閉じる
閉じる
×
「そうか、あなたはNYから来たんだ。何をされている方ですか?」
露天風呂で出会ったその人の年の頃は70過ぎ。僕に興味津々と言ったところで無造作に髪を撫でそう尋ねてきた。
「音楽を作って演奏したりしているんですよ」
「へえ、羨ましい。私は聞くのは好きだけれど演奏はできないです。アメリカは厳しいでしょう? 大したもんだ」
昼間は団体客がバスで観光に向かうせいか、ほとんど人が残っていない。そんなホテルの湯だから空いているだろうと勢いよくドアを蹴ったら、湯気の向こうにぼんやり人影を見つけたので驚いた。軽く会釈をし「失礼します」と湯に浸かると、どちらからともなく会話が始まった。
「私は九州の生まれでね。炭鉱の街ですよ。いろいろ職を変え大阪にも3年いたかな。いいところだった。札幌が好きなので家内と相談してリタイヤしてから引っ越して来たんですよ。
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。