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"グローバル化"のベースは「シーパワー」
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おくやまです。 今回は、私が専攻している「古典地政学」について、 少々刺激的なお話をしたいと思います。 それは「マッキンダーは間違えている」ということです。 マッキンダーって誰? と思った方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明しますと、 ハルフォード・マッキンダー(Halford J. Mackinder) という人は、1861年から1947年まで生きた イギリス人の学者・政治家です。 そして、彼こそが「地政学の創始者」のような存在なのです。 そんな、いうなれば「現代地政学の親分」のような人物を、 今回、私が大胆に批判してみよう、という試みです。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- まずは、マッキンダーが具体的にどのような人物だったのか? というお話から。 彼自身は学業以外のことが忙しかったため、 それほどまとまった研究論文を書いておらず、 地政学に関連するような本は2冊ほど、 そしてそのものズバリのテーマを扱った論文は たったの2本ほどしかありません。 そういうことなので、彼の地政学的なアイディアは 『デモクラシーの理想と現実』(http://goo.gl/v62vtM) という本を読めば、ほぼ理解できます。 この本の中に収録されている最も有名な論文の中で、 マッキンダーはおそらくマルクスの 「人類の歴史は階級闘争の歴史である」 という有名な言葉をマネする形で、 「人類の歴史は、シーパワーとランドパワーの争いの歴史である」 と大雑把にとらえつつ、いままでの歴史全体を振り返りながら、 時代を大きく3つにわけて、 (1) コロンブス以前の時代:1000年〜1500年、馬、ランドパワー (2) コロンブス時代:1500年〜1900年、船、シーパワー (3) コロンブス後の時代:1900年〜、鉄道、車、ランドパワー と分類しつつ、彼が生きている時代は すでに(3)の「コロンブス後の時代」、 つまり「ランドパワーの時代」が始まりつつあるのだ、 ということを述べております。 これはマッキンダーのもう一つの有名な 「東欧を制するものは・・・世界を制する」というテーゼとともに、 極めてインパクトがあるものとされています。 しかし、私はマッキンダーのこの予測、つまり、 「コロンブス後のランドパワーの時代が来た」という部分は、 完全に間違えている(!)と考えております。 もちろんマッキンダーの「ランドパワーの時代が来る」というのは、 その当時のイギリス政府周辺のエリートたちの恐怖感を表したものとしては 非常に意味のあった指摘だったのかもしれません。 ただし事実は別であり、 やはり現在でも「シーパワーの時代」が続いており、 この状態が当分の間(米海軍の優位が感じられている限りは)続く、 というのが実際のところなんだと私は考えております。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- マッキンダーに対する批判自体は、 以前よりたくさんありましたが、 私に言わせれば、その多くはやや的外れ。 なぜならそのような指摘は、 地政学でいうところの「ランド/シー/エア/パワー」における、 軍事的・軍事戦略的な機能にしか注目していない・・・、 ということがバレバレだからです。 実はマハンやマッキンダーが想定した「◯◯パワー」というのは、 軍事だけでなく、その上の階層に位置する 「大戦略」のレベルまで含む概念なのです。 現代において、 安全保障と経済に最も大きな影響を与えうる「パワー」とは何か? それは、(相変わらず)「シーパワー」です。 「なに?まだ船の時代が続いている?」 と強い違和感を感じるかたがいるのは重々承知の上です。 たしかにこれは懐古主義義的というか、 保守的な考えに見えるかもしれません。 ただし「大戦略」のレベルで現在の状態を考えてみると、 どうもマッキンダーの言う「シーパワーの時代」、 つまり「コロンブス時代」は、 1500年以降から現在に至るまで、 まだ相変わらず続いているのではないか・・・ というのが私の解釈です。 その根拠となるのは、この世界の秩序というものが、 いまだに「海運」をベースとした物流システムで動いており、 それを担保とする米海軍の強さに依存している、という点です。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- ここで、もう一人の地政学の世界での"巨人"をご紹介します。 アルフレッド・セイヤー・マハン(1840-1914年)という人物です。 彼は「シーパワー論」の論者として有名な アメリカの元軍人の海軍史家です。 その彼が言っていた「シーパワー」というのは、 たしかに一面としては「海軍力」という意味もあるのですが、 それと同時に 「海外との貿易を支えるインフラのためのシステム」 というニュアンスもありました。 つまり彼は「シーパワー」というものを、 「海軍力+海運力」と考えていたんですね。 そしてそのエッセンスは、船の「機動力」。 もちろん、マッキンダーはマハンの本を読んでいましたから、 このマハン「シーパワー」の意味については おそらく重々承知の上だったはずです。 そして、マッキンダー自身が、 「ランドパワー」の理論を形成する時も、 例えば、日露戦争直前の ロシアの極東への兵力の展開を支えたという意味で、 鉄道の機動力を「ランドパワー」と認識していたわけです。 鉄道は戦時には、兵士の移動手段として 「兵器システム」のべースになると同時に、 平時においては、物資を運搬する 「物流システム」のベースにもなります。 マッキンダーは、「馬、船、鉄道」などを、 「時代を変えたテクノロジー」として想定していましたが、 これは、平時において非常に重要になってくる 「機動力・運搬力」という位置付でもあったのです。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- 国際貿易システムの深層部や 基礎的なところにあるのは、やはり物流システム。 しかもその安全を担保するためのベースになっているのが 海軍力であるといえます。 19世紀に世界覇権を握っていたのはイギリスですが、 20世紀に入ってから代わりに覇権国となったのはアメリカです。 そして、現在のグローバル化した 世界の秩序を支えているのは、 事実上、アメリカであるとも言えます。 理由は色々とあるでしょうが、 この世界秩序を可能としている大きな要因の一つが、 アメリカの海軍力です。 アメリカこそが、現在世界最大の海軍を持つシーパワー国であり、 そのベースとなる海の安全を担保できるほぼ唯一の存在です。 たとえば数年前に南シナ海で、 中国とその周辺国の間で領土(海)問題が注目されはじめた時に、 ヒラリー・クリントン前国務長官は 「南シナ海の“航行の自由”は、米国の国家利益だ」 と宣言しておりますが、これはつまり 「アメリカが世界の海の安全を守る」ということ。 ご批判を承知であえて極論を言ってみると・・・ 現在の「グローバル化した世界」というのは、 あくまでも、米海軍の力をベースにした シーパワーの基礎の上に乗ったものである、 と言っても過言ではありません。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- 「シーレーンの防衛」というフレーズは、 国際関係のニュースなどを観ていると、 読者の皆さんもよく耳にするのではないでしょうか? 世界の土台は、現代でも、相変わらず「シーパワー」であり、 それは米海軍の力によって担保されている・・・ こう言い切ってしまうと、 非常に極端に思えるかもしれませんが、 これは現在の世界の安全保障環境や国際秩序の リアリズム的な"身も蓋もない"一面を示しているのです。 今回は、私のライフワークでもある、 「古典地政学」について、長々とお話してしまいましたが、 如何でしたでしょうか? 「地政学」という学問の要素は、現代においても脈々と流れている、 ということを少しでも実感して頂ければ幸いです。 ( おくやま )
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