荻上チキの αシノドス
“α-Synodos” vol.278(2020/8/15)
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“α-Synodos”
vol.278(2020/8/15)
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〇はじめに
シノドスの芹沢一也です。「αシノドス vol.278」をお届けましす。
「αシノドス」でもおなじみの山本貴光さんと吉川浩満さんが共著『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』を出版しました。そこでお二人にインタビューさせていただきました(「人間とは衝動に流されるものである」)。古代ローマの賢人エピクテトス、彼の教えの要諦は、「権内にあるもの」と「権外にあるもの」とを区別することだと言います。なぜなら、人間の悩みの多くはこの区別に関する混乱に由来するからです。このインタビューを読めば、皆さんの悩みもすっきりするかもしれません!
ついで、熊坂元大さんの「培養肉――クリーンミートあるいは現代のプロメテウス的産物」。最近、ポール・シャピロの『クリーンミート』が翻訳されましたが、序文を書いているはノア・ハラリの文章に深く考え込みました。「さほど遠くない将来、工業的畜産を戦慄をもって振り返るかもしれない。幸い、いまは過去の遺物となった、奴隷制と同じ人類史の汚点として。」というものですが、ハラルをしてそういわしめる問題がたしかに現在の畜産には存在します。そこで、今号ではクリーンミート、あるいは「培養肉」とは何か、そこにはどのような議論が取り巻いているのかを熊坂さんに整理していただきました。
今月の「学びなおしの5冊」は伊藤隆太さんによる「進化政治学と政治学の科学的発展――社会科学の進化論的パラダイムシフト」です。進化生物学や進化心理学のインパクトが現在、社会科学の議論をさまざまに刷新していますが、どうも日本ではそのあたりの動きがとても鈍いように思います。そこで伊藤さんに、「進化政治学」を学ぶための5冊を選書していただきました。進化論的な議論は、さまざまな政治的立場の議論を逆なでする部分もありますが、しかし好き嫌いをこえて、真摯に耳を傾けなければならないものだと思います。まずはこの5冊でぜひ学んでみてください。
「装い」と聞いてみなさんは何を想起しますか? この言葉はおそらく皆さんの想像をはるかにこえる射程を持つものです。少し例を挙げてみましょう。化粧をしたり、衣服やアクセサリーを身につけるのはもちろんのこと、整髪・洗髪から日焼け、ボディペンティング、イレズミ、整形、はては纏足、リップディスクにより広げられた唇、首輪で引き伸ばされた長い首、涅歯にいたるまで、人類はさまざまに装ってきましたし、現在も装っています。では、「人はなぜ装うのか?」。鈴木公啓さんにお書きいただきました。
新型コロナウイルスの世界的な拡大が止まりません。これは公衆衛生上の問題であるとともに、言うまでもなく経済上の問題でもあります。第二次大戦以来最大の経済ショックをもたらすと言われている新型コロナウイルスですが、現在は、各国が新型コロナウイルスのリスクを前提としながらどう行動し、社会経済活動を促していくかという段階に入っています。そこで新型コロナウイルスの世界経済への影響というテーマを英語メディアや海外メディアがどのように扱っているか、平井和也さんにまとめていただきました。
最後は、石川義正さんの連載「ミソジニーの「あがない」──現代日本「動物」文学案内(3)」です。今回は、倉数茂の中篇小説「あがない」から、マジョリティの男性が受ける排除の形式は小説でどのように描かれているのかを読み解きます。ところで、注に村上春樹の「一人称単数」についての言及があるのですが、『一人称単数』を読んでいてなぜ最後にこの短編を書きおろしたのかなと考えていたのですが、なるほどミソジニー批判に対するリアクションだというのは納得できますね。村上と倉数とのつながりも念頭におきつつ、ぜひご一読ください。
次号は9月15日配信となります。少しは涼しくなっていますように。
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