「短歌」に意識を向けてみたら、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているものに驚いた。ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与えてくれる気がしている。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする。
連作の中にある展開やストーリーを、まずは楽しんでみてほしい。
第3回目の歌人は北山 あさひさん、6月のテーマは「窓」。
六月と狛犬
北山 あさひ
六月の退職届、そののちは心のなかの侍も眠い
Mさんと鳩を見ていたあの窓ももうSさんの窓となりたり
大きさを確かめるため芍薬に拳をかざす路地仄暗し
クサカゲロウふうと吹いたらふうと消ゆ貯金はするが勝算はない
お元気で 会釈をしたるOさんのすずらん揺れてこぼれてしまう
鎌倉のだいぶつさまの背せなにある窓ひらきたし頬杖つきたし
さらさらと笑って揺れて雨の日はよく竹になる女ともだち
蓮池を見るおじいさん・おじいさん・Nikonを持ったおじいさん・わたし
消えてゆくおうちの灯り、消えないでそこにある窓 ちゃんとしなくちゃ
思い出が狛犬になるカーテンを閉じたらたった一人だけれど
1983年生まれ。北海道小樽市出身、札幌市在住。短歌結社「まひる野」所属。島田修三に師事。2017年、第28回歌壇賞候補。短歌や文章の冊子「無銭飲食」発売中。
illustrated by ki_moi
第一回目:交通費くらいは出してあげるから平たい布団に眠りにきてよ(東 直子)第二回目:コインチョコ、ひと月前の指定券、ジョーカー、行けるとこまで行こう(平岡 直子)
第三回目:思い出が狛犬になるカーテンを閉じたらたった一人だけれど(北山あさひ)