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劇作家・三浦直之さんが10年後も手放さないモノ
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劇作家・三浦直之さんが10年後も手放さないモノ

2021-01-17 12:30
    10年という月日が経つと、いま住んでいる部屋も、立場や環境も大きく変わってきます。ただ、たとえ環境が変わっても「これだけはずっと持っていたい」というモノが、ひとつはある……。

    そこで、さまざまなジャンルで活躍する方々に「10年後も手放さない」思い入れのあるモノを、31×34.5cmという限りのある『ROOMIE BOX』の中に詰め込んでもらいました。

    なぜ、「10年後も持っている」と考えるのか―――。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてきます。

    ロロ主宰・三浦直之さん

    ロロ主宰/劇作家/演出家/
    10月29日生まれ宮城県出身
    2009年、日本大学藝術学部演劇学科劇作コース在学中に、処女作 『家族のこと、その他たくさんのこと』が王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」に史上初入選。同年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当する。自身の摂取してきた様々なカルチャーへの純粋な思いをパッチワークのように紡ぎ合わせ、様々な「出会い」 の瞬間を物語化している。2015年より、高校生に捧げる「いつ高シリーズ」を始動。高校演劇のルールにのっとった60分の連作群像劇を上演し、戯曲の無料公開、高校生以下観劇・戯曲使用 無料など、高校演劇の活性化を目指す。そのほか脚本提供、歌詞提供、ワークショップ講師など、演劇の枠にとらわれず幅広く活動中。
    2016年『ハンサムな大悟』第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。

    10年後も手放さないモノ

    いわき総合高校のみんなに寄せ書きしてもらった“ほうき”

    箱に収まりきらないんですが…と持ってきてくれた“ほうき”

    これは、福島県のいわき総合高校に講師として呼ばれたとき、生徒のみんなにプレゼントしてもらったほうきです。

    いわき総合高校は授業のカリキュラムに演劇が組み込まれていて、演劇を選択した子たちが3年生になると、外から演出家を呼んで卒業公演をやるんです。

    そこに僕が2016年に呼ばれて、『魔法』っていう作品を高校生20人と作って。このほうきは、その劇中のほうきで学校の空を飛ぶシーンで使われたものです。

    公演が終わって、最後にみんながこのほうきに寄せ書きをしてプレゼントしてくれて。

    基本的に僕、自分の公演にしろ外部の公演にしろ、ロロのメンバーを呼ぶことがほとんどだから、ロロのメンバーが出演しない演劇作品をつくるのは、これが初めてだったんですよ。

    それもすごく新鮮だったし、そのときに高校生たちが、本当に全部、俺に体重乗っけてくれるっていうか。すごい信じてやってくれてることに本当に感動して。

    ロロが10周年に近づいていったとき、僕もそろそろ30歳になるし、メンバーも皆、30歳になったりするタイミングで。20代の頃とはモードが変わっていく中で、だんだん若手って感じでもなくなっていくよなーって。

    そんなときにこの子たちと出会って、自分より下の10代とか20代の子たちに、どういうものを渡せるかって考えるようになったんです。

    いわき総合高校の取り組みは、プロの演劇人を養成するっていうよりも、演劇を通してどういうコミュニケーションが得られるかとか、その先のみんなにとって何か大事なものになればいいなっていう、教育の一環としてあるんですね。

    生徒のみんなは、自分の高校生の頃に比べると思ってることを言語化して相手に伝える力とか、相手の言葉をちゃんと聞く能力がめちゃめちゃ高いなと思って。

    それはやっぱり3年間そういう授業をやってきた成果なのかなって、先生方のこともすごく尊敬しました。

    『魔法』を作ったとき、劇中曲で「ライトブルー」っていうEnjoy Music Club(EMC)の江本祐介さんの曲を使ったんです。

    そしたら江本さんがEMCのメンバーと一緒に公演を見に来てくれて。EMCのメンバー3人ともすごく喜んでくれて、そこから意気投合して、メンバーのひとりの松本壮士さんと一緒に、「ライトブルー」のミュージックビデオを撮ったんですね。

    で、そこにいわき総合高校の20人の高校生たちが出演してくれたんです。

    そこから松本さんといろんな作品を作るようになって、今回、松本さん監督の『サマーフィルムにのって』って映画を、僕が脚本に入って一緒に撮ることになりました。

    だから、本当にこの『魔法』は、今につながる別のつながりも生んでくれた、大切な公演だったんですよね。

    高校生のときに出会って作品に影響を与えた『ハル、ハル、ハル』

    『ハル、ハル、ハル』は、まさに僕が高校生の頃に読んだ小説で。

    古川日出男さんって、僕すっごく好きな小説家さんなんですね。その中でも高校生の頃に呼んだ短編集の『ハル、ハル、ハル』は、ロロの作品にもすごく影響を受けていて。

    表題作の『ハル、ハル、ハル』は、3人の「ハル」って名前がつく人たちの物語。

    ひとり目は、13歳の「晴臣(ハルオミ)」っていう男の子。弟と2人で生活していて、親がいないんですね。

    お金もないからどんどん疲弊していって、そんなときに弟が「宇宙人を見たんだ」って言って、山に登っていくんです。で、宇宙人はいなかったけど銃を拾って。もう2人とも限界だから、晴臣が銃で撃って、弟は亡くなっちゃうんです。

    ひとりぼっちになった晴臣は、そのあと高校生くらいの「三葉瑠(ミハル)」って女の子とファミレスで出会って、晴臣にとってはそれが失意の中で初めて誰かと交流する時間で。

    そのあと2人でタクシーを乗っ取るんですけど、そのときのタクシーの運転手が「原田悟(ハラダサトル)」。原田の「ハ」と悟の「ル」で「ハル」。

    この人ももう中年なんだけど、ひとりぼっちになっちゃってる。

    で、そのタクシーの運転手と晴臣と三葉瑠の3人で、旅をし始めるんです。

    そこからロードムービーっぽい感じで、だんだん家族的な連帯になっていくんですけど、僕はその疑似家族的な関係性にすごく感動して。

    この小説は、僕が作品を描けなくなったときによく見返すもので、ロロの『父母姉僕弟君』なんかも、もろに影響を受けています。

    最近はあんまりそういうことは言わなくはなってきたんですけど、ロロっていう劇団をはじめた当初は、血の繋がりとかではない、疑似家族的な関係性みたいなものをどうやってつくるか、ってことを考えてたんですよね。

    僕が演出家ですごく権力があるようなトップダウンではなくて、僕が父であり子であり、またあるときは他の俳優が父であり子であり、みたいな。そういう疑似家族的な集団を作ることができないかなぁと考えたのも、多分『ハル、ハル、ハル』とかを読んだからだなって。

    晴臣と弟の生活が描かれる最初の部分はめちゃめちゃ辛いんですよ。もう、すごい苦しくて。でもその後に晴臣が回復していく姿に、すごく感動する。

    この後、この3人がどうなるかわからないし、いい未来が待ってるとは思えないんだけど、でもこの瞬間の3人はすごく美しいなって思います。

    俳優さんたちの10年後も手放さないモノ

    ——この日は『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』の稽古の日。続々とスタジオ入りする役者のみなさんにも、「10年後も手放さないモノ」を聞いてみました。

    大中喜裕さん「中2のとき付き合ってた女の子と一緒に、クリスマスに香水を買いに行ったんですよ。付き合って半年くらいは毎回デートのときにつけてて、それ以降一切つけてないから、“それを嗅げば中学の思い出が全て蘇る”みたいなものになってしまって。それを捨てちゃうと中学全てを捨てることになるなって、捨てられないなぁ」

    高野栞さん「香水って蒸発しちゃわないの?」

    大中さん「去年帰ったときにまた嗅いだけど、全然匂いする」

    一同「(笑)」

    門田宗大さん「確かに匂いとか音楽とかって、一気に当時を思い出すよね」

    大中喜裕さん

    三浦さん「関さんは?」

    関彩葉さん「自分のちっちゃいときのテレホンカード」

    一同「すごい! かわいいね!」

    関さん「これ見せると、おばあちゃんがめちゃめちゃ喜んでくれる」

    一同「(笑)」

    朝倉千恵子さん「えー、なんだろう。めっちゃ今、考えちゃって。体、とか考えたけど、明日死ぬかもって思ったら、私の周りの人の記憶とか? でも私の周りの人も死んだら残らないなって。だから今パッと思いつかないです。明日世界が終わるかもしれないから」

    一同「(笑)」

    ロロ制作・奥山さん「取材NGですね(笑)」

    劇作家・三浦直之さんの10年後

    映画にしろ本にしろ、モノとして残るけど、演劇は消えちゃってその中でしか残らないから、見返したくても見返せない。そこがおもしろいところだなって思いますね。

    いまって、SNSとかで自分が言った言葉も残るし、いろんなものがログとして残る。それはそれでいいこともあるかもしれないけど、そのことに苦しくなる瞬間があるんですよね。

    10年前の自分と今の自分ってやっぱり違うから、10年前に自分が書いた言葉に、じゃあ今の自分はどういう風に責任をとるのかって、すごく難しいなと思っていて。

    いろんなものが残っていく時代だからこそ、残らない演劇っていうものが、自分にとってすごく、居心地のいい場所になってるのかなって思います。

    写真左から朝倉千恵子さん、金井美樹さん、門田宗大さん

    ——次回上演予定の「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校(いつ小)」は、10年前の公演の再演ですよね。

    はじめに「いつ小」を書いたのが、旗揚げ1年目のとき。ロロをはじめた頃で、中退したけど、まだ大学生のときで。

    そこから10年経って今この作品を読み返すと、やっぱり今の自分とちょっと価値観は変わっていて。じゃあ自分がかつて書いた言葉に、今の自分はどういう風に応答できるかを考えたいなと思っていたんです。

    ただ、やっぱり10年前の自分が書いたものには、そのときの切実さがあるし、今の自分じゃ叶わないなぁって瞬間もあるんですよね。今の自分じゃ絶対書けない言葉とかが。

    で、それをおっさんになった俺が、「いや〜、若気の至りだね」みたいにやるのも、めちゃめちゃダサいなって思うから。だから、かつての自分の誠実さと今の自分の誠実さを植え付けながら上演していきたいなと思っています。

    ロロはみんな30歳を超えて、結婚したメンバーもいたり、きっとここからいろいろ環境も変わっていく中で、どういう風に集団として年を重ねていけるかな、ってことはすごく考えていますね。

    どうしても僕はお話しさせてもらう機会が多いから、「僕が言ってることがロロだ」みたいになりやすいんですけど、そうじゃなくなっていくといいなって思います。

    僕が言ってる意見もロロの一個の意見でしかなくて、メンバーそれぞれがそれぞれの意見を持って、それでもみんな一緒にいるって場になっていくといいなって。

    ロロが10周年で『四角い2つのさみしい窓』って作品をメンバーだけで作って、それがすごく自分の中で達成感があって、一個の区切りになったから。

    またここからしばらく、新しいものを探すことになるなぁと思うんですよね。それを試行錯誤して、10年後くらいに、またそういう作品が作れたらいいなって思ってます。

    Photographed by Yutaro Yamaguchi

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