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イケアが考える「家がよくなれば、人生も社会もよくなる」って、どういうことですか?
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イケアが考える「家がよくなれば、人生も社会もよくなる」って、どういうことですか?

2019-10-12 12:30
    2018年には全世界の小売売上高が348億ユーロ(約4兆1000億円)に達し、コワーカー数は約16万人。

    そんなインテリア業界の巨人、イケアは「より快適な毎日を、より多くの方々に」を掲げ、そのビジョンを実現するために、スタートとなるデザイン方針はもちろん、販売に至るサプライチェーン全体にまで自らのスタンスを明確にしています。

    その根源的な意図はどこにあるのか? イケア・ジャパンのカントリーマーケティングマネジャー、Anna Ohlinさんへのインタビューから見えてきた考え方は、「家がよくなれば、人生も社会もよくなる」

    果たして、これは一体どういう意味なのか? 昨年は招待を受け、スウェーデン・イケア本社を取材した筆者が伺いました。

    5つの要素をクリアしなければ発売しない

    イケアと言えば、「デザインが良くて、とにかく安い」イメージが先行し、そのフィロソフィーにはあまりフィーチャーされないのではと思っています。改めて、ゴールとして目指すビジョンを教えてもらえますか?

    「『より快適な毎日を、より多くの方々に』というビジョンがイケアにはあります。

    しかし、創業当時の1940年代には、いいデザインは限られた人々のものであって、一般的な人には手の届かないものでした。加えて、低価格=デザインがあまりよくない、品質があまり高くない製品が主流だったと思うのです。

    でも、低価格でもデザインが素晴らしくて、品質が良くて、機能性も高いモノがあるべきじゃないか、と」

    「そこで生まれたのが、『Democratic Design』(デモクラティック・デザイン=民主的なデザイン)というデザインフィロソフィーです。

    イケアでは、どんな商品を開発する時も、『形、機能性、品質、サステナビリティ、低価格』の5つの要素を満たす必要があるのです。

    なので、商品をデザインする時に、デザインチームはこの5つの要素を必ず守ります。たとえば低価格なら、消費者に届く時には500円を目指す、などですね。

    そして実際に開発してみて、『価格はいいけど、環境に負荷をかける』など、5要素を満たせなかったら、満たせるまで開発を繰り返します。販売はそこをクリアしてからです」

    家がよくなれば、人生もよくなる

    引用:IKEA LIFE AT HOME REPORT 2018

    徹底されていますね。その要素の中では、家具・雑貨である以上、形=デザインは特に重要なように思えます。

    ただ、「デザイナーズ家具」と呼ばれる製品群が設計家の感性に基づいて作られることが多いのに対し、イケアはリサーチを重視する企業であるように思えます。

    例えば、2016年から毎年「LIFE AT HOME」と呼ばれる調査を始めていますね。2万人を超える世界各地の家々を訪ね、人々がどんな希望や要望を持っているかをリサーチしている。これは、重視するものが違うからでしょうか?

    「ええ。私たちにとって、『より快適な毎日を、より多くの方々に』が一番大切なので、リサーチは一般の方々のニーズや夢を知るために行います。

    そもそも、私たちは、『家がよくなれば、人生もよくなる』と強く信じているのです。課題解決をすることで、家も、人生も改善していくことができるはず」

    しかし、「家がよくなる」「より快適な毎日」とおっしゃいますが、非常にあいまいな定義です。それは一体どういう状況を指すのでしょうか?

    「確かに『より快適な毎日』の定義は人によって違います。でも、たとえば私にとっては、家に帰ればハッピーになれたり、ありのままの自分でいられたり、リラックスできたりすることです。『ふぅ〜』と一息つけることと言いますか。

    いま日本人はとても忙しく、睡眠時間もどんどん少なくなっている。都市化しているから、マンションのように限られた空間にパーソナルスペースを築かなければなりません。

    だけど、家は自分が100%に回復できる場所であってほしいのです。日本は他国と比較すると、実はホームファニッシングに対する関心が低いのですが、その分、解決できる課題はたくさんある可能性が高い。

    たとえば、少し整理整頓してみれば、片付けの時間が減ってストレスが少なくなるし、精神的にもリラックスできる。たとえば、家族が集まりやすいスペースを作れば、コミュニケーションが増えて、理解し合える機会が増える。そういった暮らしの中の快適さを、イケアは一緒に作っていきたのです」

    家から社会に余裕が生まれる、フェアになれる

    それが社会に与える影響はあると思いますか?

    「はい。一人一人がホームファニッシングを充実させることで、さきほどのようなストーリーが生まれれば、社会にも好循環が生まれると思っています。

    たとえば、子どもが散らかしたレゴがキレイに収納されれば、ママの機嫌がよくなるかもしれない。そうすると、パパもいつもより早く仕事を終えて家に帰るようになるかもしれない。結果として、家族で一緒に楽しめる時間が増えるかもしれない」

    「そうやって生活がしやすくなると、愛が生まれやすくなる。夫婦は家事をフェアに分担するようになるかもしれません。それを見て子どもが育ち、次の世代で社会に浸透していく。

    もちろん、こんなに単純に物事は進まないとも思っているのですが、全ては繋がっていくと思うのです。少なくとも、スウェーデンは大体そういった流れでした。

    だんだんと専業主婦が減っていき、働いているパパとママが平等に生活をするようになり、それを見て子どもが育っていった。家から変わったのです」

    では、家でのストレスが減り、幸せな時間が増えれば、たとえば仕事の環境も改善すると思われますか?

    「もちろんです。全て繋がっているのですから。部屋がよくなれば、仕事だってよくなる。

    家で満足している、家でいい生活ができる、楽しい時間がある、1人の時間がある。お気に入りの家具と過ごせる、ソファで家族と過ごせる、幸せになる。

    そうして、家の外に出る時には、その幸せな気分が『ついてくる』と思うのです。だから、仕事でもフレンドリーになれたりする。『BETTER LIFE AT HOME, BETTER LIFE AT WORK』ですね」

    それこそ1人1人に余裕が生まれることで、社会にも余裕が生まれるということでしょうか?

    「まさにそういうことです! そんなムーブメントが生まれて欲しいですよね」

    取引先のワークライフバランスも守られるべき

    引用:IKEA カタログ 2020より

    その反面、イケアは低価格を押し出していますね。通常、大手メーカーが低価格を押し出すと、サプライチェーンに負担がかかる。たとえば、材料調達をする企業に原材料費の値下げを要求したり、工場が環境に配慮するコストを下げざるを得ず、大気汚染や土壌汚染に繋がったり。

    しかし、イケアはそれを防ぐために、サプライヤーに対して「IWAY Standard」と呼ばれる約束事を定めていますね。これについて教えてください。

    「IWAY Standardはイケアのサプライチェーンの行動規範です。児童労働させないとか、フェアトレードであるとか、環境汚染をしないとか。

    もっと身近な例では、サプライヤーで働く従業員の労働環境をチェックしています。これは契約時だけにチェックすることではありません。普段の業務においてもなのです。

    たとえば、私たちはマーケティングのためにエージェンシー(広告代理店)と仕事をしますが、彼らがIWAY Standardを守れないのならば、契約はしません。

    イケアと仕事をする以上、彼らのワークライフバランスも守られなければならないのです」

    「ただ、これには彼らもビックリしていましたね!(笑) でも、イケアにとって一緒に働く方々は、Us and them ではなく、Weなのです。

    『BETTER LIFE AT HOME, BETTER LIFE AT WORK』は自分たちだけではなく、全てのサプライチェーンにも適用されるべきこと。

    そして、私たちイケアの社員がまずそのことを体現しなくはいけない。でなければ、取引先もマネできないですからね」

    イケアに入ると最初に言われる一言とは?

    引用:イケア公式サイト 商品ページより

    非常にポジティブですね。実は、今日の取材に向けてイケアの思想を凝縮した一冊、「IKEA DEMOCRATIC DESIGN」を読んできたのですが、この中には3つの単語が頻出します。「挑戦」「失敗」「反骨精神」です。

    デザインや機能性、品質を高めれば、必然的に価格は上がるはずのに、それを下げる、しかも環境負荷を減らし、取引先の環境までケアする。イケアの挑戦はまさしく常に行われているように感じます。そういった企業文化があるのでしょうか?

    「ええ。イケアに入ると最初に言われることがあります。それが、『いっぱい失敗してください』です。失敗は怖くないし、恥ずかしいことでもありません。

    実は私も昨日、社内でコミュニケーションの失敗をしました。悔しいけれども、周りからはハッピーに認められています。

    もちろん、『よかったね!失敗して!』というテンションではありませんが、『いい失敗だったね』と受け入れられているのです」

    個人的な感覚では、日本はいま、経済的な先行きが見えないこともあり、失敗にポジティブになることが難しい社会になってきているのではないのかと感じるシーンがあるのですが、イケアでは真逆のように感じられますね。

    「私たちは80%でいい、と言っていますから。それに、豊かでなくなっているといっても、やはり世界的に見たら日本はとても豊かな国ですよ。その幸せを理解できたらいいですよね。

    私個人としては、自分の幸せについて、本当は毎日考えるべきだと思っているのです。

    たとえば最近知った考え方で、家に帰ってご飯やお風呂を終えたら、毎晩、『今日嬉しかったこと3つ』をノートに書く。小さくても、具体的な嬉しかったことを書く。

    ランチがおいしかった、同僚とこの瞬間とても笑った、家で娘と一緒に宿題して『よく分かったね!』と喜び合った。

    そういう毎日のスモールハピネスに気づけるようになれれば、ポジティブになれる。

    そして、イケアは家を通じて、そういった小さな幸せを一緒に作る親友のような立場でありたいと思っています」

    イケアのスタンスはポジティブなだけでなく、倫理的にも感じられます。どうしたら、そのように在れるのだと思いますか?

    「私たちには最初からビジョンがあり、目的があったから、倫理観も自然と生まれたのだと思います。

    悩んだ時には、いつもビジョンである『より快適な毎日を、より多くの方々に』に帰ってくればいい。

    そして、そのビジョンを実現するために、Democratic Designの『形、機能性、品質、サステナビリティ、低価格』を追及すればいい。

    いくら環境が変わっても、会社が変わっても、そこだけは変わらない私たちのフィロソフィーなのです」

    Photographed by Kaoru Mochida

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