はじめに 荻上チキ

■先日は、代官山蔦屋書店で行われた、WEBRONZA×SYNODOS 「年末スペシャル 政治と経済の失われた20年 データから語る日本の未来」にお越しいただきありがとうございました。菅原琢さん、片岡剛士さんに加え飯田泰之にも飛び入りで参加してもらい、データと専門知に基づいた議論の必要さを確認する、あっという間の二時間でした。シノドスでは来年もこうしたイベントを継続的に行うだけでなく、お待たせしているセミナーも始動します。

■告知を一つ。12月25日に宇野常寛・責任編集「PLANETS vol.8」僕たちは〈夜の世界〉を生きている  http://t.co/DayDP5jG が発売されます。今号のαシノドスでも対談させていただいた開沼博さん、鈴木謙介さん、宇野さんとの座談会に参加しています。他にも吉田徹さん、与那覇潤さん、福嶋亮大さん、萱野稔人さん、水無田気流さんなど、シノドスに登場して頂いた皆さんも寄稿されています。

■今号は今年最後ということで、拡大バージョンでお送りしています。巻頭の開沼博氏との対談では、今年一年の互いの仕事を振り返りながら来年以降、十年先の抱負について率直に語り合いました。開沼さんの繊細でありながら骨太な面が聞き出せたと思います。

■続いての座談会は、綾屋紗月、大野更紗、熊谷晋一郎、水無田気流の各氏と、社会の貧しさだけでなく、縮退ムードのなかで語られる言説の社会観の貧しさについて語り合いました。女性、障害者、難病者といったカテゴリーによってパイの奪い合いへと追い込まれないようにするための貴重な議論がうかがえました。

■哲学者の小川仁志さんと飯田の対談(後編)では哲学と経済学という、互いのよってたつディシプリンの違いを超えて議論していきます。だんだん、立場の違いが明確になってこの続きが早く読みたいところですが、書籍化をお待ち下さい。乞うご期待です。

■冒頭でご紹介したイベントでも好評だった片岡剛士さんによる今年の経済ニューストップ3。欧州債務危機、脱デフレと日本銀行、自民党の大勝による政権交代から日本経済の未来を考えていただきます。いつもながらのシャープな分析にほれぼれします。

■当事者のための難病政策を考えるシンポジウム報告最終回は大野更紗さんです。『困ってるひと』出版以後語ることの少なかったご自身の体験について語っておられます。全く解決しないまま谷間に放置されている難病の問題について改めて考えさせられます。

■フェスティバルトーキョーディレクターの相馬千秋さんはシノドス初登場。3.11以降の舞台芸術、演劇について、ご自身の体験を踏まえた上で、率直に語って頂きました。当事者に寄り添うふりをしながら特定のタイプの表現を許さないような言説のあり方には注意が必要だと僕も思います。

■最後は春日太一さん司会による縄田一男さんと、能村庸一さんによる対談。シノドスでは異色かと思われるかもしれませんが、この失われた二〇年だけでなく、社会構造や家族構成の変化がいかに産業としての時代劇に影響を与えていたかが分かります。

■次号は vol.116、1月15日配信予定です。お楽しみに!

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★今号のトピックス

1.対談/開沼博×荻上チキ
過ぎさろうとしない過去の語り方

2.座談会/綾屋紗月×大野更紗×熊谷晋一郎×水無田気流(司会:荻上チキ)
社会観の貧困-社会のたたまれ方への戸惑い

3.対談/飯田泰之×小川仁志
経済学と政治哲学の対話(後編)
「分かち合い」の条件

4.経済ニュースの基礎知識(応用編)
今年の経済ニュースTOP3
………………………片岡剛士

5.後ろ向きで前に進む
………………………大野更紗

6. 3.11と同時代の芸術
………………………相馬千秋

7.対談/縄田一男×能村庸一(司会:春日太一)
明日の時代劇のために―「時代劇」の終わり方

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