水曜夜は冒険者――場所はオレンジ色の壁紙が何やらレトロ感を醸し出す、東京は代々木、HobbyJapanの配信室から。ところで配信が平日夜、ということは、社会人には様々な都合不都合が発生することもあります。そんなこんなで今日は、PLが前回よりさらに1人欠けて3人。防衛役2人に指揮役1人となったパーティー。それでも物語は進みます。



 グールの案内人クーリエに連れられ、墓場を出た一行が最初に足を踏み入れたのは――広場を囲んで屋台や酒場が立ち並び、物売りの声も賑やかな市場。ただし店の主はみな死人、売っているものといえば斬り落とされて生血のしたたる腕や脚、台に山と積んだ臓物と、たしかにこの地の住民にとっては新鮮な食物だろうが命ある人型生物の身としては、確かに勝手なものとはいいながら、なかなかにぞっとしない。

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クーリエ:「ここは死骸市場、エヴァーナイト随一の愉快な場所ですよ。なにしろこの街の路地で聞こえるものと言えば苦痛の呻きに断末魔の絶叫、悲鳴。それがこの場所では物売りの声が一番賑やかだ。どうです、そのあたりでちょいとひと休みして腹ごしらえなど」

 ひと休みと腹ごしらえは結構だが、ここの食物を口にしていいものかと悩みつつ――それでも喪擬死合(もぎしあい)の疲れをどこかで癒しておかねばそれも物騒。それにいまだに魂が迷ったままのエリオンを担いで歩くのも、これまた何かと危なっかしい。できればどこか安全なところに寝かせておけないものか――というわけで一行、クーリエに案内されるまま、比較的大きくて居心地のよさそうな酒場に入る。
 大きい酒場の常として、そこの2階も宿屋になっており、訳を話すと亭主は快くベッドを提供してくれた。さすがエヴァーナイトというべきか、寝床の形は棺桶そっくり。そこにエリオンを寝かせると、宿屋の娘たち(当然ゾンビである)がやたらと喜んで、どこかから花を持ってきてその上に散らしてくれた。
 それを見ていたセイヴ、自分も休みたいと言い出す。さっきの戦闘でエイロヌイのアンデッド退散に巻き込まれてだいぶくたびれたのだとか。ほんの少し休めればいいなどと言っていたのが、棺桶型の寝床に入った瞬間に死人の本性が現れたのか、一向に起きてくる気配もない。

 仕方ないので、ジェイドにエイロヌイ、ヘプタの3人だけが酒場に降りてゆく――酒場が目の前にあって、情報集めをしないという法はない。飲み食いできるものを出してもらえる酒場かどうかはいささかどころでなく不安だが。

 酒場に足を踏み入れると、人だかり――それが腐肉と骨でできていても人だかりといっていいのかはともかく――の中心で、ジャーヴィが楽しげに何か話している。

――だからね、あっしゃぁ言ってやったんですよ。あの女は怒り狂ったイノシシみたいに魅力的だってね!!

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 すると、感情に乏しいはずのゾンビやスケルトンが一斉に笑い声を挙げる。もう、ジャーヴィが何かひとこと口にするたびに爆笑、また爆笑。

 話にならないので、というよりは、よくわからなくなってきたので、そこから少し離れて席を取った。途端にエイロヌイの隣に白皙の、というよりは顔色の悪い美青年がすっと近寄ってくる。非の打ちどころのない高貴な顔立ちの口元に八重歯が目立つのは、ある意味魅力的なのか――レディ、お隣、よろしいですか、と声をかけられ、エイロヌイはにべもなく「ダメです」と答える。まぁ、十中八九、死人だろう。というか見ればわかる。ヴァンパイアだ。

エイロヌイ:「私に何か期待なさっておいでなのでしょうが、私は植物でしてよ」
美青年:「妖精郷のご婦人の血は、さぞかし甘いのでしょう……」
エイロヌイ:「さぁ。貴方には毒になるかもしれなくってよ」

 せっかくの美男美女がお話にもならない状況を繰り広げる隣では、ヘプタがいかにもチンピラふうのゾンビやスケルトンから、さっきの喪擬死合の顛末についてさんざん持ち上げられてまんざらでもない様子。エイロヌイが「ヘプタ、馴染んではいけません!!」と苛立ちの声を上げるがお構いなし――まぁ、馴染んで話のひとつふたつもできるようにならねば情報も集められまいが。

 ウェイターのゾンビが注文を取りに来たので、何があるのかと聞くと、人間の肉エルフの肉エラドリンの……と始まったので、慌てて「できれば言葉をしゃべらない奴がいい」と注文すると、危うくゴブリンの肉で注文が通ってしまうところ。人型生物は勘弁してくれと言って我儘を通し、だいぶ古いがいいのかねと念を押されつつ牛だの豚だのの肉を焼いて出してもらう。当然のようにエイロヌイはタランを呼び出し、毒見を命じる――ひとまず、毒ではない。

 ジェイドも気が付くと、陽気なゾンビやスケルトンに取り巻かれていた。さっきの喪擬死合、よほど連中のお気に召したらしい。さっきは凄かったな、だの、あんたどこから来た、だの、ここでずっと楽しくやろうぜ、だの……ここでアンデッドたちに馴染んでしまってはシャドウフェルに取り込まれてしまうかもしれないが、かといって……

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――せっかくの好意を無下にもできない。郷に従いすぎるわけにもいかないだろうが

 ジェイド、クーリエに金貨10枚ばかりを手渡し、「これでみんなに好きなものを飲み食いしてもらってくれ」と言う。気のいいゾンビの賑やかなノリに巻き込まれたのかもしれない。わっと歓声があがり、得体のしれない骨や肉が山と運ばれてくる。盃を手に押し付けられる。なみなみと揺れる赤黒い飲み物は……味はそう悪くない。少し生臭いのは安酒だからに違いない。それともまさか。いや、やめておこう。こうやって慣れていくのね、と、エイロヌイが嘆く声が聞こえたような気もするが。

ゾンビ1:「それで騎士さんたちはなんでここに来たんだ?」
ジェイド:「来たくて来たわけじゃない。だから帰る方法を探していて……」
スケルトン1:「帰るったって旦那、ここはジンセイってやつの終着駅だよ。それに旦那のお仲間はずいぶんここに馴染んでるし」
ゾンビ2:「そうそう、ここでのんびりやればいい。兄ちゃんたちは強いから、ここじゃあずいぶん楽しくやれるぜ」

 腐りかけの顔が親しげに笑う。その後ろでスケルトンが景気よく酒を口に流し込んでいる。もちろんアバラの間から飲んだものはすっかり床に流れているのだが、誰も気にするふうはない。そこで行儀を咎めたらきっと種族差別ということになるのだろう。ああ、いや、そうやって納得していてはいけない。

ジェイド:「我々は魔法でネヴァーウィンターからここに連れてこられたんだ。何かそういった魔法について心当たりはないか?」
グール1:「魔法……っていったら、サーイの連中だなぁ。街外れにサーイってとこの魔法使いの連中が住んでるんだ。奴らは何か知ってるかもな。生きてるし」

 確かにサーイの死霊術師ならこの街に住んでいてもおかしくない。ただ、会いに行きたいかどうかというと……少なくともミシュナと合流できてからのほうがよさそうだ。もう少しほかの手がかりはないものか。考え込んだところへ、

クーリエ:「そう難しい顔ばかりするもんじゃありませんよ。せっかくこの街に来たんだ。名所見物としゃれ込んだらどうですか。ワタクシもついているんですから」

 案内人がそんなことを言うものだから、結局ついていくことになった。
 座っていても何も起きないなら、立って歩いてみる以外あるまい。

 酒場を出ると腕屋の前を抜ける。
 恰幅のいいグールの親父が、腕が2本なんていかにも頼りない、新鮮な腕があるから背中にもう2、3本生やしてみないかと景気よく声をかけてくるのを苦笑いで断る。

 すると今度は奴隷市場の脇を通る。ゾンビが競売にかけられている。いかにも肉体労働向きのがっしりしたゾンビ、腐り果てて今にも崩れそうな二束三文のゾンビ、どういう出自か知らないが器用に奇妙なダンスを踊り、後ろ歩きしてポウ! と叫ぶゾンビ……。
 この街ではゾンビは売り買いされるような種族なのかとクーリエに聞くと、その通りだとの答。ゾンビは下層階級、その上にスケルトン、グールがいわゆる市民階級や支配階級なのだとか。

――さあ、どうだ旦那方。こいつは外見はすっかり腐り果てているが中は一本しっかり通ってる。外は柔らかいが中心には芯、まさにアルデンテ……

 それ以上聞かずに足早にその場を離れた。

 少し歩くと今度は武器だの防具だのを売る店の前に出た。意匠は少々シャドウフェルふうだが店内に売っているのは確かに武器と防具。見慣れたまともな風景に少し心が和む。
 せっかくだから銀の武器でも、と商品を手に取ったがダガーひとつが500gp。全員の持ち金を合わせても届く額ではない。そっとそれを棚に戻したところで店主が出てきた。店主は一行の顔を見ると大変に喜び、うちの特製の武器をやるから持って行けと言い出した。

――あんたがたみたいな強い連中が、魔法もなにもかかってない武器で戦ってるなんざぁ間違ってる。お代? そんなもんは要らないよ。うちの品物使って大暴れしてくれればうちの宣伝になるから、それで充分だ。

 武器屋――死神屋の親切に感謝し、贈り物の武器を受け取る。具体的にはこの場にいた全員が1つずつ+1の武器を持つことになった。エイロヌイのレイピアとヘプタのクロスボウが+1になり、もともと+1の剣を持っていたジェイドは、データ的には変化はないものの、とりあえず盾に死神屋の意匠をあしらってもらう。以後、ジェイドの盾はミンターン傭兵団の紋章と死神屋の意匠が2つ並ぶことになる。

 そうこうしているうちに、市場を抜けた。いよいよエヴァーナイトの名所めぐりだ。



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 まずは“デーモンの大穴”。
 ネヴァーウィンターではアンダーダークにつながると言われる大裂溝がある場所に、ここにはアビスにつながると言われる“デーモンの大穴”が口を開けていた。クーリエがさらに言葉を足して言うには、アビスの、それもグールの王ドレサインの御もとに通じているというのがもっぱらの噂。
 確かに司祭の姿をしたグールが、何やら儀式めいた所作で、もぞもぞ動く袋詰めのものを投げ込んでいる。あれは何をしているのだと問えば、生贄を捧げているとのこと。
 袋の中身について問うのはやめておくことにした。ちょうどひとひとり、すっぽり入るぐらいの大きさだったのだが。

エイロヌイ:「ああ、父なるシルヴァナスさま、メゲそうです」

 あまりの光景に思わず祈りを捧げるエイロヌイの隣で、ジェイドも自らの信じるタイモーラに祈りを捧げ、タイモーラへの献金としてコインを大穴に投げ込む。確かにあんまりな光景だが――地下のダンジョンに潜れば目にすることがないでもない。心に押し寄せる陰鬱をなんとか押しのける。
 具体的には〈地下探検〉の集団技能判定に成功する。
 DMがしれっということには、各地を巡るあいだシャドウフェルの陰鬱に立ち向かえるかどうか判定が必要であり、失敗すると希望を失って回復力を失うのだと言う。

 次にやってきたのは街外れのなにやら立派な屋敷。クーリエが苦々しげに言うには、ダーク・クリーパーという影生まれの種族がどこかの国からの密偵か何かとして派遣され、ここに住み着いているのだとのこと。

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クーリエ:「グラムガッツ家なんて名乗ってますがね、要はこそどろですよ。しかも奴ら、こそどろのくせに我々アンデッドからはものを盗まないのです。おかげで追い出せもせず……ああ、問題のひとつも起こしてくれればすぐに街にいられないようにしてやれるのに」

 ずいぶんな物言いだと思ったちょうどそのとき、屋敷のほうから腐った野菜が飛んできてジェイドの足元に転がった。

ジェイド:「……ここは、ネヴァーウィンターの影のうつしみだったな。だったら角材に気をつけたほうがよさそうだ」

 言い終わる前に、一行の前にはいかにも憎たらしげな子供が3人。腐った野菜を手にした幼い子供2人の後ろに、やや年かさの少年が角材を持って立っている。

角材少年:「グラムガッツの御曹司の前で、ずいぶんな態度じゃないか?」

 あのときは恨まれ殴られてもしかたない部分もあったが、今目の前にいるのは生意気なだけのしつけの悪い連中だ。ジェイドが容赦なく睨みつけると、子供たち、一目散に逃げ出す。逃げたと思って一息ついたところへしつこく物陰から不意を打とうとしてくるのを、片っ端から見つけては脅しつけ、具体的には〈看破〉判定に成功してその場を立ち去る。まったく、何が御曹司だ。
 
 さらに行くと、いかにも禍々しい寺院の前に出た。骨で柱を組み、人型生物の皮で装飾を施したそこは、穢れの寺院と称し、アンデッドのデーモンプリンスであるオルクス、それにグールの王ドレサインを祀っているという。
 
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 別に関係者以外立ち入り禁止というわけではないらしいので、案内されるままに中に入ると、グールの司祭が「礼拝にいらしたのですか?」と話しかけてくる。即座に「いえ、観光です」と答えると「おお、遠慮する必要はないのですよ、神はあなたがたにも等しく邪悪な心をお与えくださいます」との返事。
 世の聖職者というものは、神の名前と教義を多少逐語訳変換すれば、皆同じことを言うものと見える――ヘプタは数少ない例外だが。
 信仰上の理由で礼拝には参加いたしかねるのです、と丁寧に断ると司祭殿、しかつめらしい顔をして頷き「そういうことなら――残念ですが。しかしいずれあなたがたも必ずここに来ることになるのですよ」と静かに言った。どうも薄気味悪かったので早々にその場を後にした。

クーリエ:「気にしなくてもいいですよ。ワタクシもあの寺院は嫌いでしてね」

 往来に出ると、クーリエが肩をすくめてそんなことを言った。

クーリエ:「いや、大きな声じゃ言えませんがね、あの寺院は神をまつると言いながら、我々アンデッドを滅ぼすための光の武器を隠し持ってるって噂なんですよ。そんなところの連中、誰が信用できますか」

 ――いや、物質界でも邪悪な何かを封じるためにそこに光の寺院を建てるというのはよくある話で……
 反論しようとしたが、何か意味論的な面倒が予測されたので結局誰も何も言わなかった。

 さらに行くと、川岸に出た。ネヴァーウィンターではネヴァー川が流れていた場所を、ここでは水でなく、溶岩がどろどろと流れている。

クーリエ:「ここ、昔は川だったのですよ。名前もありました。でも、ホートナウ山が噴火して溶岩が流れ込みましてね。水が流れていない以上、川じゃない。じゃあ何と呼ぶかというので議会が紛糾したまま、ここは名無しになってしまったのです――橋が落ちずに済んだのだけは幸いでしたがね」
ジェイド:「確かに……橋があれば辛うじて向こう岸には渡れる、ということか。渡し舟ではものの役に立つまいからな」
クーリエ:「船ですか、船ならありますよ」

 その言葉が終わらないうちに、溶岩の川の上に半ば透き通って揺らめく船の形が浮かび、ゆっくりとこちらにやってきた。幽霊船、というよりは船の幽霊とでもいったほうがよかろうか。甲板の上にはひとっこひとりいない。

ヘプタ:「ああ、あれじゃ乗れないな」
クーリエ:「それがちゃんと乗れるのですよ。れっきとした観光船です。みなさんには上流の燃える森を是非見ていただきたいと思いましてね」

 確かに眼には朧な姿だが、足の下にはしっかりとした甲板。一行が乗り込むと目に見えない水夫たちの声がして、船はすぅと岸を離れる。足元には流れる溶岩。さすがに暑い。というよりは熱い。
 具体的には〈持久力〉集団判定が要求されたのだが、これまた成功。幽霊桟橋から出航した幽霊船に乗った一行が行く先は――ホートナウ山の噴火で燃え上がって以来、絶えることなく燃え続けているという“燃える森”。普通に考えればとっくに燃え尽きて焼野原となっていそうなものだが――いかなる魔法が働いているのか、激しく燃える木々はいっこうに燃え落ちるようすもなく、ともすれば木そのものが炎を発しているかにさえ見える。

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クーリエ:「そう、ちょうどあの山が噴火し、この森が燃え始めた頃でしたよ。このエヴァーナイトの人口が一気に増え、街が栄え始めたのは……」

 森を挟んで噴煙を上げ続けるホートナウ山を見ながら、クーリエが感慨深げに言う。
 エヴァーナイトの人口が増えたというのは、即ち、ネヴァーウィンターで膨大な死者が出たということか。ヘプタが尋ねる。

ヘプタ:「ねえ、あんたがたアンデッドってのはどうやって生まれるんです?」
クーリエ:「……さあ。どこからともなく出てくるんですよ」

 それ以上はもう、誰も何も聞かない。



 名所はひととおり巡ってしまったが、しかし帰れるための手がかりはまだひとつもない。
思い余ってサーイの魔術師を頼ろうかとも思ったが、クーリエが「連中は本当に危険ですよ。なにしろ我々に対して見境がないですから」と言い出すので、やはり止しておくことにした。となると手がかりになりそうなのは――。
 ということで、ネヴァーウィンターではヘプタの部屋があった場所に行ってみることにする。
 
 途中、ネヴァーウィンターではネヴァー城があるはずの場所の脇を抜けた。
 ネヴァー城と同じだけの敷地に城の残骸が倒れ転がっていた。ただでさえ薄暗いエヴァーナイトでも、そこではひときわ影が濃かった。“どこにもない城”と呼ばれている、と、クーリエは早口で言い、速足でそこを抜けようとした。どうした、と問うと、こんなところに長居は無用ですよ、と、あたりを憚るように言った。

DM:「――なにしろね、あの城は幽霊が出るんですよ!!」
全員:『ちょっと待て』「お前グールじゃん、死んでんじゃん!」「幽霊と似たようなもんだろうが!」(全員笑)
DM/クーリエ:(沈痛な面持ちで)「――あの城に踏み込んだやつもいましたよ。でも誰一人生きて帰ってはこなかった……」
エイロヌイ:生きてかえって来たらダメだろ!(笑)
ヘプタ:たまに帰ってきたヤツが言うには「生きた心地がしなかった……」(一同爆笑)
サブマス/ジェイド:「アンデッドが生きて帰ってきたら甦りだよッ!(爆笑)」
エイロヌイ:アンデッド良いなぁ。可能性が広がる。
ヘプタ:「ああ、それは怖いッすね。幽霊ですもんね、怖いッすよね……いったいどんな幽霊が出るんで?」
クーリエ:「ああ、口にするのもおぞましいことですが、あの城にいる連中は我々アンデッドを永遠の飢えに閉ざすと言われているのです。ただでさえ常時肉を喰わずにはいられないというのに、その飢えが決して満たされない。なんと恐ろしい……」

 幽霊におびえるグールというのも色々と問題がある気がしたが、永遠の飢えをもたらすクリーチャー、と言えば納得できないこともない。これ以上議論を続けると形而上的な思考の迷路に陥りかねないので納得の気配が見えたところで早々に切り上げた。

 ネヴァーウィンターではヘプタの長屋があったところには、比較的見栄えのいい、しかし無人の集合住宅が建っていた。無人なら潜伏先にちょうどいいかと入りかけると、急に隣から人声がする。

隣人ゾンビ:「こんにちはー、ついさっき越してきたんですが……って、ヘプタじゃないか!!」

 見れば見知ったアシュマダイ。聞けばどうやらネヴァーウィンターで冒険者に殺されたとのこと。そして死んでも愛想いいのは変わらず、律儀に引越しのあいさつに訪れたらしい。

隣人ゾンビ:「いやァ、これからはアシュマダイの天下だってんで頑張ってたんだけどさ、俺たち結構ザコだったみたいで、冒険者に秒殺されたよ。死んだと思ったらここにいてさ。……で、ヘプタ、あんたァどういう死に方したんだ?」
ヘプタ:「生きてるッすよ!!」

 という、のどかだか物騒だかわからない会話を続けながら、一行、ふと不安になってくる。
 周囲はみんな死者で、それでも死者は死者なりに生きたり死んだり幽霊におびえたりしている。俺たちもひょっとして、気が付いていないだけでもう死んでるんじゃないか……?
 いや、これこそがシャドウフェルの罠。陰鬱でなくても、陽気に会話していたとしても、こうして生きている自覚がなくなっていくと、いつの間にか心が折れてしまうのだ。もっと生きている自覚を持たなくては。



 ネヴァーウィンターで死ぬとアンデッドとしてエヴァーナイトに出現する。
 ここはネヴァーウィンターの“死後の世界”なのだ。

 とりあえずそこまではわかった。この先どうやって、死者の道を逆に辿ったものか。考えあぐねているうちに、一行、いつのまにかまた死骸市場に戻っている。名所ならぬ冥所のひとめぐり。この先は、さて。
 思考も堂々巡りに入り始めたところで、突然の冷気、そして殺気が割り込んできた。

???:「お前たちか、墓場でさんざん暴れていたというのは」
???:「暇ならちょうどいい、俺たちが腕試しをできる相手がいなくてな」

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 どう聞いても聞かなくても因縁をつけるヤクザの台詞だが、見ればいかにも剣呑な二人連れ。
 生前の様子がなんとなく想像のつくいでたちの――というか鋲やら釘やら研いだ骨片やらをびっしりと身にまとったスケルトン、それに近づくものを全て氷漬けにするかのような凄まじい冷気を放つゾンビである。いかにも下品な二人連れに、最初に言葉を返したのは意外やエイロヌイ。

――こちらこそ、ちょうどよかったわ。うっかりこの世界に馴染んでしまうところでした。

 凍てつくゾンビ――チルボーン・ゾンビの冷気さえ押し戻しそうな冷たく美しい笑みを浮かべる樫の木の乙女である。

エイロヌイ:「あなたがたがどなたかは全く存じ上げませんが、売られた喧嘩は買いましょう」

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 チンピラアンデッド二人組、返事の代わりに手近にいたものに――チルボーン・ゾンビはヘプタに、そしてトゲトゲのスケルトンことボーンシャード・スケルトンはジェイドに殴り掛かる。やはりフェイワイルドの光を纏った樫の木の乙女には手を出しづらいらしい。

 そこへエイロヌイ、すかさずシルヴァナスの神威を叩き込む。
 ――無礼者、立ち去りなさい
 “ターン・アンデッド/アンデッド退散”。だが、これは苛立ちのあまり精神集中が伴わなかったか不発。しかしエイロヌイは素早く一呼吸置き、具体的にはアクション・ポイントを使用して妖精郷の光をその場に現出させる。“ダズリング・フレア/目眩む閃光”の技である。放つ瞬間にチルボーン・ゾンビからの攻撃を受けはしたものの、妖精郷の光はただでさえ光に弱い骸骨の身体の、しかも背骨を大きく砕いた。クリティカル・ヒットである。

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 ヘプタが凍てつくゾンビの前をこれ見よがしに走り抜ける。しかしエイロヌイの眼光に射すくめられた――具体的にはエイロヌイからマークされたゾンビは応報を恐れ身動きをためらう。その隙にヘプタ、悠々とクロスボウをシックルに持ち替え、スケルトンに斬りつける。たまらず身をよじったスケルトンから、無数の骨の欠片が飛び散った。

 ――敵の数を減らすほうが先決だ。
 ジェイドは身を翻す。ゾンビはエイロヌイに任せ、渾身の力を込めてスケルトンに剣を叩き付ける。確かな手ごたえにその勢いを駆って、具体的にはアクション・ポイントを使用して加えたとどめのはずの一撃は、しかし空しく振り抜かれる。

 アンデッドどもの攻撃を身軽にかわしながら、エイロヌイは樫の木の乙女の真の姿に戻る。
 喪擬死合のときの光の姿ではない。樫の木の乙女が樫の木の乙女たる所以、即ち木の姿である。皮膚は樹皮のごとく茶色く固くなり、多少の攻撃は跳ね返す。それが剣戟であれ、それとも凍てつく冷気であれ。従者のタランをスケルトンに向かわせておき、エイロヌイは押し寄せる冷気の中、凍てつくゾンビに斬りかかる。

 最初に片付いたのはスケルトンである。ヘプタのシックルに斬り飛ばされた箇所が大きく歪んだかと思うと、棘だらけのスケルトンは爆発四散した。残るは凍てつくゾンビ1体。

 ジェイドが剣の平でゾンビを叩き飛ばしつつその凍った肉体を砕く。怒り狂ったゾンビはエイロヌイに睨まれていたことも忘れてジェイドに殴り掛かった。たちまち神威の光が炸裂し、卑怯なゾンビに罰を与える。
 たたらを踏むゾンビを消し飛ばしたのは、今度もヘプタだった。コアロンのしるしの財布を握りしめた両手から放たれる“フェアリーフレイム・ストライク/妖精怪火撃”が、光と炎で氷のゾンビを焼き焦がしたのだ。

 因縁をつけてきたチンピラどもを真のあの世まで撃退し、さっきの恩返しにとばかり死神屋の武器をアピールする一行を見ながら、突然、クーリエが言った。

クーリエ:「あなた方がネヴァーウィンターに帰る手段、思いつきましたよ――この街の名誉市民になればいい。そうすれば道は開ける」

 なぜそうなるのか皆目見当もつかないが、帰れるというのならまずその手段を追求すべきだろう。どうすればその名誉市民とやらになれるのか――

クーリエ:「あっと皆が驚くような、派手なことをすればいいのですよ。例えばさっきのダーク・クリーパーの屋敷に火をつけるとか……」

 いや、さすがにそれはできない。確かに薄気味悪いが、角材を持って人を殴って回ったからといって家に火を放っていい法はない。ほかに何かいい名の上げ方はないのか。

クーリエ:「そうですね、例えば……」

 クーリエが言い出したのはこんな3つの“大仕事”。どれも負けず劣らず剣呑そうだが……

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 ジェイドはしばらく考えていたが、急にふっと笑った。
ジェイド:「デーモンの大穴に行こう。放火はただの犯罪だし、盗みも剣呑だ。デーモンの大穴にしよう。投げ込んだコインの裏表を確かめてこなくては」



ジェイドの決断

第二部第1回:
問い:「1日50gpと胸の肉1ポンド」の条件でグールの案内人を雇うか?
決断:雇いたいが、肉はともかく無い袖は振れない。1日あたりの給金をまけてもらう。

第二部第2回・その1:
問い:酒場で盛り上がるアンデッドたちにどう接する?
決断:郷に入ってそっぽを向いていてもしかたない。一緒に騒ぐ。

第二部第2回・その2:
問い:エヴァーナイトで名を上げるために何をする?
決断:デーモンの大穴に入る。そろそろ、タイモーラに捧げたコインの裏表を見に行くのも良さそうだ。


著:滝野原南生