「短歌」に意識を向けてみたら、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているものに驚いた。ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与えてくれる気がしている。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする。
連作の中にある展開やストーリーを、まずは楽しんでみてほしい。
第1回目の歌人は東 直子さん、テーマは「新生活」。
花に布団
東 直子
質問を受ける時間のしずけさに硝子の箱の中の恋文
大陸をめざした「野性号」に立つ青年の背と尻のかがやき
徹夜あけの足一歩ずつ階段を下りて光の漏れるドアへと
風化するゴジラのごとく東京を横断しつつ咲き散る桜
花粉症の瞳の中の遺失物管理人らの謝罪会見
やくたたずの水たまりが目の奥でにぶく光っている午後三時
まばたきのわずかな音をききわけてこころの蜂がとびこんでくる
全身が傘めく人と花を見てしぶきをあびて食はむヨーグルト
腐らないレモンと鯖と君の顔かざっているよ春の窓辺に
交通費くらいは出してあげるから平たい布団に眠りにきてよ
広島県生まれ、歌人、作家。1996年「草かんむりの訪問者」で第7回歌壇賞受賞。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』『東直子集』『愛を想う』『十階-短歌日記2007』など。2006年7月に初小説『長崎くんの指』。
Webサイト:直久
illustrated by ki_moi