。



事実婚の場合、男女が同一戸籍を持っているだけではなく、
男性の戸籍、女性の戸籍という具合に別れています。



子は母親(今回の場合、良子さん)の戸籍に入るのですが、
この段階では子の戸籍の父親欄は空欄のままです。



父親欄に太郎さんの名前を記載するには、認知という手続が必要で、
具体的には太郎さんが認知届に署名をし、役所へ提出
しなければなりません。




後日、良子さんは太郎さんに連絡をとったのですが、
万が一、太郎さんが「本当に俺の子なのか」と言い出したら、
例えば、出産後に親子かどうかを確かめるために、
太郎さんと産まれてきた子をDNA鑑定するなど、
追加の手続が必要になるところでしたが、



太郎さんは胎児が自分の子だということを自主的に認めたので、
認知については特に問題なく、太郎さんの協力を
得ることができました。



次に子の養育費ですが、前述の認知手続によって親子関係が
発生したのですが、法律婚であれ事実婚であれ、
父親は子に対して扶養義務を負っているので、



太郎さんは良子さんに対して子にかかるお金のうち、
まとまった金額を毎月、支払わなければなりません。


これは法律婚の夫婦が離婚するパターンと同じ考え方です。


太郎さんの年収は当初、不明でしたが、太郎さんは公務員で
年収は822万円とのこと。



一方、良子さんは出産後、どうしても働くことができる
時間が限られるようで、年収が200万円まで落ち込むそうですが、



家庭裁判所が公表している養育費算定表によると、
太郎さんの年収が822万円、良子さんが200万円の場合、
子の養育費は月6万円から8万円が妥当な金額ですが、



良子さんが算定表を示した上で太郎さんと話し合った結果、
養育費は「毎月7万円を22歳に達する翌年の3月まで」と
いう条件でまとまったのです。



算定表
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf



そして出産費用ですが、良子さんいわく妊娠中、出産後の検診費用、
入院や分娩費用、部屋代と合わせると合計で45万円だそう。



太郎さんは子の父親であり、子に対して扶養義務があるのだから、
毎月の養育費だけでなく、出産費用についても良子さんと
連帯して責任を負わなければなりません。



前述の通り、太郎さんの年収は820万円、良子は200万円なので、
互いの収入割合に応じて按分する場合、
太郎さんが全体の80%、良子さんが20%です。



熊本市の場合、出産育児一時金として39万円が支給されるので、
出産にかかる費用から一時金を差し引くと残りは6万円ですが、
良子さんは太郎さんに80%(48,000円)を出してくれるよう
頼んだのですが、



紆余曲折の末、太郎さんは出産予定月の前月末までに48,000円を
支払うことを約束してくれたのです。



そして最終的には養育費、出産費用の約束については
公正証書という書面に残すことになりました。
(具体的な文面は以下を参照)



このように事実婚は法律婚と比べ、始める場合はもちろん、
やめる場合の手続的、心理的なハードルが低いのですが、
「簡単にはじめられ、そして簡単にやめられること」は
当事者にとって良けり悪けりです。



法律婚の場合、始めるときは婚姻届を役所に提出することで
男女が同じ戸籍に入り、逆にやめるときは離婚届を提出して
別々の戸籍に移すのですが、
どちらにせよお互いの同意が必要です。



一方、事実婚はどうでしょうか?



はじめるとき、やめるとき、どちらも役所での手続は不要ですが、
はじめるときはお互いの同意が必要なのに、やめるときは必要ないので、



良子さんのように太郎さんが勝手に出て行った場合、
太郎さんを連れ戻すことができなければ、
もはや事実婚を続けることは困難で、
良子さんに選択の余地はないのです。




また法律婚の夫婦が離婚する場合、離婚の条件
(養育費や慰謝料、財産分与など)が決まるまで
離婚を拒むことが可能ですが、事実婚の男女が別れる場合、
解消の条件(良子さんの場合、認知、養育費、出産費用)が
決まっていないのに、太郎さんが実家に戻ってしまったので




事実婚を解消するかどうかを天秤にかけながら条件を
決めることはできず、不利な状況に追い込まれたのです。





日本には他国と違い、戸籍という独特の制度があり、
法律婚と事実婚を比べると、戸籍は手枷足枷になり、
良くも悪くも当事者を縛っているのは確かです。




その縛りをどう解釈するのかは個々人の判断ですが、
もし、交際相手と籍を入れようかどうか迷っている人がいたら、
今回の話を予備知識として役立ててもらえばと思います。



参考)婚外子に関する取り決めの書面



子の監護に関する契約公正証書



福岡太郎(以下、甲という)と熊本良子(以下、乙という)が
両者の間にいる子の監護について以下の通り、合意する。



第1条 甲は甲乙間の未成年の子(本証書作成時点では胎児、
以下、丙という)が自分の子だと認めたので、
速やかに熊本市中央区役所へ認知届を提出すること。



第2条 甲は乙に対し丙の養育費として平成25年11月から
丙が満22歳に達する翌年の3月まで毎月20日に金70,000円を
乙が指定する金融機関の口座へ振込入金にて支払う。
振込手数料は甲が負担する。



第3条 甲は乙に対し平成25年11月末日までに出産費用として
金48,000円を乙が指定する金融機関の口座へ振込入金にて
支払う。振込手数料は甲が負担する。



第4条 乙が丙を出産した後、甲から連絡があった場合、
丙の体調や情緒、気持ちなどを調整し、丙の福祉に
反しないよう面会を実現に向けて、乙は最大限の努力をすること。



第5条 甲は連絡先(住所、電話番号、携帯電話番号、
電子メールアドレスなど名称を問わない)に変更があった
場合は直ちに乙に通知すること。



第6条 甲は本証書の金銭債務の弁済が遅延した場合は
強制執行を受けることを承諾した



平成25年6月19日
甲 福岡県福岡市博多区大通3-4-24-401
公務員 福岡太郎

乙 熊本県熊本市中央区東通4-5-3-102
会社員 熊本良子



(おわり)


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前編後編の後編です。

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