-
第5話:異変
2018-08-23 13:0012「わりぃ、もうお腹いっぱいかも…」
箸を置きながら彼が言う。
仕事の関係で夜に家を空けがちな親に内緒で、私たちはほぼ毎日一緒に夜ご飯を食べていた。毎日私が献立を考えて、スーパーに食材を一緒に買いに行き、彼がゲームをしている間に作ってあげるのが日課だった。ちょっとした新婚生活だ。
「味、合わなかった? 苦手だった?」
私が申し訳なさそうに聞くと、彼は慌てて首を振る。
「すげー美味いよ。本当、料理上手だよな。でも最近、夏バテのせいか全然食欲がなくて…わりぃ…」
「そっか、じゃあ明日はしっかりスタミナがつきそうなご飯にするねっ」
私が言ったのを聞いたのか聞いていないのか、彼はどこか心ここにあらずといった表情のままテレビの前に寝転んでしまった。
最近、そんなことが増えた。毎日毎日一緒にいるから、マンネリなのかと不安にもなったが、それとはどうも違うのだ。明らかに彼の元気がない。
「ねぇ…」 -
第4話:海デート
2018-08-13 13:0010「おーい」
彼が部屋の外でドアをノックしているのを見て、私は飛び起きた。
時刻すでに午前6時。彼との集合時間である。
「わぁああ、ごめんなさい…!」
「ほらー、やっぱりお前寝坊するんじゃんかよー」
今日は二人で海に行く予定だ。少し不貞腐れた彼も可愛いけど、早起きが苦手な彼を無理矢理海に誘ったのは私である。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そんな私の脳裏に、昨夜の回想が蘇る。
午前三時に起きた私は、寝ぼすけな彼のためにサンドイッチを作っていた。慣れないながらもやっとのことで完成させた後、お弁当をしっかり包んで準備を済ませると少しだけベッドに横になった。横になった、筈だった…。
「ごめん…。でもはい、これ」
私は出かけるばかりに準備されたランチボックスを取り出す。
「え、なにこれ! なにこれなにこれ、許す!」
すごい勢いでランチボックスを開き、サンドイッチにかぶりつく彼。その -
第3話:夏祭り
2018-08-02 13:007「どうしよう…」
私は鏡の前で溜息をついた。浴衣の帯がなかなかうまく結べない。慣れない手つきで帯を結んで開いてら悪戦苦闘すること既に10分。
「うーん…わ、できたー!」
何とも言えない清々しい達成感を感じていると、ドアの向こうで笑い声が聞こえた。彼だ。
「お前、ぶきっちょかよ」
そう言いつつ部屋に入ってきた瞬間、私を見て動きを止める。一瞬の間。
「えっ、何、めっちゃ似合うじゃん。惚れ直したんだけど」
さらっと言う彼の一言に思い切り照れる私。と、彼も一緒に赤面する。どうやら自分で言ったセリフに恥ずかしくなってしまったらしい。可愛い。
せかせかと部屋を出て向かおうとする彼を追いかける。
「わーい、行こ行こ!」
私の頭をポンポン、と撫でながら彼が頷く。今日は、約束の夏祭りの日だ。そして、私にとっては彼に思いを伝えることを決めた大切な日でもある。
夏祭りの会場は凄い人だかりだった
1 / 1