人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。
“孤独をいつの間にか 淋しがり屋とかんちがいして”
 これは吉田拓郎さんの『イメージの詩(うた)』のワンフレーズ。
 上京して間もない頃、淋しくなるとよく口ずさんでた。
 友達も出来なくて唯一の話し相手は定食屋のおじさん。年齢までは聞かなかったけど、30代半ばだったように思う。
 カウンターしかない狭い店で、たまにおじさんが暖簾を引っ込めた後も居残っていたことがある。
「オレにはよく分かんないけど、美術の世界ってのも大変そうだね」
 もちろん僕が美大を目指していることは知っている。
 ある日、おじさんは店の常連で絵本の出版社に勤めているという人を紹介してくれたんだ。 
週刊文春デジタル