今回お邪魔したのは、そのお部屋探しに並々ならぬこだわりを持ち、一年間さまざまなな賃貸サイトの新着物件を見続けた写真家・小穴啓介さんとパートナーの井上みなみさんのお部屋。
名前(職業):小穴啓介さん(出版社プランナー/写真家)、井上みなみさん(スキンケアブランド「N organic (エヌオーガニック)」のブランドマネージャー)場所:東京都世田谷区
面積(間取り):68.55㎡(3LDK)
家賃:155,000円
築年数:築42年
長い探求の末、希望の条件をすべて満たしてくれる今のお部屋に出会ったという啓介さんの、譲れなかった条件とは? また、こだわりをパートナーと共有し、お互いに心地さを感じられる空間づくりをする秘訣とは。
お部屋を拝見しながら、お聞きしました。
お気に入りの場所
広さのあるL字型キッチン「共通の友人が自宅に遊びに来るのが毎週末のルーティン」だと話すおふたり。
ふたり一緒にキッチンに立つことも多く、キッチンスペースはお互いに気に入っている場所なのだといいます。
ある日のメニュー(小穴啓介さん撮影/iphone)
「人を呼ぶときは品数を多めにつくるので、『このメニューはこっちの担当』などと役割分担をして、ふたりでキッチンに立つことが多いんです。
なので、キッチンはふたりで立っても動きやすい広さが絶対に欲しいと、部屋探しのときから言っていましたね」(啓介さん)
前にふたりで住んでいた部屋も、ふたり同時に調理ができる広さのあるL字型キッチンだったそう。
居心地がよすぎるリビング机は学芸大学のリサイクルショップ、ダイニングチェアは天童木工のもの
キッチンからつづくリビングのテーマは、和のプロダクトとさまざま文化のミックス。
ヨーロッパ調のキッチン、北欧系のリビングと、単体で見るとテイストがバラバラですが、和のプロダクトを全体にプラスすることで、統一感が生み出されています。
CLASKA(クラスカ)のスリッパ
「特に北欧系と和のプロダクトは相性がいいので、おすすめの組み合わせです」(啓介さん)
国内のプロダクトを多数紹介する雑誌の出版社に勤めている啓介さんは、全国各地のプロダクトに触れ合う機会が多いのだそうです。
ひとつひとつが存在感を感じさせる和のプロダクトは、「ほとんどがロケで出会って買ったもの」とのこと。
ネットで購入したソファを、Zara Homeの大判の布で巻いている
「テイストをがちがちに決めきっていないからでしょうか。遊びに来た友人たちからは、居心地がよすぎて実家みたいと言われています(笑)」(みなみさん)
和のプロダクトの美しさが引き立つ和室
灯 イサム・ノグチ / AKARI(オゼキ)
「大の字になって、畳の上で寝転がれる和室も絶対に欲しかった」と話す啓介さん。
内見時に和室を覗いたみなみさんも、和室の障子にうつる木漏れ日の美しさに「一目惚れ」したそうです。
GEN GEN AN幻の茶航路
富山の伝統工芸和紙、越中和紙(八尾和紙) のクッション
「和室はお客さんが泊まりにきたときに、客間や寝室として使っています。シンプルが和室のテーマなので、あまり物を置かないようにしていて」と啓介さん。
その横で、みなみさんがボソリ。
「最近は、和室にもちょっとずつ物が増えていってるんですけどね……」(みなみさん)
シンプル好きのみなみさんと、物がたくさんある方が落ち着く派の啓介さんの日々の攻防が、ここから少しずつ垣間見えていきます(笑)。
この家に決めた理由
「リモートワークが増えたことでふたりの仕事スペースが狭くなり、引っ越しを検討し始めたのですが。
彼の引っ越し先の条件が20個くらいあって。それを全部満たしてくれる部屋がここだったという感じですね」(みなみさん)
20個!? その条件の内容とは……?
①角部屋 ②南向き ③都内55㎡以上 ④二面採光以上 ⑤キレイな光が大きく入る ⑥間取り2LDK以上 ⑦L字キッチン ⑧ドラム式洗濯機が置ける ⑨全居室に窓がある ⑩和室必須 ⑪ビンテージ ⑫新築ではない ⑬駅から徒歩15分以内 ⑭コンビニ、スーパーまで徒歩5分以内 ⑮カーシェアも徒歩5分以内 ⑯壁紙は白、床は木調 ⑰天井が高く、部屋の電気がカスタマイズできる ⑱集合住宅ではない ⑲騒音がない ⑳二階以上(啓介さんのスマホにあったメモより)
「前の部屋がそのまま広くなればいいな、というイメージだったんですが、なかなかすべての条件に当てはまる物件がなくて。
部屋探しを始めてこの部屋がみつかるまで1年くらいかかりましたね。毎日さまざまな賃貸サイトの新着情報を見続けて、1万件は見たかと思います。そこから内見したのが5~6件くらい」(啓介さん)
なかなか根気のいる1年だったかと思うのですが、理想の部屋に出会えるまでに意見が食い違い、ケンカになることはなかったですか?
「ケンカはなかったですね。彼はこだわりがある分、自発的に動いてくれるので、助かっていました。
ただ、一緒に見に行っても全然決まらないので(笑)、内見は途中から彼ひとりに行ってもらって、部屋の様子をライブ配信してもらっていましたね」(みなみさん)
今の部屋は全部屋に窓があるのが大きな魅力に映り、内見の時点でおふたりともとても気に入ったのだそうです。
ただ、最終的に決めたときには、今の部屋を啓介さんが「東横線じゃないし、やっぱり他の部屋かな……」と悩みだしたので、みなみさんが「もうそれ以外の条件は揃っているからここでいい! ここを逃したら後悔するよ!」と、全力で説得されたのだとか。
「すっごい営業しました(笑)」(みなみさん)
お部屋探しの件に限らず、啓介さんが提案して、みなみさんが最終ジャッジをするというのが普段よくある光景とのこと。
おふたりを見ていて、お互いを尊重しつつ意見のすり合わせをすることを日常的に行っているからこそ、お部屋探しなどの大事な局面でも、お互いに納得のいく選択ができるのだろうなと感じました。
お互いの意見をはっきりと言い合えるって、大事ですね。
残念なところ
「住みはじめて10ヶ月経った今、残念なところはないんです。が、住みはじめの1ヶ月は大変でした。古い家がゆえに、設備があんまり整っていなくて……」(啓介さん)
前に住んでいた方が家を空けていたこともあり、カビや油汚れなどもあって、潔癖症なみなみさんは大変な思いをしたそうです。
引っ越し当初は、エアコンも壊れていて使えず
「ある程度汚れているのは承知していたんですが、引っ越してみたら気になってしまって。
コンロが古く、ガスの点火口が塞がれていて火がつかなかったり、お風呂も換気が悪かったり。
怖くてどこも触れなくて、お風呂もつま先立ちで入る……みたいな感じだったんですが、入居後1ヶ月もの間、彼が毎日全力で掃除してくれました(笑)」(みなみさん)
廊下の壁を磨き、さまざまな汚れのついたものをアルコールで洗ってから天日干しし、コンロを磨きつづけること1カ月。ようやく安心して暮らせる状態になったのだとか。
「共有部の汚れも気になっていたので、入居の際に掃除の回数を増やしてほしいと管理会社さんに相談し、今は週1で掃除をしていただいてます。
細かいトラブルのときにも管理会社さんが丁寧に応対してくれて。今ではすっかり快適です」(啓介さん)
初めて内見したときから、おふたりはお部屋のポテンシャルを感じつづけていたそうで、快適な住み心地を手に入れた今は、最初の苦労すべてを踏まえても「今の家に引っ越してよかった」と心から満足できているそうです。
お互いの意見のすり合わせにかぎらず、気になる点があれば管理会社さんに伝え、しっかり相談をすることが、そもそも暮らしやすい部屋づくりをするのに重要なことなのかも。
「部屋のポテンシャルを引き出す」という言葉、思わずメモにとりました。
お気に入りのアイテム
エッグベーカー「勤めている出版社の編集長がおすすめしてくれたエッグベーカーです。ここに生卵を落として直火であたためトロットロになった卵に醤油を垂らし、スプーンで食べる週末の朝が最高で」(啓介さん)
ベーコンやほうれん草を敷いて蒸し焼きにしてもおいしいのだそうです。
うつわの魅力に目覚めた、思い出の1枚「このうつわも大好きです。それまではうつわにまったく興味がなかったぼくがハマるきっかけになった1枚で。
愛知・名古屋の瀬戸本業窯のものなんですが、このグラデーションの色味を手仕事でつくっているなんてすごい!と感銘を受けて。
和菓子とかをちょんと真ん中に置くだけでかわいくなるし、……いまだにうっとり眺めています(笑)」(啓介さん)
週1の水替えで元気に育つ「WOOTANG」「わたしのお気に入りは、土を使わず水だけで育てる観葉植物『WOOTANG(ウータン)』です。デスクに置く小さな緑が欲しいなと思って探していたら雑誌で見つけて、ネットで購入しました。
水耕栽培なので、虫がこないんです」(みなみさん)
週に一度水を変えるだけで元気にすくすく育つところが、自称ズボラなみなみさんにとってはありがたいのだとか。これは、ROOMIE読者も気になるアイテムなのでは?
経年変化が楽しい、玄関の守り神「あと、これもすごい好きですね。とってもいい香りがするんです」(みなみさん)
「我が家の守り神ですね(笑)」(啓介さん)
玄関付近に飾られていた、CASICAのプロダクト「わら細工たくぼのしめ縄」。
お正月のしめ飾りが年末年始にしか飾れないのに対し、こちらは一年中飾ることができるように、青藁で組まれているのが特徴です。
少しずつ古びていく中で黄色に色味が変わっていく経過を楽しむプロダクトで、購入当初はもっと青かったのだとか。
IKEAのライトほぼIKEAで道具を揃えたと話す仕事部屋。そんなIKEA製品の中で一番よかったと感じているのがライトなのだそうです。
「これひとつで、手元がかなり明るくなるので。値段も手頃だし、おすすめです」(啓介さん)
デスクやチェア、ライトは同じものながら、「シンプルが好き」なみなみさんと、「隙間があると寂しく感じる」啓介さんのデスクの違いが面白い
暮らしのアイデア
部屋を解放的に、広く見せる工夫「寝室以外の窓はすべて、カーテンではなくブラインドにしています。部屋全体が明るい印象になりますし、厚みが出ないので、カーテンよりも圧迫感が軽減される気がして。
基本的にはニトリで揃えて、サイズが合わない部屋の窓分はネットで特注しました」(啓介さん)
「あと、棚類をはじめとした家具は、基本的に細身のものを選ぶようにしています。どれだけデザインが気に入っても『この5cmが厚いよね』となると買わない。
部屋が狭くなるので。食器棚もなかなか細身のものがなくて、今のものに出会うまで3ヶ月間探し回りました(笑)」(みなみさん)
見せることで、かさばらない収納を収納は、無理に「すべて隠そうとしない」ようにしているのだとか。
「すべて隠そうとすると押し入れなどが必要になって、スペースをとるなと。なので好きなものは見せるようにしていますね。食器棚などはそうです。
見せていいものは暮らしの中で見せてあげると、収納とディスプレイが一体化できて省スペースにもなるかなと」(啓介さん)
生活感が出るなどの理由からどうしても見せたくないものに関しては、手軽に布をかけるなどして隠しているとのこと。
取捨の明確な基準を持ち、空間に統一感をもともと、入居する際に「ここはこうしたい!」という設計イメージがあった啓介さん。みなみさんにもそのイメージを共有し、基本的にはそれに沿ってモノを選んでいくだけ、と部屋づくりが始まったそうですが……。
「ぼくは衝動的に、しょっちゅう欲しくなるんですよ。とにかく買いたい(笑)」(啓介さん)
「買いたい!の9割くらいは却下してるかも(笑)。
ふたりの意見が違ったときに、買う/買わないを決める基準は『どこに置くかイメージができるか』です。
彼がものすごく欲しい!となっていても、ふたりで話して、置く場所がないとなればやめるようにしています」(みなみさん)
その他、柄物は小物のみにして色を増やしすぎないなど、空間に統一感を生むうえで気をつけているいくつかのポイントがあるのだそうです。
寂しさは自力で埋める取材班がお部屋に入って早々目に留まり気になったのが、テープで施されたウォールアート。
これは誰の作品ですか?とお聞きすると、「ぼくです」と啓介さん。
壁に貼られたイラストも、啓介さんが隙間を寂しく感じて描かれたものなのだそうです。
「寂しさは自分で埋めるスタンスなんです」(啓介さん)
「色合いが部屋と合っているので、これはいいかなと(笑)」(みなみさん)
これからの暮らし
「全体的にまだまだ手を入れていきたいですね。要所要所が気になって、配置とかもちょこちょこ変えていますし……。
次に来ていただいたときには、多分また変わっていますね、いろいろと。例えば……今は冷蔵庫の裏に空いたスペースを寂しく感じていて、何かしらを飾りたいと思っているんですよね」(啓介さん)
「飾らなくていいよ!(笑)」(みなみさん)
その他、木調のテーブルを白いラウンドテーブルに変えたいとか。
みなみさんも、まだほとんど手を加えられていなくて持て余しているベッドルームの改造を頑張りたいと考えているそうで、おふたりで話していると創作のアイデアが次々に湧き出てくる様子でした。
みなみさんが手掛けるプロダクトを、啓介さんが撮影した冊子
きっとおふたりは、今のお部屋での部屋作りをこの先も永く、楽しまれていくことと思います。
新たなテーブルが届いたら(お気に入りが見つかるのは1年後……でしょうか?)、また、ぜひともお邪魔させていただきたいものです。
Photographed by Kaoru Mochida
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