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なぜ今、「地政学」なのか?
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最近の日本のメディアでも「地政学」という言葉をかなり頻繁に見聞きするようになりました。
たしかにこの言葉は変に説得力のある響きを持つものですし、偉そうな人が使っていると、なんだか不思議と納得させられてしまうような気もします。
では、この言葉の本当の意味は何なのでしょうか? そして、そもそも「地政学」とはどういうものなのでしょうか?
「地政学」という言葉だけ聞くと、たしかに地理と政治の関係の微妙な関係を示しているといった「イメージ」がわいてくるとは思いますが、実際のところ、この言葉がどういう意味で使われているのかを正確に知っている人はとても少ないように思います。
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「地政学」は「学」という名前がついている以上、実はひとつの立派な学問として研究されているものです。
この学問の最近の動向を紹介するために、私は二〇〇四年に『地政学:アメリカの世界戦略地図』( http://goo.gl/1iA5js )という本を出版しましたが、まだまだマイナーな分野であることと、私自身の説明不足のために、この学問の基本的な考え方や理論が日本に十分浸透したとは言い切れません。
しかし、「地政学」は一過性のブームなどには全く関係なく、国家が国際社会の中で生き抜くためのツールとして、日本以外の国々では意識的/無意識的に活用され続けています。
実は、この学問としての「地政学」は、われわれ日本人が冷戦の崩壊や二〇〇一年の連続テロ事件、アメリカの経済的没落や中国の勃興、そして北朝鮮のミサイル問題など、日本周辺の混沌とした国際関係の状況を冷静に分析する上で、非常に役立つものなのです。
「アメ通」読者の皆さんならばご存知の方もいらっしゃると思いますが、地政学というのはナチスドイツの御用学問として悪用された暗い過去があります。
よって日本だけでなく、欧米でも正面からは研究されていません。
しかし、それでも「地理」というのは、国際関係の中では不変の重要性を持っているために、特に安全保障関係から国際政治の動きを冷静に見ようとする世界中の学者や軍人たちの頭には、「地政学的な考え方」というものが「思考の前提」となって染み込んでいるのです。
日本人が真の国際社会に貢献し、しかるべきポジションを得ようとするならば、彼らのこうした「思考の前提」を、日本人の中の意識ある人間が地政学の理論をしっかり理解することが致命的に重要になってきます。
また、地政学は「政策科学」(ポリシーサイエンス)として発展してきた経緯があるために、これを知ることができれば、国際政治の現状分析や、国家政策を導き出すためのヒントのようなものまで得られます。
誤解を恐れずにいえば、地政学とは、グローバル化した時代に国家が生き残っていくためのツールであり、同時に国家の成功戦略のヒントとして役立つものなのです。
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このような"学問として"研究されている地政学を大きく理解するために、皆さんに覚えておいていただきたいのは、現在の欧米の地政学の研究には大きくわけて二つの流れがあるということです。
まず一方は、古代から国家戦略のために使われてきた「古典地政学」(classical geopolitics)であり、これは現在でも国防関係者や政治家たちが活用していて、学問的には「戦略研究」(strategic studies)の一分野として研究されています。
もう一方は、主に政治地理学などのアカデミック界で研究されている「批判地政学」(critical geopolitics)であり、これはどちらかと言えば地政学を哲学的かつ批判的に分析するもので、国家と地理の政治的なつながりを実にさまざまな角度から検証していくものです。
私がずっと気になっているのは、日本ではこの実践重視の「古典地政学」が正式な学問として大学で教えられていないという事実です。これは安全保障に直結した国防教育の最前線である防衛大学の士官学校などでも同様です。
このような状況は、日本の国家安全保障にとって由々しき事態ではないでしょうか?本当に大丈夫なのか・・・と心配にならざるを得ません。
私が自らの著書や、訳書、また、音声解説CDなどを通じて、この「地政学」という学問を皆さんに紹介しているのは、ひとえにこのような危機感あっての故なのです。
( おくやま )
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