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おくやまです。
おくやまです。 ウクライナ情勢がまた緊迫してきましたので、 これについて少し書きたいと思います。 私が今回とくに注目したいのは、 ロシアに近いウクライナ東部で基地を占拠した「デモ隊」や 「謎の武装集団」(=ロシア軍)に対して、 ウクライナ暫定政権側が軍事力を行使して制圧したことです。 つまり状況はかなりエスカレートしつつあるわけです。 これについてプーチン大統領は、 恒例となったテレビの質疑応答番組の中で、 以下のように答えております。 === ウクライナ東部問題、武力行使の必要ないことを望む=ロシア大統領 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJEA3G00720140417 [モスクワ 17日 ロイター] -ロシアのプーチン大統領は17日、 ウクライナ東部の問題を解決するために 武力を行使する必要がないことを望む、と語った。 ただ、ウクライナ当局が東部で軍を投入し、 親ロシア派武装勢力の強制排除に乗り出していることを 「重大な犯罪」と非難した。ロシア軍を投入する可能性は否定しなかった。 国民とのテレビ対話で語った。 大統領は、ウクライナへの軍事介入を議会が承認したことに触れ、 「この権限を行使する必要がないことを私は真に望んでおり、 政治と外交的手段で全ての差し迫った問題が解決できると期待している」と述べた。 === さて、このプーチン大統領の見解に対する 一般的な反応としては、 「よく言うよ、プーチンははじめから武力を行使するつもりだろ!」 「軍事力を使わないことを“真に望んでおり”なんて言ってるけど、ホントかしら?」 といったところが、当然、想定されますね。 そして、実際のところ、欧米、とくに英米のメディアは、 概して「プーチンが悪人」説を流していることがわかります。 たとえば以下のようなものがあります。 === コラム:プーチン大統領が見据える「新世界秩序」 (http://goo.gl/VWhH9k)[26日 ロイター] ウクライナ南部クリミア半島の編入を強行したロシアのプーチン大統領。 筆者の頭をよぎるのは、もしロシアの領土拡大への欲望が、 クリミア半島だけで満たされなければどうなるかという懸念だ。 プーチン大統領はウクライナ東部や、 さらにモルドバなどにも次々と手を伸ばしていくのだろうか。 (中略) 西側と距離を置く今のロシアでは、 プーチン大統領はジャングルの王として振る舞うことができる。 そしてプーチン大統領にとってジャングルはロシア国内だけでなく、 彼が作り上げようとしている全く新たな世界秩序でもある === ここで重要なのは、この記事を書いた筆者が、 プーチン大統領について説明する際に用いている「言葉」です。 「次々と手を伸ばしていく」 「ジャングルの王」 「ロシアの領土拡大への欲望」 読者の皆さんはこのような言い方を聞いて どのような印象を持たれましたか? おそらく、「プーチンは悪い奴だな・・・」 という印象を抱きませんでしたか? さて、そのイメージそのままで、 このようなプーチン「個人」が悪いということにしてしまうと、 戦略的には色々と問題が出てきます。 なぜなら、ともすれば、 「じゃあ悪いのプーチンだけだから、 彼を暗殺してしまえば、ロシアは劇的によくなるんじゃないの?」 という考えにつながってしまう!?ことも考えられるからです。 「また、おくやまは極端なことを・・・」 とのツッコミが入りそうですが、 皆さんよく思い出してください。 これをマジメに実行してしまったのが2003年のアメリカであり、 この時は「サダム・フセインだけ倒せばすべて上手く行く」とカン違い。 ところが実際にサダム・フセインを捉えてみても、 イラク問題が解決したかというと微妙なところがありまして、 アメリカはまだこの地域でテロなどを抑え込み切れていません。 これまで「アメ通」が標榜してきた「リアリズム」の見方の一つに、 「人間はすべて悪人・罪人である」 という前提があります。 そして、リアリストの中でも、このような見方をする人々のことを、 一般的に「邪悪学派」(evil school)と呼んだりもします。 この前提に従うと、たとえば、 プーチンという「個人」が悪いというよりも、 「全人類が悪い」ということになります。 するとプーチンのような個人の持っている「悪」というのは、 やや突出しているものの、それでも特別なものではない ということになります。 一般的なリアリズムの考えでは、 これを克服するための「改善策」はなく、 むしろ力によって対抗する、 というアイディアにつながります。 それが「バランス・オブ・パワー」となるわけですね。 このような「悪」というものは、 リベラル的な思想をお持ちの方からすれば、 思想教育や国際法などによってある克服できるのではないか? ということになり、「平和教育」などを積極的に行うわけです。 そして、我が日本は、当然ながら「リベラル寄り」なので、 「平和教育」が熱心に・・・ということになります。 -:-:-:-:-:-:-:-:--:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- ここで、今回とくに私が強調したいのは、 「リアリズム」のもう一つの見方です。 それが「悲劇学派」(tragedy school)と呼ばれるもの。 これは、 国際政治の「枠組み」や「構造」が、 人間の集団同士の争いという「悲劇」につながっている。 とする見方です。 今回の例でいえば、 プーチン大統領をウクライナでの 侵略的な行動へと駆り立てているのは、(地理的状況などを含んだ) 国際政治や地域政治の「構造」や「枠組み」だ、 ということになります。 すると今回の件は、プーチン個人の問題というよりも、 ロシアという国の位置づけそのものにあることになります。 であるならば、 最初に引用した 「(軍事力行使の)権限を行使する必要がないことを私は真に望んでおり」 というプーチン大統領の言葉は、 実は案外心の底から本気で言っている可能性が あることにもなります。 「おいおい、おくやま、なんだよ、それじゃプーチンは悪くないのかよ?」 という声が再びどこかから聞こえてきそうですが、 とりあえず、ここでは「善悪」の判断は置いておいて頂きたいのです。 なぜならば、この「悲劇学派」的な考え方を採用すると、 状況を冷静に判断できるようになるからです。 単純に「プーチン個人が悪いのだ!」と言ってしまうことは簡単です。 しかし現在のロシアが置かれた状況というものを、 もっと冷静に分析したいと思うのであれば、 この「悲劇学派」の見方、つまり、 国際政治や地域政治の「構造」や「枠組み」 から情勢を視てみることで、多くの知見を得ることが出来ます。 以前にも少しお話しましたが、 現在、私は、ジョン・ミアシャイマー教授の 『大国政治の悲劇』の改訂版の出版準備に取り組んでおります。 この本のタイトルに、そもそも『悲劇』という言葉がついているように、 ミアシャイマー自身は「悲劇学派」に属することになります。 当然のことながら、彼が少し前に書いたウクライナ情勢に関する分析 ▼ミアシャイマーのウクライナ情勢分析 : 地政学を英国で学んだ http://geopoli.exblog.jp/22260501/ の中では、プーチン大統領自身が「悪い人間」である とは一言も書いておりません。 ミアシャイマー教授の見解の詳細については、 上記のエントリーをお読み頂きたいのですが、 ミアシャイマー教授は、表現こそ「悲劇」とはしておりませんが、 やはり、今回のクリミアやウクライナの件でも、 国際政治や地域政治の情勢を、 「構造」や「枠組み」から読むことを説いているわけです。 さて、読者の皆さんも、そろそろ今回の結論が視えてきたのではないでしょうか? この「悲劇」を引き起こす「構造」のベースになっているもの。 常に流動的に変化し続ける国際政治の中でも変わらない要素。 それが「地理」です。 つまり、「地政学」的なものの見方は重要なのです。
( おくやま )
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