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「教養」と「リテラシー」を高める月刊誌 “α-Synodos”vol.319(2024/01/15)
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「教養」と「リテラシー」を高める月刊誌 “α-Synodos”vol.319(2024/01/15)

2024-01-15 13:25
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    「教養」と「リテラシー」を高める月刊誌
    “α-Synodos”vol.319(2024/01/15)
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    01 シノドス・オープンキャンパス「中東政治――中東を「難しい」で終わらせないために」末近浩太

    末近浩太

    中東地域研究、イスラーム政治思想・運動研究。1973年名古屋市生まれ。横浜市立大学文理学部、英国ダラム大学中東・イスラーム研究センター修士課程修了、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科5年一貫制博士課程修了。博士(地域研究)。日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、現在立命館大学国際関係学部教授。この間に、英国オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ研究員、京都大学地域研究統合情報センター客員准教授、英国ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(SOAS)ロンドン中東研究所ならびに政治・国際学部研究員を歴任。著作に、『現代シリアの国家変容とイスラーム』(ナカニシヤ出版、2005年)、『現代シリア・レバノンの政治構造』(岩波書店、2009年、青山弘之との共著)、『イスラーム主義と中東政治:レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』(名古屋大学出版会、2013年)、『比較政治学の考え方』(有斐閣、2016年、久保慶一・高橋百合子との共著)、『イスラーム主義:もう一つの近代を構想する』(岩波新書、2018年)、『中東政治入門』(ちくま新書、2020年)がある。

    はじめに
     
    中東政治と聞くと、何が頭に浮かぶでしょうか。多くの人は、紛争や独裁などに苦しむ人々の姿をイメージするかもしれません。記憶に新しいところでは、パレスチナ/イスラエルでの激しい紛争でしょう。2023年10月7日、パレスチナ・ガザ地区を拠点とするハマース(ハマス)がイスラエルに対して大規模な奇襲攻撃を行い、多くの民間人を殺害・拉致しました。これに対して、イスラエルはガザ地区に対する大規模な軍事侵攻に踏みきり、深刻な人道危機が起こりました。
     
    それだけではありません。中東では、シリアやイエメン、リビアなどの他の諸国でも紛争が続いています。紛争が起こっていない諸国でも、その多くで人々は独裁や抑圧、不正や汚職といったさまざまな問題に直面しています。
     
    私たちが日々見聞きするニュースでは、こうした中東の人々の苦悩が伝えられてきました。
     
    こうしたなか、私たちは、「なぜ中東の政治はいつも混乱しているのか」「なぜ中東では紛争や独裁が続いているのか」といった漠然とした、それでいて素朴な疑問を抱きがちです。そして、ときとして、それが「中東らしさ」であるかのように考えて、理解した気になることがあります。そこでよく取り沙汰されるのが、私たちとは異なるイスラームやアラブといった宗教や文化の存在でしょう。
     
    この場合の「異なる」には、「私たちとは違う宗教や文化を持っている点で異なる」という意味と、「私たちとは違ってそれらに執着し続けている点で異なる」という意味の2つが含まれます。
     
    つまり、中東の人々は宗教や文化といった私たちが既に克服したと考えている前近代的な考え方にとらわれているから、いつまでも仲良くできない、だから、政治が混乱してしまうのだ、という見方です。これは、私たちが進んでいて、中東の彼ら彼女らが遅れている、という見方でもあり、それが正しいかどうかにかかわらず、私たち自身に優越感や安心感を与えてくれる面があります。
     
    例えば、中東で紛争が発生するたびに、「イスラームはやっぱり怖い」(宗教にこだわらなくなった私たちは偉い)、「アラブ人の考え方は理解できない」(戦争よりも平和を大事にする私たちは偉い)といったコメントや感想がSNS上に溢れます。中東で起こっていること、あるいは中東政治を語る際には、どうやら私たちとは異なる宗教や文化にその原因を求める傾向があるようです。

    中東は例外なのか
     
    しかし、このような見方は正しいのでしょうか。こういうときの答えは、たいてい決まって「ノー」です。そう、「ノー」なのです。その理由は後ほど詳しく述べますが、中東のことを考える前に、少し視野を広げて頭を整理しておきましょう。次の3つの点に着目するだけでも、暫定的にも「ノー」が妥当であることがわかります。
     
    第1に、紛争や独裁は中東政治にだけ見られる問題ではない、という点です。むしろ、現下の世界では、紛争の件数も独裁国家の数も高止まりが続いています。スウェーデンのウプサラ大学が作成している有名な紛争データセットUCDPのグラフ(State-based conflicts by region (1946-2022)を見てみましょう。これは1946年から2022年までの世界で発生した紛争の件数を地域別に折れ線グラフにしたものですが、世界全体として「右肩上がり」であり、紛争が起こっているのは中東(Middle East)だけではないことが読み取れます。

    https://drive.google.com/file/d/1R2f201hqjESZUopnB3btg6wUwXhhDCIl/view?usp=sharing
    *以下から自由にDLできます。https://ucdp.uu.se/downloads/charts/

     
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