本連載の初期で時おり触れてきた映画館が、大井武蔵野館だ。東京は大井町にあった名画座で、筆者は一九九〇年代の前半から閉館した九九年まで、足しげく通っていた。
「名画座」とはいっても、誰もが認める「名画」を上映することはほとんどなかった。映画史の主流から大きく外れた映画や、公開時も決してメインどころではなかった映画を特集することが多く、石井輝男、鈴木則文、牧口雄二といった監督たちが東映で撮ったポルノ映画や深作欣二監督がヤクザ映画で鳴らす前の初期作は、この映画館で知った。
 決して傑作というわけではない、気だるさを放つ映画たちと、うらぶれた雰囲気のある当時の大井町の路地が実によく合っていて、これが鬱屈を抱えて過ごしていた高校時代の筆者には心地よかった。 
週刊文春デジタル