さんたく!!!朗読部『羊たちの標本』
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第三話『水月』
(作:古樹佳夜)

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かちゃ、かちゃ。
古く錆びついた鍵穴に、
細いピンを差し込む。

月明かりに照らされた廊下は青く、
まるで深海にでもいるみたいだ。
手元が陰ってよく見えないけれど、
両手は塞がっているしランプは足元だ。
僕は額にかかる銀髪を払った。
少し邪魔くさい。

切りそろえれば目にかからないのに……。

……がちゃり。

かすかな手応え。 小心者の僕の心臓は跳ね上がる。
……きぃ……。
まるで僕を招き入れるように、 標本室の扉は開いた。 壁にずらりと並んでいるのは
見知らぬ子供たちの標本だ。 僕は薄目を開けて、足早に前を通り過ぎる。
あの子は一体どこにいるの? コツコツと聞こえるのは
自分の足音のはずなのに、 心臓が裂けそうなほど鼓動している。
誰かに追いかけられているみたいだ。
は、はやく……早く逃げなくちゃ……!
僕は『あの時』の事を鮮明に思い出していた。 ❇︎❇︎ 「皆既月食?」 「う、うん……羊君は、し、知ってる?」 庭でスケッチをしていた羊君は 隣に座る僕に向き直り、首をかしげた。 「言葉は聞いたことが……」 「カキフライ定食?」 羊君を挟んで向こう側に座る海月君は
身を乗り出す。 「流石にその聞き間違いは無理があります」 「だって、お腹減っちゃってさ」 「え、えーと……
一夜のうちに満月が欠けていって、
見えなくなっちゃう、
め、珍しい現象のことで……」 「満月が欠ける?」 海月君の眉間にシワが寄る。 僕は膝の上の分厚い図鑑を指差しながら、
必死で説明した。