前回に続いて、岡本喜八のフィルモグラフィを追う。デビュー作『結婚のすべて』で見事なソフィスティケート・コメディを撮ってのけた岡本は、その後も「暗黒街」シリーズではギャング映画を撮り、「独立愚連隊」シリーズでは戦争映画を西部劇に仕立て――と、ハリウッド映画の影響を直接的に表現した演出で人気を博していく。
 そのままアクションやコメディを撮り続けていても、おそらく「スタイリッシュな娯楽監督」として映画史に名を残していたに違いない。だが、岡本はそうしなかった。ただハリウッド映画を模すだけでなく、その作風は強い独自性を帯びていく。しかも、後の映画と比べても唯一無二といえるものであった。
 今回取り上げる『ああ爆弾』は、そんな時期の代表的な作品だ。 
週刊文春デジタル