というわけで、大人も子どもも楽しめる絵本の紹介をしていきたいと思います。第4回は、佐野洋子作・絵『100万回生きたねこ』です。
あらすじは、王様やサーカス、どろぼうなどのねことして、100万回生きて、100万回死んだねこがいました。彼は、誰のことも愛さず、1つの人生を生き、また別の人生を生きることを繰り返すだけでした。あるとき、彼はのらねこになり、初めて、自分から好きだと思える1匹の白ねこに出会い、愛する気持ちを知りました。でも、ときがたち、白ねこが死んでしまい……もうトラねこも生き返ることはありませんでした。
一見、悲しいエンディングのようですが、「これでよかったのかもしれない」と思えるのは、ある程度、読み手が大人になってから。1冊を通して、「死」の場面が何度も登場し、「生」と「死」を考えさせられるので、小さな子どもたちにはちょっと難しいかな。
もし、このお話のトラねこのように、自分のことや自分の人生を好きになれなかったら、その記憶を持ったまま、また、次の人生が始まるというのは、ある意味残酷なことのように思えます。でも、愛すること、大切なものを失うこと、悲しみを知ったトラねこは、やっと本当の意味での人生を送ることができたんですね。
もしかしたら、そこに、「喜びや悲しみをたくさん感じるような満足のいく人生を生きなさい」というメッセージが含まれているのかもしれません。
「死」をテーマにした絵本は、その表現方法やアプローチによって、賛否がわかれることが多いと思いますが、なぜ、トラねこは100万回も生きたのか、彼の姿に自分を重ね合わせることで、「自分の人生」を考える材料になることは確かです。だからこそ、大人になってから、読んでみたい絵本なのです。
持ち運ぶというよりは、おうちでじっくり読みたい1冊。さあ、これから、どんな人生を送りますか。秋の夜長に、そんなことを考えるきっかけに。
100万回生きたねこ [講談社]
(林美由紀)