それゆえか、ポートランドは、「欲しいものがなければ、自分でつくる」というDIY(Do It Yourself)精神が深く根付いた地域として、米国内外のDIYフリークや職人たちから、注目を集めてきました。
とりわけ、ポートランドのものづくりを支えるコミュニティスペースとして知られているのが、2011年6月に創設された「ADX」。趣味としてものづくりを楽しむ人から、新商品の開発に日夜取り組む起業家まで、400名以上のメンバーが参加しています。
14000平方フィート(1302平方メートル)にわたって広がる作業場には、木工・金属加工から最新の3Dプリンティングまで、ものづくりのためのあらゆる設備・ツールが備えられています。
作業場の北東側に配置されたMETAL SHOP(メタル・ショップ)は、溶接や圧延など、金属加工や組立のためのスペース。
一方、木工用スペースのWOOD SHOP(ウッド・ショップ)は、電動ドリルや電動カッターの轟音が鳴り響き、まさに「ものづくりの現場」といった雰囲気です。
ADXでは、METAL SHOPやWOOD SHOPのように、メンバーが共用するスペースのほか、プロジェクトや企業ごとに専用スペースを借りることも可能。
たとえば、Charlie Haughey氏は、専用スペースで、ADXの廃材を木製の球体に“アップサイクル”するアートプロジェクトに、取り組んでいます。
ADXは、個々のものづくりだけでなく、メンバーたちの“たまり場”としての役割も担っています。
手作り感あふれるカフェコーナーには、簡易キッチンが設置されており、作業の合間にコーヒーを淹れて一息ついたり、ご自慢の料理をその場でつくって仲間をもてなしたり。
かたわらでは、メンバーの飼い主さんと同伴でやってきたワンちゃんが、おとなしく日向ぼっこしながら、みんなのものづくりをやさしく見守っています。
気分転換にピアノを弾いてみたり、バスケットボールを手に取りながら語り合ったりと、メンバーたちが日常的にふれあい、自然と交流を深めることができるのは、リアルなコミュニティスペースならではの醍醐味でしょう。
お金さえ払えば、ほとんどのものが短時間で簡単に手に入る、便利な時代。ともすると、効率性や利便性ばかりが追求されがちですが、ものづくりを介して人と人とがつながり、自ら手を動かし、時間をかけて、ものづくりのプロセスをともに楽しむ、ポートランドのDIYカルチャーにこそ、本質的な豊かさが潜んでいる気がします。