まえがき

「守る外交」と「攻める外交」

どちらが正しいのか、その答えは時代によって変わります。
しかし、現代の日本が直面しているのは、人口減少、技術競争、そしてグローバリズムという世界規模の波です。
この波の中で、私たちはどの舵を取るべきなのでしょうか。

本書は、日米関税交渉をめぐる政府と参政党の考え方を軸に、日本外交の方向性を問い直す試みです。
一見、関税交渉という限られたテーマのように見えますが、その裏には安全保障や国際政策、そして国内の政治文化までもが絡み合っています。

石破茂政権が掲げる「守りの外交」は、波風を立てず現状を維持する道です。
参政党・神谷宗幣議員が主張する「攻めの外交」は、経済以外の分野をも交渉カードとして駆使し、リスクを取ってでも成果を取りに行く道です。

この二つの道のどちらを選ぶのか――
その選択は、私たちの未来を決定づけるものです。

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第1章

グローバリズムと関税交渉の影で

みなさんにまず考えていただきたいのは、「日本の交渉力とは何か」という根本的な問いです。

ニュースでは、日米関税交渉の結果を政府が「守るべきを守った」と胸を張って発表しました。

しかし、その「守った」という言葉は誰の視点でしょうか。
政府側、つまり石破首相や赤沢亮正大臣の自己評価であり、国民がそのまま納得してよいものなのか。
この一点を、私は問いたいのです。

今回の関税交渉の舞台は、単なる数字合わせではありません。
背景には、グローバリズムという名の巨大な潮流があります。
国境を越えた経済競争が激化し、資本や労働力が地球規模で移動する。
その結果、多国籍企業が利益を独占し、各国の中間層がじわじわと没落していく。
これはもはや学者や評論家だけが語る抽象的な話ではなく、私たちの日常生活に直結する現実です。

たとえば、食品価格の高騰。
エネルギー輸入コストの上昇。
国内製造業の空洞化による雇用の減少。
これらはすべて、グローバリズムの波と深く関わっています。

そんな中、日本が交渉の相手としたのは、グローバリズムのゲームを主導してきた米国、しかもトランプ関税という独自の武器を持つ政権です。
トランプ氏は、ある意味で反グローバリズム的な関税政策を掲げていますが、その真意は「アメリカ第一」です。
他国の国益を考慮する余地など、ほとんどありません。

今回の交渉において、日本はどこまで自国の利益を守れたのか。
そして、どこで譲歩してしまったのか。
これは単に外交交渉の巧拙ではなく、日本の将来に直結する問題です。

さらに深刻なのは、この交渉が国民にとって「ブラックボックス化」していること。
報道では、政府の公式発表が中心で、裏側のやり取りや交渉カードの有無についてはほとんど触れられません。
そのため、多くの国民は「政府が言うのだから、きっと良い結果なのだろう」と思い込んでしまう。

しかし、参政党・神谷宗幣代表のように、現場の交渉過程や国際政治の文脈を読み解き、「決していい条件ではない」と断言する声もあります。

しかも彼は、その根拠を具体的に示しています。
これは単なる野党的批判ではなく、日本が取り得た別の選択肢を提示しているのです。

では、なぜ政府はその選択肢を取らなかったのか。
本当に国益を最大化する交渉だったのか。
それとも、国内外の政治的事情や「波風を立てない」ことを優先した結果、守れるはずの利益を取り逃がしたのか。

私は、今回の関税交渉は「表向きは勝利、実態は譲歩」という構図に近いと見ています。

もちろん政府はそうは認めないでしょう。
しかし、交渉の結果だけを見れば、日本は15%の関税を維持したまま。
自動車や半導体で多少の譲歩を引き出したとはいえ、根本的な改善には至っていません。

このような状況を前にして、「それで満足なのか」と問わずにはいられません。
国際政治の世界では、待っていても条件は良くなりません。
むしろ、交渉の場において「攻める姿勢」を持たなければ、他国は容赦なく自国の利益を優先します。

だからこそ、今回のテーマは、単なる日米関税の話にとどまりません。
これは、日本がこれからの国際社会で「どのような立ち位置」を選び、「どのような交渉姿勢」を取るのかという、国家戦略の問題なのです。

みなさんはどう思いますか。
守りに徹して現状維持を選ぶのか。
それとも、リスクを承知で攻めに転じ、より大きな利益を狙うのか。

次の章では、この政府の説明(赤沢亮正大臣の発言)と、その裏に潜む問題点を、さらに具体的に見ていきます。

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第2章

政府が語る「守った交渉」の真相と限界

今回の日米関税交渉について、政府は自信満々に「守るべきを守った」と繰り返しています。
その旗振り役となったのが、赤沢亮正国務大臣です。

赤沢大臣は、トランプ関税の背景について冷静に分析してみせます。
彼の説明によれば、トランプ氏が各国に突然関税を課し始めた理由は、単に米国の貿易赤字を削減するためだけではありません。
もっと根本的には、米国内で失われた製造業を復活させ、雇用を取り戻すこと。
そして、「忘れ去られた人々」と呼ばれる中間層や労働者層を再び政治の中心に据えること。

加えて、米国製造業の「回帰」を実現させるための強硬策として、各国の輸出に重い関税をかけ、その代わりに米国製品への関税引き下げを迫る。
結果的に米国の輸出を増やし、貿易赤字を減らす―これがトランプ関税の大枠だと説明します。

赤沢大臣の説明は、一見すると国際政治を熟知したプロの視点に聞こえます。
しかし、この冷静さの裏には、「だから仕方ない」という諦めの響きも隠れています。

低すぎる日本の関税率が交渉の足かせに

赤沢大臣はこうも語ります。
日本の対米関税率はすでに0.8%程度と極めて低い。
だから、米国からさらなる引き下げを求められても、応じる余地はほとんどない。

つまり、日本は「これ以上下げられない」という防戦一方の立場で交渉に臨んだというのです。
ここで彼らが持ち出したのが「関税より投資」という戦略でした。

「関税より投資」という政府の選択

石破首相の指示のもと、日本は関税を下げる代わりに米国への投資を拡大する提案を行いました。
いわゆる「ジャパン・インベスト・アメリカ」です。
これにより、米国側からの理解を得て、結果的に関税の一部を引き下げてもらう道を選んだのです。

赤沢大臣はこの手法を「針の穴を通すような難しさ」と表現します。
そして、成果として以下を挙げます。

自動車・自動車部品関税の数量制限なし引き下げ

半導体や医薬品で他国に劣後しない確約

日本側の関税引き下げゼロ

これらは確かに、数字だけを見れば「守った」と言えなくもありません。
しかし、その裏で日本が失った交渉カードや、最初から交渉の選択肢を狭めてしまった可能性は、果たして十分に議論されたのでしょうか。

国民への説明不足

最大の問題は、こうした戦略選択の過程が国民に十分に説明されていないことです。
政府発表は成果を並べる一方で、なぜ「関税より投資」を選んだのか、他の選択肢は検討されたのか、といった核心部分はあいまいなままです。

たとえば、神谷宗幣議員が指摘するように、トランプ政権が重視する非経済分野の政策―SDGsの廃止やWHO脱退―を交渉カードとして使う可能性は、本当に検討されなかったのか。
もしそうなら、その理由を国民に説明すべきです。

また、政府は「日本の安全保障上の同盟関係」を理由に、アルゼンチンの事例とは比較できないとしています。
しかし、それは逆に、日本には他国にはない強力な交渉カードがあるという意味でもあります。
なぜそれを有利な条件引き出しに使わなかったのか。

守ったのか、守るしかなかったのか

政府が「守るべきを守った」というとき、国民はそれを「守った」と解釈します。
しかし、実際には「守るしかなかった」という状況だったのではないか。
交渉の前提条件があまりに不利であった場合、それを覆すには相当な外交力と戦略が必要です。

今回、日本は米国との関係悪化を避けることを優先し、あえて強いカードを切らなかった可能性があります。
その結果、「現状維持」という安全策に落ち着いた。
しかし、現状維持は国際競争の中では後退を意味します。

参政党との対比が鮮明に

神谷代表は、まったく異なるアプローチを提案します。
それは、経済以外の政策を交渉材料に使うというもの。
一見過激にも聞こえますが、外交の現場では珍しい手法ではありません。
むしろ、多くの国が安全保障や国際政策を含めて総合的に交渉を行っています。

この対比は、単に「政府対野党」という構図ではありません。
守りの政府、攻めの参政党。
どちらが今の日本に必要なのか――この問いが、交渉の背景から浮かび上がってきます。

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第3章

神谷宗幣代表が描く「攻めの外交」シナリオ

今回の日米関税交渉で、最も鮮やかな対立軸を示したのが参政党の神谷宗幣議員です。
彼の主張は、政府の「守りの交渉」に対して、真逆ともいえる「攻めの外交」戦略。
しかも、その根底には、参政党が結党以来掲げてきた「日本人ファースト」という一貫した理念があります。

「日本人ファースト」とは何か

神谷議員が言う「日本人ファースト」は、一部メディアが批判するような単なる排外主義ではありません。
むしろ、グローバリズムの中で失われつつある国家の主権と国民生活を守るための現実的スローガンです。

彼はこう説明します。

「日本は日本として自立し、強く豊かに存在しながら、他国と協調関係を築く。
これは行き過ぎた新自由主義や、多国籍企業に富が集中して中間層が没落するグローバリズムへの警鐘であり、その流れに巻き込まれないための覚悟だ」

つまり、日本を単なる国際市場の一部ではなく、独立した国家として位置づけ直すこと。
これが「日本人ファースト」の本質です。

関税交渉における「踏み絵」論

神谷議員の視点の鋭さは、トランプ関税を単なる経済政策ではなく、外交戦略上の「踏み絵」と見抜いている点にあります。

トランプ氏は各国に突然関税を課し、そこから交渉を始めます。
その目的は、どの国が米国共和党政権の政策に歩調を合わせられるかを試すこと。
経済の枠を超え、外交・安全保障・国際機関政策までを含めた総合的な「同盟度チェック」です。

この分析を裏付ける事例として、神谷議員はアルゼンチンを挙げます。
アルゼンチンは新政権発足後、WHOからの脱退を表明し、アメリカの外交方針に早期から同調しました。
その結果、対米輸出品の約80%が関税ゼロという破格の待遇を獲得したのです。

神谷議員は、この事例を「トランプ氏のポイントを押さえた交渉」だと評します。
そして、日本も同じように「経済以外のカード」を切るべきだったと主張します。

神谷議員の提示する交渉カード
神谷議員が挙げた具体的なカードは、政府の説明にはまったく出てこないものばかりです。

SDGs(持続可能な開発目標)の廃止

脱炭素政策の廃止

WHO(世界保健機関)からの脱退

ウクライナ支援の見直し

DEI(多様性・公平性・包括性)政策の廃止

政府によるSNS規制の撤廃

これらはいずれも、トランプ政権が国内で掲げている政策方針と一致します。
つまり、日本がこうした分野で歩調を合わせれば、「同志」としての信頼を得られる。
それが関税交渉の空気を変え、15%の関税を0%または2.5%まで引き下げる道を開くという戦略です。

「攻める」ことの意味

神谷議員の戦略は、一見すると過激に映るかもしれません。
特に、国際協定からの脱退や環境政策の見直しは、国内外からの批判を招く可能性が高い。
しかし、外交の現場では「譲る部分」と「絶対に譲らない部分」を峻別し、譲る代わりに大きな見返りを得るのが常套手段です。

例えば米韓FTAの交渉でも、韓国は農産物市場の一部開放を受け入れる代わりに、自動車分野で有利な条件を引き出しました。
つまり、経済と非経済を組み合わせる「総合取引」は、決して特別なことではないのです。

神谷議員は、日本政府がこの発想を欠いていることを最大の問題としています。
「守るべきを守る」ことは重要ですが、それだけでは現状維持で終わる。
むしろ、国益の最大化には「取りに行く姿勢」が不可欠だと強調します。

関税引き下げの可能性

神谷議員は、トランプ氏の「ポイント」を押さえれば、日本の関税は必ず下げられると信じています。
トランプ氏は時に予測不能な言動を見せますが、その背後には明確な価値観と政策目標があります。
それを理解し、戦略的に歩調を合わせることで、日本にとって有利な条件を引き出せるというのです。

この考え方は、短期的には波風を立てるかもしれません。
しかし、長期的には日本の競争力と交渉力を高める可能性があります。

まとめ

神谷宗幣議員のシナリオは、政府の慎重路線とは正反対です。
彼は、「守る」よりも「攻める」外交を選び、あえて経済以外の分野をも交渉材料に組み込もうとします。
これはリスクを伴いますが、その分見返りも大きい可能性がある。

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第4章

石破首相の拒否と“主体的判断”の真相

神谷宗幣議員が提示した交渉戦略――それは、経済以外の政策、時に国際的な約束や協定までも交渉カードとして使い、米国からより有利な条件を引き出す「攻めの外交」でした。
しかし、この提案は石破茂首相によって、明確に、そして即座に退けられます。

「具体的提案はなかった」という一点突破

石破首相の第一声は、「トランプ氏からそのような具体的提案を受けた事実はない」というものでした。
この一点を強調することで、神谷議員の提案全体を“仮定の上に立つ議論”として押し返したのです。

「対面でも電話でもずいぶん多く話したが、トランプ氏が一方的に話すことはあっても、それを『日本も一緒にやらないか』と提案された記憶はない」

この言葉には、外交交渉の場での“事実認定”を盾にして、議論の土台を崩す狙いが見えます。
しかし、ここで重要なのは「提案がなかった」ことと「カードとして使える可能性がなかった」ことは別問題だという点です。
神谷議員が指摘しているのは、提案があったかどうかではなく、日本が自ら交渉材料として切り出すべきではなかったか、という主体的判断の話なのです。

主体的判断という名の“現状維持”

石破首相は続けてこう述べます。

「我が国が我が国として国益に進むかどうかは我が国主体的な判断をするもの」

一見、国家の主権を守る堂々たる発言に聞こえます。
しかし、ここでの「主体的判断」とは、実質的には「現状維持を選ぶ」という決定とほぼ同義でした。
なぜなら、この方針のもとでは、米国の政策と異なる分野をわざわざ交渉に持ち込むことはしない、ということだからです。

国際交渉においては、相手国が強く求めているテーマに歩調を合わせることで、自国に有利な条件を引き出すのが常套手段です。
主体性を理由にそれを行わないのは、安全策であると同時に、交渉で得られる成果の幅を狭める選択でもあります。

アルゼンチンとの比較を拒否

神谷議員は、アルゼンチンが米国と有利な合意を結んだ事例を引き合いに出しました。
WHO脱退や外交方針の同調を通じ、関税ゼロという破格の成果を得たのです。

これに対し、石破首相は次のように述べます。

「アルゼンチンと日本では貿易構造が全く異なる。
また、日本は米国の安全保障上、非常に緊密な同盟国である。
したがって全く同列に論じるべきではない」

確かに、両国の地政学的位置や経済構造は異なります。
しかし、日本が「安全保障上の緊密な同盟国」であることは、逆に米国にとって失いたくないパートナーであることを意味します。
この優位性を交渉材料として使わない手はないはずです。

石破首相の回答は、一見理屈が通っているようでいて、実際には「比較を拒否することで議論を封じる」役割を果たしています。

安全保障と経済交渉の分離という建前

石破首相は、安全保障の問題を関税交渉と直接結びつけることには慎重です。

「安全保障は直接的な関税交渉の対象ではない」

しかし現実には、世界中の通商交渉で安全保障や外交的立場がカードとして使われています。
米中貿易戦争でも、経済と安全保障は密接に絡み合っていましたし、EUが加盟国に経済制裁を科す際にも安全保障上の立場が大きく影響します。

つまり、石破首相の姿勢は「建前としては正しい」が「現実の交渉では不利になりかねない」アプローチです。

なぜ政府は“攻め”を避けるのか

では、なぜ石破政権は神谷議員のような攻めの戦略を避けたのでしょうか。
そこには、いくつかの政治的計算が見えます。

国内政治の安定優先
 非経済的分野で米国に歩調を合わせることは、国内の一部勢力から強い反発を受けます。
 特にSDGs廃止や脱炭素政策見直しは、メディアや都市部の有権者からの批判が避けられません。

国際的イメージの維持
 国際協定からの脱退は、日本が「国際協調を重んじる国」というイメージを損なう可能性があります。
 これは外務省や国際派議員にとって受け入れがたい選択です。

米国との関係悪化リスク回避
 トランプ政権は交渉相手に強い要求を突きつけますが、それに応じた後の見返りが保証されているわけではありません。
 石破政権は「要求に応じても成果が得られないリスク」を恐れた可能性があります。

「最大限の努力」という自己評価

石破首相は今回の合意について、「最大限の努力をした」と繰り返しました。
そして今後もさらに良い結果を目指して交渉を続けると述べます。

しかし、この「最大限の努力」という自己評価は、外から見れば「安全策の範囲内でできることはやった」という意味にしか聞こえません。
国際交渉では、結果こそがすべてです。
努力のプロセスをどれほど強調しても、条件が改善されなければ意味はありません。

変化を拒む政治の構造

石破首相の反論には、日本の政治文化そのものが透けて見えます。
前例を重んじ、波風を立てず、合意形成に時間をかける。
この慎重さは国内政治の安定には有効ですが、スピードと決断力が求められる国際交渉の場では弱点となります。

神谷議員の提案が採用されなかった背景には、この「変化を恐れる政治構造」があります。
現状維持を選ぶことで、短期的な批判は避けられるかもしれません。
しかし、それは長期的には国益を削る選択にもなり得るのです。

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第5章

参政党が提示する「攻めの外交」実行プラン

神谷宗幣議員は、石破政権が取った「守りの交渉」だけでは日本の国益を守り切れないと考えています。
その代わりに彼が提案するのが、リスクを取ってでも成果を取りに行く「攻めの外交」です。
この戦略は、単なる掛け声ではなく、明確な手順と交渉カードを伴う具体的なプランです。

1. 交渉の舞台設定を変える

神谷議員はまず、交渉の「議題設定」そのものを変えるべきだと考えています。
通常、日米関税交渉では関税率や貿易黒字額など、経済指標が主な議題となります。
しかし、これだけでは日本は常に守勢に回ります。

なぜなら、日本の対米関税率はすでに0.8%と極めて低く、引き下げ余地がほとんどないからです。
この状況では、相手国の要求に「応じない」という選択しか取れず、交渉の幅が狭まります。

神谷議員はここで発想を転換します。
経済の枠を超えて、安全保障や国際政策、環境政策など、米国が強く関心を持つ分野を交渉議題に組み込むのです。
これによって、相手国に「日本と歩調を合わせるメリット」を意識させることができます。

2. 非経済分野の交渉カード活用

神谷議員が列挙する交渉カードは、政府側の説明には一切出てこないものです。

SDGs(持続可能な開発目標)の廃止
 トランプ政権はSDGsを「国連主導の過剰介入」とみなし、批判的です。
 日本が一部目標の見直しや撤廃に同調すれば、米国にとっての戦略的パートナーとして評価される可能性があります。

脱炭素政策の廃止
 米国共和党は気候変動政策に懐疑的です。
 脱炭素目標の撤廃または緩和を表明すれば、エネルギー分野での米国企業参入や投資が増える見込みがあります。

WHO(世界保健機関)からの脱退
 トランプ氏が過去に表明したWHO脱退方針に同調すれば、中国への対抗姿勢を鮮明にできます。

ウクライナ支援の見直し
 米国共和党内ではウクライナ支援への懐疑論が強まっています。
 日本が支援の縮小や条件付き継続を示せば、米国との政策協調を演出できます。

DEI(多様性・公平性・包括性)政策の廃止
 共和党支持層はDEIを「過度な政治的正しさ」として嫌悪しています。
 日本がこの分野の政策を見直せば、思想的共鳴が得られます。

政府によるSNS規制の撤廃
 表現の自由を重視するトランプ政権と完全に一致する立場です。

これらのカードは、経済分野では不利な立場に立たされがちな日本が、交渉の主導権を取り戻すための「政治的通貨」となります。

3. 成果の見込み

この「非経済カード活用戦略」によって、日本が得られる可能性のある成果は次の通りです。

関税率の大幅引き下げ
 現行15%の関税を0%または2.5%まで下げる。
 これは自動車・部品・電機製品など輸出産業全体に大きな恩恵をもたらします。

輸出数量制限の完全撤廃
 米国市場へのアクセスを実質的に無制限化。

優遇的貿易枠組みの構築
 半導体や医薬品分野での優遇措置を固定化し、他国の後塵を拝さないポジションを確保。

4. リスクとその対策
もちろん、この戦略にはリスクも伴います。

国際的批判の高まり
 SDGsや脱炭素政策の撤廃は、欧州や国連から批判を受ける可能性が高い。
 → 対策:国内向けに「経済安全保障上の必然」と説明し、国際舞台では「各国の事情に応じた多様な目標設定」を主張する。

国内世論の分裂
 政策見直しは、国内で賛否を呼びます。
 → 対策:政策撤廃ではなく「段階的見直し」や「自主的基準への移行」と表現し、急進的な印象を避ける。

米国政権交代リスク
 トランプ政権が続かなければ、この戦略は一部無効化する可能性があります。
 → 対策:政権交代後も有効な二国間経済枠組みを事前に締結しておく。

5. 戦略の本質
神谷議員の提案は、単に米国の言いなりになるという意味ではありません。
むしろ、日本が自らの主権を持ってカードを切り、相手の望む分野で譲歩する代わりに、最重要分野での利益を勝ち取るという“等価交換”の発想です。

外交とは取引であり、理念だけでは動きません。
特に関税交渉のようなゼロサム的な場では、「何を差し出すか」と「何を得るか」を明確にすることが必要です。

6. 国民への説明責任
この戦略を実行する上で重要なのは、国民への透明な説明です。
なぜこのカードを切るのか、何を得るためなのか、その過程と成果を明確に示すこと。
これによって、短期的な批判や不安を乗り越えることができます。

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第6章

あなたはどちらの舵を取るか

ここまで見てきたように、今回の日米関税交渉は単なる数字のやり取りではありません。
それは、日本がこれから国際社会でどのような立ち位置を取るのか、そして国益をどう守り、どう広げていくのかという国家戦略の選択でもあります。

一方には、石破政権と赤沢亮正大臣が主導する「守りの外交」があります。
現状を維持し、波風を立てず、既存の国際枠組みと国内の合意形成を重視する慎重路線。
彼らは「守るべきを守った」と胸を張ります。
確かに、その言葉は間違いではないでしょう。
しかし、それは“最大限の努力”という名の現状維持であり、未来を切り開く力強さには欠けています。

もう一方には、参政党・神谷宗幣議員が提示する「攻めの外交」があります。
経済以外の分野も交渉カードとして駆使し、リスクを取ってでも米国から有利な条件を勝ち取る戦略。
国際協定や政策を見直すことで、短期的には批判を浴びるかもしれません。
しかし、その代償として得られる利益は、日本経済と国民生活を長期的に支える可能性を秘めています。

国益とは何か

この二つの路線の違いを理解するには、そもそも「国益」とは何かを考えなければなりません。
国益とは、単なる経済的利益だけではありません。
安全保障、外交的地位、産業競争力、国民生活の安定――これらすべてを含む総合的な価値です。

守りの外交は、短期的な安定と国際的なイメージの維持には適しています。
しかし、世界が急速に変化し、グローバリズムの波が各国の産業や雇用を呑み込んでいく中で、「守るだけ」で本当に国益を守り切れるのでしょうか。

一方、攻めの外交は、現状を打破し、交渉の主導権を握る可能性を持っています。
しかし、そのためには国内外での批判、そしてリスクを引き受ける覚悟が必要です。

あなたはどちらを選ぶのか

国際交渉は政府だけの問題ではありません。
交渉で得た成果も、失った機会も、最終的に影響を受けるのは私たち国民です。
だからこそ、この選択は他人事ではありません。

もしあなたが現状維持を望むなら、石破政権の路線を支持するでしょう。
今の国際的立場を保ち、波風を立てず、既存の政策や国際協定を守る。
これは安全な選択に見えますが、その安全が永遠に続く保証はありません。

もしあなたが変化を求めるなら、神谷議員の提案に耳を傾けるべきです。
リスクを取り、国際社会の潮流を利用し、日本が主導権を握るチャンスを掴む。
これは大胆な選択であり、成功すれば日本の立場を劇的に向上させます。

グローバリズム時代の現実

忘れてはならないのは、今がグローバリズムの時代だということです。
経済だけでなく、情報、文化、安全保障までもが国境を越えて交差し、複雑に絡み合っています。
この環境での外交は、経済交渉と安全保障、環境政策と通商政策が分離して存在することはほぼありません。

米中対立を見れば明らかです。
関税、半導体規制、安全保障上の輸出管理――すべてが一体化しています。
この現実を踏まえれば、石破政権のように「経済は経済、安全保障は安全保障」と線引きするやり方は、時代遅れになりつつあります。

攻めなければ守れない時代
かつて日本は、経済成長の波に乗って「守りの外交」でも国益を拡大できました。
しかし今は違います。
人口減少、技術競争、資源争奪――内外の環境は厳しくなる一方です。
この状況で必要なのは、現状を維持するだけの外交ではなく、主導権を握るための攻めの戦略です。

神谷議員の提案は、その一つの形です。
もちろん、これが唯一の正解ではありません。
しかし、少なくとも「守るだけ」では衰退を止められないことだけは確かです。

最後の問い

あなたは、どちらの舵を取りますか。
守り続けるか、攻めに転じるか。
その選択は、数年後の日本経済だけでなく、数十年後の国際的地位をも左右します。

グローバリズムの波をただ受け止めるだけか。
それとも、自ら舵を切って、その波を利用して前に進むのか。

次の選挙で投じる一票は、その選択の意思表示です。
日本の未来を決めるのは、政府だけではありません。
私たち一人ひとりの判断です。

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あとがき

日米関税交渉という、一見限定的なテーマから始まった本書の議論は、最終的に「日本はどう生きるのか」という根源的な問いに行き着きました。
外交は政府の専権事項であり、国民が直接交渉の場に立つことはありません。
しかし、交渉の成果も失敗も、必ず私たちの生活に跳ね返ってきます。

だからこそ、政府の選択をただ受け入れるだけでなく、別の道があったのかを考えることが重要です。
「守る外交」と「攻める外交」――
そのどちらを選ぶかは、次の選挙で投じる一票に込められるべき意思です。

本書が、その判断材料の一つとなることを願ってやみません。


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※高倉 龍之介(政治フリージャーナリスト・映像クリエイター)